19 やはり主役は遅れてやってくるものだ
1
黄色いボディの所々から排熱による蒸気が噴き出る。
四肢の関節には魔力を帯びた赤い人工筋肉が収縮と弛緩を繰り返し躍動する。【ブラックボックス】から、無制限に無限なる魔力が、全身に供給される。
『ハーフヒューマンに覚醒したため、バイタルが表示されます。安静時が60~80、戦闘時が80~130、限界値が200です。現在のバイタルは100です。痛みによる刺激と興奮状態です。悪くないコンディションです』
補助電脳ガードが客観的な評価をする。
『発音がスムーズだ』
ユーズレスが言語をスムーズに話す。
『疑似声帯器官の形成に加えて、オールの統合によりブラックボックスのポテンシャルが解放されました。情報処理能力は、アナライズ並みになります』
『二人ともありがとう。助かった』
『……ユーズ、鉄骨竜は何て言っていたんだ』
チルドデクスがユーズレスに問う。
『……オール兄さんは、上手く言えないけど満足そうだったよ』
『そうか』
『それと、機械ビールをがぶ飲みしてた。相当の酒飲みだね』
『……秘密の部屋には、混ぜ物なしの機械ビールが数十種類あるんだ。終わったら、一緒に飲もう』
『……終わらせてくるよ。オール兄さんのためにも』
ユーズレスが壁際のクリッドへ歩を進めた。
『かふぅ! ユーズ兄上、シャチョウ、お見苦しいところをお見せしましたメエェェ』
クリッドが申し訳ありませんとユーズレスと補助電脳ガードにいう。
『……そんなことはないさ、クリッドのカッコいいところしっかり記録した。お前はもう一人前だ、さっきは突き放したりしてすまなかった。これは、本機にガードとクリッドの冒険だ三人で挑まなきゃあ意味がなかった。本機を許し欲しい』
『クリッド、私もスミマセンでした』
ユーズレスと補助電脳ガードがクリッドを褒めて謝罪する。
「メエェェ」
クリッドは泣いた。
それは痛みによるものではなくて、嬉しい涙だった。
クリッドはようやく、二人に本当の意味で仲間だと認められたことがこの上なく嬉しかった。
『クリッド、オトウトの獲物を横取りするわけではないが、あとは譲って貰っていいか』
ユーズレスはクリッドにあとは任せろと気遣いをした。
クリッドは安心したのか「メエェェ」といって意識を失った。
2
「ヒィヒィィン」
フィールアが吠える。
フィールアは不機嫌だ。自分とおよそ同格に近い存在であるクリッドとの戦闘を楽しんでいたところに、スクラップとなった機械が割り込んできたのだ。
フィールアはまるで、「死に損ないはおとなしくしていろ」とでもいうようにユーズレスに向かって《壁蹄》を放った。
ビュン
「ヒィン? 」
フィールアの視界からユーズレスが消えた。
『ずいぶんと、楽しそうだったな』
バッキィィィン
ユーズレスがいつの間にかフィールアの後方にいて、顔面に殴打を食らわせる。
「ブィィィ! 」
フィールアが戦闘が始まってまともに攻撃を受けた。
『ビィー、ビィー、バイタル120軽度興奮状態を維持しています』
補助電脳ガードがユーズレスに状態を告げる。
『凄いな、このカラダは』
ユーズレスは意識がいつもよりも鮮明になり、カラダが軽く感じる。おそらく、擬似的な体性感覚を手に入れたことにより感覚のフィードバックが滑らかなのであろう。
『機械人形ユーズレスは無制限の魔力により現在、《演算》、《物理攻撃》、《防御》、《敏捷》、《魔法抵抗》、《器用》、《魔法》のコマンドが常時展開されています』
『《道具》は? 』
『《道具》のコマンドは特殊条件下によるものなので、任意での発現となります。また、コマンドを選択することで理解が深まります。しかし、現在のボディではバイタルオーバーとなるので排熱が追い付かなくなる恐れがあります。ご利用は計画的にお願いいします』
補助電脳ガードが注意点を説明する。
「ヒィン! ヒィン! ハィヒィィィン」
フィールアは顔面を殴られたことに対して怒りよりも、驚いた。
フィールアは両の眼をしっかりと開きユーズレスを視認した。
フィールアが《生命讃歌》で複数の蔓をユーズレスを捉えるように発現した。
「ブィィィ」
更には《壁蹄》で牽制する。
『《演算》』
ユーズレスは今までのフィールアの戦闘記録を解析する。
ユーズレスは《演算》導かれた未来予測のままに最小限の動きでフィールアの攻撃を躱しながら、フィールアに接近する。
『ヒィン! 』
フィールアは前方に《多重魔法障壁》を展開した。
『《魔法抵抗》』
ユーズレスは左の掌を《多重魔法障壁》にピタリと触りドアの取っ手を捻るかのように回した。
グニャリ
《多重魔法障壁》が無効化された。
『《物理攻撃》』
キュイイィン
右腕に魔力が集束し人工筋肉が隆起する。
フィールアは《多重魔法障壁》が破られるとは思わず防御が間に合わない。
『あれっ! 』
ユーズレスは転倒した。どうやら、部分的に魔力供給をしたことで姿勢制御が崩れたようだ。
「ヒィヒィィン」
フィールアが本能的に距離を取り、冷静にユーズレスを見る。
違う……フィールアは思考した。
先ほどまでスクラップ同然だった機械人形とは纏う存在の力が違うのだ。
豊穣を司るフィールアは、命の芽に対して敏感である。さきまで、機械人形からは生命を感じることなかった。だが、目の前の機械人形からは明確なる生命体としての力を感じる。
しかも、ユーズレスの核となるブラックボックスからは、神に等しい無限なる魔力を感じた。
「ヒィン! ハィヒィィィン! 」
フィールアがまたペナルティを覚悟で天界の祝福を使用した。
フィールアが地面より魔力を供給する。フィールアは大いなる恵みの大地より無限の魔力を供給することができる。しかし、これは天界に比べて魔力粒子の少ない地上では禁忌とされていた。
フィールアは既に、『獣神変化』により禁を破っている。それに加えて大地より無限の魔力供給を行った。
全ての父である大神にもフィールアの行動は知られているだろう。しかし、それでも負けるわけにはいかない。
神馬たる馬帝フィールアは負けるわけにはいかないのだ。
神なる馬が機械を敵と認めた。
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