16 機械ビール
1
ユーズレスの《統合》が解放され、《育成》が促進された。
それは超大器晩成型のユーズレスにとって、第二次成長に似た現象であった。
『誠実は既にダウンロードされています。……ビィー、ビィー、誠実と誠実が統合されて責任感となりました』
夢の中でも補助電脳ガードは保護者として、最適化を行う。もう二度と、悲しい竜が生まれないように……
ポンッ
『ユーズ、あなたの作ってくれたデザート最高だったわ。あっちであなたの美味しいを言ってくれる人にも作ってあげなさい……きっと、喜ぶわよ』
フェンズがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《防御》と優しさを理解した。
「三つの特性が合わさった。オール、お前のデーターのおかげだよ」
ユフト師が過去の自分を悔いながらも前に進もうとしている。
『ユーズ、あなたの選択とあなたのこれからを大いに肯定します』
ジストが、いつまでも応援しているよといった。
ジストがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《魔法抵抗》と忍耐を理解した。
『ユーズ、私の特性は使いづらいかもしれないが、いつかお前の役に立てることを、お前のアップグレードを見守っている』
ツールがお前なら大丈夫だとユーズレスにいった。
ツールがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《道具》と好奇心を理解した。
『はぁ、夢のパシリ解放生活が夢だったとは……ユーズ、本機の《魔法》をよく使ってるみたいだけどな! 《魔法》四重奏なんて、無茶苦茶だからな! 全く、カラダ大事にしろよ! 』
ディックが自分より無鉄砲なオトウトを心配する。
ディックがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《魔法》と勇気を理解した。
『……機械人形の見る夢とは非常にいい体験をしました。あちらで本機に会うことがありましたら、是非、今日の出来事をあなた方の冒険を聞かせてあげてください』
アナライズが、良い旅をと別れをいった。
アナライズがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《演算》と知恵を理解した。
『……ユーズ、あっちの本機は頑張っているみたいだな』
デクスがユーズレスに聞く。
『今も、本機をアップグレードしようと一生懸命だよ』
『そうか、本機はその特性から個であり集団の機械人形だ。並列化ネットワークを有しているが、環境によってどうやら、それぞれに自我が芽生えたようだ。兵器としては致命的な欠陥だがな』
『デクス兄さん、本機達は兵器じゃないよ』
ユーズレスがユフト師を見たあとにデクスを見る。
『本機達、兄弟は皆! 誰かを幸せにする機械人形だよ』
ユーズレスがデクスにドヤ顔をかました。
『ハッハッハ、そうだったな。ユーズ、あっちの本機と、鉄骨竜……いや、オール兄さんを頼むぞ』
デクスがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《器用》と希望を理解した。
『ビィー、ビィー、機械人形ユーズレスが全ての特性のダウンロードに成功しました。システムを再チェックします……異常はありません。《演算》の結果、電脳が暴走する可能性は限りなくゼロに近いです』
補助電脳ガードがいつものようにアナウンスした。
ユーズレスは泣いた。
《統合》それは、兄弟を糧として自身を進化させるアップグレードだった。
勿論、兄弟達はユーズレスとオールのメモリーが合わさった虚像であり幻で、いわば電気信号である。
だが、そこには確かに愛があった。
涙が溢れるのは当たり前だ。
ナデナデナデナデ
膝をついて俯くユーズレスの頭部を撫でる柔らかい手があった。
ユーズレスは最後にもう一人、お別れをしなくてはいけなかった。
ユーズレスは決心したかのように顔を上げた。
『あのね、オトウサン……大好きだよ』
ユフト師が微笑んだ後にうっすらと靄になった。
ギィィィィ
部屋の扉が開き、オールが顔を覗かせた。
2
「ユーズ、お前一人だけか。みんなはどうした」
オールがユーズレスに問う。
『オール兄さん帰ってきてくれたんだね。みんなは……』
ユーズレスは言葉に詰まった。だが、オールはエメラルド色の瞳を点滅させて「なんとなく分かるさ」といった。
「歩ったんだが、靄からは出られなかった。この夢は半分は本機の夢だったんだな。そうか……陽だまりではなくて、辛い道を選んだんだな」
オールが自分とユーズレスに機械ビールの入った杯を持たせた。二人は乾杯をした。
『オール兄さんほどじゃないよ。それに、今はクリッドが本機のことを待ってくれている』
「馬帝フィールア、神馬は我々の想像以上の怪物だ。お前が行っても役に立たないかもしれないぞ」
『役立たずでも結構だよ。兄さん、正直なにも出来ないかもしれないけど、クリッドの側に居てやれる。自分だけ、安全なところで夢見てるなんて本当の役立たずになりたくない』
「……兄弟の成長とは早いものだな。お前は一番ユー坊に似ている」
オールは機械ビールを半分飲んだ。
『最高の褒め言葉だよ。オール兄さん、本機は考えたんだけどさ、本機の補助電脳になってよ。ガードみたいに! そしたら、一緒に旅の続きをできる。無理に《統合》される必要なんてないよ』
ユーズレスもオールを真似て機械ビールを半分飲む。
「ユーズ、嬉しい提案だがそれはできない」
オールがユーズレスの提案を断った。
グイッ
オールが機械ビールを一気に飲み干した。
そろそろ夢から覚めたいな。




