18 ハーフヒューマン
一部、海王神祭典でのハーフヒューマンに進化した際の文面を抜粋してリテイクしています。
1
「メエエエェェ」
クリッドの神速の剣技がフィールアの《生命讃歌》で発現された植物を切り裂く。
「ヒィヒィィン」
だが、《多重魔法障壁》を纏ったフィールアがその隙をつき真っ向から突進してくる。
ガゴォーン
「ぐうぅぅぅ」
クリッドは燕尾服の自動防御カーテンで衝撃を受け流そうとするが全ての威力を殺すことは叶わず、吹き飛ばされる。
「かはっ! ……《強奪》」
クリッドは吹き飛ばされながらも魔力を練った。もう何度目になるか分からないが、クリッドは防戦一方になりながらも、《強奪》を発現しようとした。
その度に、フィールアの《壁蹄》による衝撃波に邪魔された。だが、今まさに死線を体験しているクリッドの集中力は凄まじいものだ。深紅の瞳が獲物を捉える。
クリッドの影から羊の形をした深紅の影がフィールアに迫る。
「ヒィヒィィン」
フィールアが足を止めて一角に魔力を集中させる。一角に光が集束し、光が弾け部屋全体を照らす。
「まっ眩しいメエェェ、がふぅ! 」
光により《強奪》による深紅の影は消失した。
ガァァン
フィールアはクリッドが光に怯んだ隙に、最短距離を走り前肢の蹄による殴打を放つ。
クリッドの腹部に殴打が直撃して壁にめり込む。
「かはっ、がふぅ、がふぅ」
クリッドは口から血を吐く。
かろうじて意識はあるが、アバラの二~三本は折れているであろう。鉄骨竜を一撃で屠ったフィールアによる蹄は、クリッドの燕尾服の物理耐性が非常に高かったからこそ、この程度で済んだのであろう。
高速戦闘を売りとするクリッドの足が止まった。フィールアがまるで、トドメだとでも言わんばかりに一角を向けて突進してくる。
「動けメエェェ! 」
しかし、クリッドの気迫とは裏腹にカラダがいうことを聞かない。
ドン
その刹那に、スクラップ寸前のユーズレスから光の柱が発現した。
2
後にユーズレスはこう記録した。
あの出来事は電脳によるバグだったのか。
ユーズレスの自身との対話だったのか。
鉄骨竜であったオールによるウイルスだったのか。
神様によるイタズラだったのか。
それとも……機械人形がみた夢だったのだろうか。
ポチっ
その音は、ほんの少しだけ大気を揺らした。
『ビィィィィ、ビィィィィ、ユーズレスがハーフヒューマンへの進化を選択しました。統合されたオールのココロノカケラをダウンロードしました。ユーズレスは、魔道を選択しました。ユーズレスはオールを統合したことで、ユフト師の四原則の理から外れたと存在となります』
補助電脳ガードが少し寂しげにアナウンスする。
『テンス……』
(大丈夫だ。ガード、準備万端だ……進化を頼む)
『ビィィィィ、ビィィィィ、機械人形ユーズレスは、半人造機械人形、通称ハーフヒューマンに進化します』
大丈夫だユーズ、お前なら大丈夫だ。
キカイノココロが聴こえた。
3
『ビィィィィ、ビィィィィ、ブラックボックスのセーフティーが解除されます。冷却ジェネレータは最大稼働、排熱をお願いします』
キュィィィィィィン
小気味のいい音とともに冷却ジェネレータが忙しく稼働する。
ガゴン、ガゴン、ガギン
けたたましい機械音が鳴る。
『ビィィィィ、ビィィィィ、外装甲からのダメージが内部フレームにまで影響を起こしています。一部の冷却ジェネレータの稼働が困難です』
(なんとかならないか)
『《演算》を発現します。現在、チルドデスクが外部ユニット扱いとなっています。本機とチルドデスクによる二重解析により、情報処理を補助、最適化を行います。ユーズレスが保有しているココロノカタマリに、統合したオールからダウンロードされたココロノカケラが加わります。ブラックボックスがケミストリーを起きました。ココロノカタマリにある痛みの数だけ魔力がチャージされます』
ブラックボックスがさらに輝きを増す。
『凄い情報量だ! ユーズがパンク寸前になるぞ! くそっ! やってやろうじゃないか! 』
チルドデクスが自身の《器用》を最大限に発揮して情報処理を補助する。
『ビィィィィ、ビィィィィ、魔力がチャージされました。本日限定でブラックボックスから無限の魔力が供給可能です。大盤振る舞いされた魔力で本日のみ稼働時間の制限がなくなりました』
(これなら戦える)
『ビィィィィ、ビィィィィ、冷却機構の代案として理解を深めた《魔法》を使用します。ユーズレスの外装甲に絶対零度・改を魔法として常時展開します。ユーズレスの内部器官に古代魔法《冷続》を発現します。ビィィィィ、ビィィィィ、排熱問題ありません。進化を継続します』
(さすがだな。ガード、デクス兄さん)
機械にとって過剰な熱はミルク以上の毒である。準備は整ったようだ。
『各器官にケミストリーが起こります。電脳からの全身への情報ネットワークが、魔力を媒介として「疑似神経」となります』
ユーズレスの全身に魔力を媒介とした網状の青い疑似神経が形成される。
『続けて、感知センサーに代わり疑似体性感覚が形成されます。感覚器のレセプターで、触覚、冷覚、温痛覚、痛覚が疑似的に形成されます。神獣フィールアによるダメージを痛みとして認識します。疑似受容器より主電脳に一次痛のフィードバックがあります。ショックに備えて下さい』
(なんだぁ! これわぁぁぁぁぁ)
鋭い突き刺すような痛みがユーズレスを襲う。スクラップに近いユーズレスは、初めての痛みにショックを起こす。
『過剰な痛みによる情報量を適切にフィードバックできません』
『くそ! ユーズ! しっかりしろ! 』
チルドデクスがユーズレスに声をかける。
『デクス! テンス単体には痛みに耐えられません! 私達で痛みを共有し軽減しましょう』
『了解した! 『ぐうわぁぁぁぁあ』』
チルドデクスと補助電脳ガードがユーズレスの痛みによるフィードバックを共有する。三体の機械人形は痛みを三等分した。
(オール兄さんが教えてくれた痛みは、キツいなぁ)
『ユーズレスは痛みを認識しました。続けて、疑似受容器より主電脳に二次痛のフィードバックがあります。ショックに備えて下さい』
(キツイなぁぁぁぁぁあぁっぁぁ)
『『がぁぁぁぁぁぁ! 』』
鈍いズーンとしたような痛みがユーズレスを襲う。先ほどの鋭い痛みよりは耐えられたようだ。
チルドデクスと補助電脳ガードも多少痛み耐性がついたようだ。
『続けて、人工筋肉が各関節に生成されます。魔力を媒介とします。人工筋肉が生成される際には収縮と弛緩を繰り返します。痛みが伴います。ショックに備えて下さい』
(お手柔らかに頼むぞ)
『痛いのは我々も嫌ですからね』
(ぐわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ)
『『がぁぁぁぁぁぁ! 頑張れ! ユーズ! 』』
ユーズレスはおかわりを頑張っている。
『ビィィィ、ビィィィ、主電脳が強制シャットダウンを状態異常《気絶》と認識しました。ビィー、ビィー、チルドデスクの補助により擬似的な状態異常無効状態となりました。強制シャットダウンは中断しました。排熱は代案により正常です』
(ニンゲンってこんな痛みに耐えてるんだな。クリッドは凄いな)
ユーズレスが壁際でボロボロのクリッド見て、自身を奮起させる。
排熱した各所の関節のから蒸気が吹き出す。関節から、赤い魔力を纏った人工筋肉が隆起している。
『ビィィィィ、ビィィィィ、進化が終了して覚醒となりました。機械人形ユーズレスが半人造機械人形に覚醒しました』
『……ニンゲンって……痛い……な』
ユーズレスは、感情を言語化しながらエメラルド色の瞳を点滅させた。
機械が少しだけニンゲンに近づいた。
連載開始して一年経ちました。
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