2 ハイエナ達
1
パンドラの迷宮を踏破し、秘密の部屋を目指す。
それがウェンリーゼの行く末を決めるといっても過言ではない。
ウェンリーゼは元は小国でグルドニア王国よりも歴史は深い。グルドニア王国建国の際に、アートレイ・グルドニアによって統合された土地である。なので、ウェンリーゼの民はグルドニア王国国民というよりも、ウェンリーゼ国民といった意識が高い民も少なからずいる。
そういた歴史背景から、ウェンリーゼはほぼグルドニア王国に属しながらも自治領に近い扱いを受けていた。
長年そのような扱いであったために、今までは王都からも特に目立たなかった。何故なら、ウェンリーゼは海産物や塩の以外でのこれといった特産もない土地だったからだ。
唯一の旨味としては、迷宮が領内に三つもあるが王都から管理するにはコストが見合わないため六大公爵家も興味を持たなかった。
不毛な海ウェンリーゼ
それがグルドニア王国でのウェンリーゼの評価であった。
だが、昨今は違った。
ボールマン・ウェンリーゼが領主代行になってから不毛な海は変わった。
ボールマンがパンドラの迷宮を踏破し、秘密の部屋から持ち帰った叡智の一部が、人工魔石製作炉である。
魔石は様々な用途に使われるが一番は魔導具を使用する際の動力として使用される。そのため魔石は生活の中では必要不可欠なものとなっていた。
しかし、魔石は、迷宮の魔獣を倒した際にしか得ることが出来なかったのだ。
そんな中でウェンリーゼで稼働した人工魔石製作炉は革命を起こした。
迷宮でリスクを犯さず、安定して人工魔石を作り出す。しかも、人工魔石製作炉は管理や権利の関係で、大陸でもウェンリーゼでしか作ることが出来ない。
当然、冒険者教会や迷宮を管理する六大貴族のジルコニア公爵家からも反発はあった。
だが、ボールマンはウェンリーゼ産の魔導具を創る際の核としては、迷宮産の天然魔石以外は使用しない仕組を造った。
人工魔石はあくまでも魔導具に外付けで魔力を供給するエネルギーとして使い上手く巣見分けをした。
仮に人工魔石を核とした場合は魔導具がすぐさまスクラップになるものであり、このブラックボックスは大陸広しといえど、ボールマンとベン以外に調整不可能だった。
更にはウェンリーゼ産の魔導基盤は他と比較して数倍の魔力伝導率が高く。コストの面でも、ウェンリーゼは通常より半分程度の価格で供給した。
これに飛び付かない魔導技師はいなかった。
勿論、魔導具協会から反発は強かったが魔導具協会幹部の大半がベンの弟子であり、ボールマンの兄弟子達であったために、「なぁにを! たわけたこと抜かしとるか! お前ら本当にチンチンついとるのか! 」おやっさんの拳骨が炸裂して終わった。
また、ボールマンは大陸全土に『魔導ランプ』を支給した。外付けの小魔石で一ヶ月連続して稼働可能な優れものだった。
通常のランプよりも白光で優しい明かりで目も疲れにくかった。
これにより、夜の内職や作業効率があがった。
明るい光は夜を照らす叡智であった。
人々は一度知ってしまった贅沢からは離れられない。
これにより、上級である一級~三級の迷宮産魔石は逆に値が上がった。
魔石の質が良い程、質の良い魔導具が造られたからだ。
また、四級~五級魔石は値上がりこそしなかったが、値崩れもしなかった。
ウェンリーゼ産の人工魔石は基本的に無色透明なため、魔獣によって色合いが違う魔石は個性があるため、宝飾品として平民達の間で人気が出たのだ。
空前の魔導具ブームがやってきたのだ。
結果的にジルコニア公爵家と、国内外の流通を司るムーンストーン公爵家も人工魔石騒動により利益を得た。
今ではグルドニア王国の平民の家でさえ数種類の魔導具があるくらい国全体に魔導具は復旧している。
ただ、その魔導具を動かしているエネルギーは、ウェンリーゼ産の人工魔石がほぼ九割五分を占めている。
実力社会であるグルドニア王国でさえ、この十数年で男爵から侯爵にまで登り詰めたウェンリーゼの資金力や政治力は、もはや無視できないものであり、過去にこのような業績を成したものはグルドニア王国の歴史を紐解いてもボールマン・ウェンリーゼ以外いない。
ウェンリーゼの利権は今や、大陸全土の貴族達が注目し求めているものだ。
ウェンリーゼが欲しい。
ハイエナ達は今日も今日とて腹を空かせている。
海王神祭典によって、ボールマン・ウェンリーゼや腹心のほとんどはいなくなった。
今や、ウェンリーゼはガタガタである。
いるのは、ボールマンの血縁である身重の小娘だけであった。
必ずしも血縁者が領主になる必要はない。
御家断絶など、貴族社会では珍しいことではないのだから……
気がかりなのは『竜殺し』だ。
だが、所詮は最底辺と呼ばれた銀の豚である。なんなら、皇太子として祭り上げ、王宮を染めてもいいであろう。
ゆっくり、ゆっくりと
いつの時代も、いつ、何処に、カエルとイタチがいるかは分からないものだから
2
パンドラの迷宮十階層主部屋
『いっくわよぉー』
ゴオオォォン
「ぎいィィィ」
フェンズの大槍が階層主である大型個体魔猿を貫く。
魔猿は跡形もなく粉々となり、中魔石が残る。
「流石、フェンズ殿。私が今まで見た槍術でもかなりの腕前だな」
「ご主人様の仰る通りです」
アーモンドがフェンズを褒め、ラギサキがのっかる。
『あらぁん。ありがとう。アーモンドちゃんに、白猫ちゃん』
フェンズは攻撃を褒められて嬉しそうだ。
聖なる騎士アーモンド・グルドニア
白猫獣人にして白帝ラギサキ
防御を司りし四番目の機械人形フェンズ
三者三様の猛者達が秘密の部屋を目指して、パンドラの迷宮を攻略中である。
アルパインの交渉のかいあって多少なり時間に余裕ができたことから、会議から三日後にパンドラの迷宮攻略が始まった。
実をいうと攻略メンバーで難渋した。
まず身重のラザアは却下された。まだ、正式に領主任命は受けていないがボールマン亡き後に、ラザアの身になにかあればそれは、ウェンリーゼの存続自体の問題であるからだ。
アルパインは「ようやく、パンドラを攻略する日がきたか」と意気込んでいたが、シーランドによる《地震》の影響調査やら、ここぞとばかりにウェンリーゼで起こる強盗や窃盗、マナバーンによる被害と難癖をつける近隣貴族の対応のため却下された。
ランベルト亡き今、補佐には頭の回るリーセルスがつくことになった。
サンタとクロウは、懲りずにやってくるラザアの暗殺対応のため却下された。
シロと左利きがいないのが痛い。人材が足りない。
そんな中で、聖なる騎士アーモンド・グルドニアは、傷が癒えない身体でニヤリと嗤った。
どうやら狼は、海蛇だけでは腹がいっぱいに膨れていないようだ。
そんな時にウェンリーゼに珍しい来訪者がやってきた。
今日も読んで頂きありがとうございます。




