20 キリキリ舞い
1
『人工筋肉の隆起により、予測的姿勢調節機構が最適化されていなかったようです……ビィー、ビィー、各関節でのプログラムに加えて環境適正も計算してプログラムしました』
補助電脳ガードがお節介を焼く。
『びっくりした。まだ、ハーフヒューマンには慣れないようだな。運動制御、運動学習、戦闘を行いながらの学習スタイルとなる』
チルドデクスもお節介を焼く。
『要は、ぶっつけ本番ってことかな……』
『テンスは元々、実践派です。感覚入力、運動出力システム、フィードフォワードおよびフィードバックシステム、認知処理は引き続き補助します』
『実践派は、我々、理論派には理解出来ない、ひらめきを出すからな』
チルドデクスが実践派は怖いなという。
「ヒィヒィィン」
フィールアが大地より魔力を吸い上げて黄金に光る。
フィールアはクリッドとの戦闘による体力は消耗し生傷はあるが、魔力は回復した。
ニュルニュル
先ほどの《生命讃歌》による蔓がいつの間にか、部屋の半分を覆い尽くすように増殖しており、複数の蔦がまるで意志を持つかのようにユーズレスを襲う。
ドクン、ドクン
ユーズレスのブラックボックスが脈打つ。
ユーズレスが一瞬だけ瞳を閉じるかのように空色の瞳を点滅させた。
ユーズレスが耳を澄ませる。
補助電脳ガードとチルドデクスには聴こえなかったがユーズレスは、ブラックボックスから声を聴いた。
(大いに肯定します )
『分かってるよ、ジスト兄さん! 《魔法抵抗》』
ユーズレスは左の掌を前方に出した。
シュン
掌が蔓に触れた瞬間に……
部屋の半分を覆い尽くしていた蔓が魔力の砂となった。
『凄い、神代級魔法だぞ』
チルドデクスが驚愕する。
『違うよ、デクス兄さん! 凄いのはジスト兄さんと本来のオール兄さんの《魔法抵抗》だよ』
ユーズレスの中でのジストとオールの力が発揮される。
「ヒィヒィィン」
フィールアが驚愕した。先に《多重魔法障壁》をレジストしたから分かってはいたが神代級魔法《生命讃歌》をこのようにあっさりと消滅させられるとは予想外だったのである。
フィールアは嘶きしながら上体を起こして《壁蹄》を放つ。
ビュン、ビュン
一発でも食らえば半壊する威力の《壁蹄》がユーズレスを襲う。
ユーズレスのブラックボックスが光る。
(いつまでもガードに甘えてばかりはいけませんよ。ユーズ)
『《演算》』
《壁蹄》は無属性魔力と純粋にフィールアの衝撃波のため《魔法抵抗》では完全にレジスト出来ない。
『そうだね。アナライズ姉さん』
(あなたが食べさせてあげたい人に作ってあげなさい)
『フェンズ姉さんはちょっと口悪いけど優しいなぁ《防御》、タワー六十階』
パリン
ユーズレスがバックパックの四次元より流体金属を取り出す。
流体金属がユーズレスの倍はある大きさの大盾を形成する。タワー最上階60階はユーズレスが持つ記録の中で最強の盾だ。
ドッシーン
《壁蹄》が大楯に当たるが弾かれた。
『鉄骨竜を一撃で破壊した攻撃を弾いた。フェンズの防御を理解したのか』
ユーズレスがゆっくりと大楯を構えながら歩を進める。
黄色いボディには所々に赤い魔力を帯びた人工筋肉が隆起し、蒸気を纏っている。
ユーズレスの中に怒りはない。
しかし、端からみたらそれは静かなる闘志を燃やした機械人形、物語に出てくる破壊神に見えた。
フィールアは《壁蹄》を幾度も放つがまるでユーズレスの大楯には効果はない。
『ビィー、ビィー、バイタルが150を超えました。限界は200です』
どうやら決着は近そうである。
2
ユーズレスがフィールアに接近した。
「ヒィヒィィン」
フィールアは《多重魔法障壁》を解いた。魔法を瞬時に無効化してしまうユーズレスの《魔法抵抗》の前では障壁も無意味と判断力したのだろう。
『ビィー、ビィー、フィールアが来ます! 』
パリン
ユーズレスが補助電脳ガードのアナウンスを聞いた直後に流体金属で作った大楯を解除した。
『タワー20階』
流体金属が大楯から、両腕に小さな丸盾として装着された。丸盾が籠手のように取り回しがよくなっている。
ユーズレスが防御から一変して、フィールアと接近戦を選択する。
フィールアが小細工をせずに一角を黄金に輝かせながら突進してくる。
ガァン
『《器用》』
ユーズレスが両腕を交差させ、二つの小盾で受け止める。
黄金に輝くフィールアの一角がユーズレスの二つの小盾にぶつかり火花が散る。
スッ
ユーズレスがいきなり両腕を脱力させる。フィールアは前方に力を込めていたために体勢を崩す。
パリン
ユーズレスが瞬時に小盾を解除する。流体金属は体積を減少させる。
キュイイィン
冷却ジェネレーターが最大限に稼働する。
(お前は痛みを知る機械人形になりなさい)
ブラックボックスからレングの声が聴こえた気がした。
『分かってるよ! レング兄さん! 《物理攻撃》』
右腕に再び膨大な魔力が供給され、人工筋肉が隆起する。
『姿勢制御を補助します』
補助電脳ガードがサポートする。
ドッカァァァァン
「ヒィァァィィァン! 」
溢れんばかりの蒸気を纒った右拳がフィールアの一角を殴打した。
フィールアが一角ごと地面にめり込んだ。
『バイタルオーバー180です。レッドゾーンに入りました』
フシュー
ユーズレスから蒸気が立ち上る。
ココロを持った機械が神馬を圧倒した。
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