21 剣帝クリッド
短めです。
1
『バイタルオーバー200に迫っています。強制シャットダウン状態になるか、ハーフヒューマンの解除をお願いいたします』
補助電脳ガードが選択を提示する。
『ハーフヒューマンの解除を選択する』
ユーズレスがハーフヒューマンを解除した。
人工筋肉が萎んでいき魔力供給が遮られる。全身から大量の蒸気が放出され、ユーズレスは尻餅をついた。
『ユーズ、大変だったな。馬帝フィールア、強敵だったな』
チルドデクスが危なかったなという。
『……』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を一回点滅させた。
どうやら、進化前のように言語機能はカタコトになったようだ。
ハーフヒューマンになってからの戦闘は圧勝だったが、実のところユーズレスも限界であった。
ブラックボックスからの魔力は無限に溢れていたが、戦闘毎の排熱処理が追い付かなかったのだ。ましてや、ボディ自体も中破に近い状態で各関節もオーバーヒートしていたところを、魔力による人工筋肉で無理矢理動かしていた。
万全の状態での進化ではない上に、叡智を極めたヴァリラート帝国の最高クラスのボディでさえハーフヒューマンの能力を制限しながらでなければいけなかった。
実際のところ、クリッドとの戦闘で体力と気力を削られていたことが勝因としては大きい。逆に消耗戦であったら、長時間稼働にユーズレスのボディが耐えられずにスクラップになっていただろう。
ハーフヒューマン……
天才魔導技師ユフト師ですら予想しえなかった機械の可能性、生命体としての機械……それは諸刃の剣であり、神すら手に余す存在のようだ。
『……ツカ……レタ』
ユーズレスが大の字になって天井を見上げた。
『テンス、本当にお疲れ様です』
『ユーズ、ありがとうな。鉄骨竜の……オール兄さんの仇をとってくれて』
チルドデクスも安堵する。
ブルブルブルブル
悪夢とはやはり身構えていたときはこないようだ。
影のないユーズレスを覆うように大きな馬の影が動いた。
2
フィールアに意識はなかった。
ほとんどが本能だったのだろう。
「ヒィヒィィン」
悪魔のような嘶きが五十階層主部屋を支配する。
『ユーズ! 』
チルドデクスが叫び。
『……! 』
ユーズレスと補助電脳ガードが動こうとするが、元々ボディがオーバーヒートしていたため稼働には時間がかかる。
今や、ユーズレスはただの木偶人形に過ぎない。
意識のないフィールアが黄金に一角を輝かせ、大の字になっているユーズレスに向かって蹄で踏みつけようと迫る。
「ヒィヒィィン」
その嘶きは獣を刺激した。
「メエェェェェ! 」
馬が鳴くなら羊も鳴く。
クリッドは目を覚ました。
だが、クリッドは先の戦闘におけるダメージと魔力消費により最高にバッドコンディションだ。
それも、フィールアと同じく無意識に近い極致だったのだろう。
キャハハハハハハ
クリッドは夢剣に笑われながらも神速の歩法でフィールアとの距離を詰める。
クリッドの剣に力や魔力は必要なかった。
クリッドは最後に眼に焼き付けた師である剣帝の構えを取る。その一振はおそらく、影骨ではなく肉体が万全の状態であったなら耐えられただろう最後の一振に酷似していた。
スパッ
迷宮最下層に一筋の風が吹いた。
「メエェェェェ」
クリッドは後にその一閃を十六夜とよんだ。
フィールアの黄金に輝く一角が斬られた。
カラン、カラン
静寂の中で音だけが世界を支配した。
ポロリ
クリッドの燕尾服から、ユーズレスから貰った干しいもが落ちた。
そろそろフィールア編終わります。




