1 クラウド
1
「ハイケンは私にいった秘密の部屋に行けと。そこのクラウドに王都でのプランがあると」
アーモンドが皆にいう。
「秘密の部屋とは? 」
リーセルスがいう。
「秘密の部屋は、ウェンリーゼの最高機密だ。悪いが……」
アルパインが木人を見る。
部外者である木人には聞かれたくないようだ。
「秘密の部屋ってのはねぇ。人類の叡智が詰まった希望の倉庫ってところかねぇ。ハイケンの、ユーズの生まれ故郷だよねぇ」
「なっ! 何故あんたが、知っている」
「全ての機械人形の父、亜神ユフトの研究所だよねぇ」
「ぐうぅぅ」
「まぁ、秘密の部屋まで行くにはまず、パンドラの迷宮を攻略しないといけないけどねぇ」
「木人さんよう! あっあんた、本当に一体何者なんだ」
「ホッホッホッ、見た目以上の年寄りだよ。長生きすると何でも耳に入ってくるもんだよ。いいことも、悪いこともねぇ」
木人がアルパインにウインクする。
「叔父様、そんな部屋があったなんて初耳ですわ」
ラザアがアルパインにいう。
「……秘密の部屋は、俺も行ったことがない。あの場所に行けたのは、ボール、ラン、シロ、ジョー、おやっさんだけだ。お嬢も、覚えいないか、二ヶ月間ボール達が留守にしていたことを、帰ってきた時にはハイケンを連れてな」
「なんにせよ。ハイケンは言っていた。王都でのプランはクラウド? にあると」
アーモンドが確認するようにいう。
「ちなみにですが、ラザア様。ハイケンとユーズレスを直すことは、可能でしょうか」
リーセルスがラザアを見る。
「……残念だけど、私には無理だわ。ユーズは旧式といっても、正直今のウェンリーゼの技術では再現不可能だわ。多分だけど、ユーズは失われし時代に生まれた機械人形だと思う。ハイケンは、ユーズをベースにお父様が造ったと聞いているけど、残っているパーツは頭部だけだもの。修理というより、一から造り直す必要があるけど、ウェンリーゼの設備では……難しいわ」
ラザアが悔しそうにいう。
機械オタクで英才教育を受けたラザアの魔導技師としての腕は相当なものだ。だが、自分の腕はいまだ父であるボールマンの域に達してはいない。
「今、王都に行っても海王神祭典のシーランド討伐の功績というより、確実にマナバーンでの責任問題を問われるでしょう」
「要は晒し者ってことかよ! 」
「あなた静かに! 胎教に悪い」
アルパインが再び興奮するがシュンとなる。
「となると、我々の希望はハイケンがクラウドとやらに残したプランか」
アーモンドが鍵を持ちながらいう。
「アーモンド、ごめんなさい。悔しいけど私にはハイケンを、ユーズを直すことは出来そうにないわ」
ラザアが悔しそうに顔を伏せる。
「大丈夫だラザア。君はお腹の子を一番心配したらいい。リーセルス、簡単にいうとその秘密の部屋に行ってハイケンとユーズを修理出来ればいいのだろう」
「簡単にいえば、まずは時間がありませんので、ハイケンが秘密の部屋のクラウドに残したプランのを手に入れる。その後、施設での修理が可能かの調査です。アルパイン閣下」
「なんだ」
「理由は何でも結構ですので、ラザア様の王都召喚を引き伸ばせるように交渉をお願い致します。幸いにも、今回の召喚は王命ではありません。理由や手段はお任せします」
「了解した! って! 何で、少尉のお前が俺に指図するんだ」
アルパイン閣下のいうことは最もだ。
「……少し考えたんだけど、ハイケンは今の状況を把握していたとでもいうの」
ラザアが言った。
「……有り得ない話ではないかも知れません」
「リーセルスどういうことだ」
アーモンドがリーセルスに一人で納得するなという。
「ハイケンは《演算》を多用していました。元帥閣下ボールマン様の執事兼介護機械人形ハイケンは、表向きはボールマン様の行動を記録をする機械人形です。日常的に《演算》を多用し、ボールマン様の側でグルドニア王国のデーターを蓄積したハイケンは、つまり大陸のほぼ全てのことを記録していた。こうは考えられませんか。逆にいえば知らないことはほぼ無かった。そんな情報の塊からなるハイケンの《演算》からなるシュミレーションは我々の言葉でいう《予言》に近いものだったのでは無いでしょうか」
「なるほどね。だから、お父様はハイケンを執事として常に側につけていた」
ラザアには理解できた。
「つまりはなんだ」
アーモンドはもう少し分かりやすくいえという。
アルパインも頷く。
「未来を覗く力、それがハイケンの特性です」
木人がリーセルスに「大したもんだね」といった。
ホクトは「キャン、キャン」と鳴いていた。
2
会議はひとまず終了となった。
アーモンドは「ところでクラウドとはなんだ」言っていた。自分で言って意味は分からなかったようだ。
聖なる騎士となってもアーモンドは、アーモンドだった。
ラザアがアーモンドに「貴方のままで安心したわ」といった。
竜の血で穢れを払った聖なる騎士アーモンドは、見た目が丸々と太っていた姿から、一辺して痩せて引き締まった身体になった。
皆が「竜殺しの一撃はカロリーを相当使ったんだろう」と言っていた。
木人は「本来の姿に戻れて良かったねぇ」とよく分からないことを言っていた。
アルパインもクラウドの意味は分からなかったが、アルパインは頑張った。
王都からの召喚命令は一週間後であったが、身重のラザアがまだ安定期に入っていないという理由からゴリ押しで、一ヶ月後に時期をずらせた。
本来ならば理由が理由であれ、召喚命令の延期など前代未聞であった。だが、ラザアのお腹にいる子は、現国王であるピーナッツの孫にあたるのだ。王都の貴族達も、無理な召喚命令でピーナッツからの怒りを買いたくない。
今でこそ王となり多少は大人しくなったが、敵に回せば何をするか分からない『賭け狂い』の破天荒振りは王都では、有名である。
どうでもいいが、アルパインは純粋に痩せた。
秘密の部屋を目指して、パンドラの迷宮攻略が始まる。
今日も読んで頂きありがとうございます。




