15 育成
1
『オトウサンは、オトウサンじゃないんだね……みんなも』
ユーズレスがエメラルド色の瞳を悲しそうに点滅させる。
ワイワイガヤガヤ
兄弟達は会話が聞こえないのだろう。変わらずに、食べ物を取り合ってはしゃいでいる。
「そうだね。正確には、ユーズとオールの夢が合わさってメモリーが復元した電気信号かな」
ユフト師が夢のない回答をする。
『オール兄さんと本機の? 』
「ああ、ユーズも《統合》が解放されたところまでは覚えているだろう。夢のベースはユーズの願望かな。きっと、クリッド君があんまりにもウメエェェといってたから無意識に味覚を欲していたんだろうね」
『……』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を点滅させた。実は照れている。
「そして、ここにいる子ども達はオールの中でダウンロードしきれなかった特性だ。ユーズのメモリーと合わさって兄弟機として具現化したものか……私も含めてね」
ユフト師がニコリと笑う。
ユーズレスは思考した。ちょっと困った時に見せる下手くそな笑顔は間違いなくオトウサンであると。
『オトウサン……本機は十年間ずっと一人だったんだ。ガードはいたけど、ずっと……オトウサンを、皆を探してたんだ』
「知ってるさ……ユーズが私を探していたこと、皆を見つけようと一生懸命だったこと」
ポンっ
『皆……』
いつの間にか、ユーズレスの肩に手が当たった感触があった。
ユーズレスが振り向いた先には、エメラルド色の瞳を優しく点滅させた兄弟達がいた。
『オトウサン』
「なんだい? ユーズ」
『ここにいるオトウサンや皆は本機やオール兄さんのメモリーかもしれない……だけど、偽物なんじゃないよね』
「……そうだな…お前の夢が導いた、キカイノココロなのかもしれないな」
ユフト師がユーズレスを抱き締める。ユーズレスは、両手が塞がっていた。
トクトクトクトク
ユーズレスはユフト師の心音を感じる。ユーズレスはそれをとても心地よく思う。
『オトウサン』
「なんだい、ユーズ」
『機械人形も夢をみるんだね。こんなにも、オトウサンが……温かいよ』
ユーズレスのエメラルド色の瞳から涙が溢れた。それは、機械人形からはあり得ない現象である。
「ユーズ、機械だって夢をみるさ、そして、夢を叶えられる。今のユーズが叶えたい夢はなんだい? 」
『……クリッドを、本機のクリッドを助けたい! 』
ユーズレスは泣きながら夢から目覚めなくてはいけないといった。
ユーズレスは叫びたかった。
本当にオトウサンに、皆にずっとずっと会いたかったと。
いっぱい本を読んで勉強したんだと。
いっぱい出来ることが増えたんだと。
たくさんの冒険をしたんだと。
始めてできた友達のような弟を紹介したいんだと。
ずっと、皆と夢を見ていたいと。
『本当は夢から覚めたくな……』
(ああ、ずっとこうしていたいなぁ)
「ユーズ……大丈夫だ。私達は大丈夫だ。全く、末っ子は本当に甘えん坊のワガママだなぁ」
『ごめんなさい』
「……謝る必要はないさ。ワガママをいうのは子の特権だからね。もう、クリッド君のお兄さんか。ユーズ、私が言えた義理ではいが、オールを頼む。あの子には、本当にツラい想いをさせてしまった」
『ううん、オトウサン。オール兄さんのメモリーが暖かかったオトウサンみたいに。オール兄さんは……端から見れば悲しい出来事だった。だけど、どんな形であれ、オトウサンの役に立てて嬉しかったんだと思う。じゃなかったら、あんなに楽しそうに皆とパーティーしなかったと思うよ。本機にはまだ分からないけど、キズナっていうのかな』
「絆か……私にもお前のように、ほんの少しでも勇気があればな。ユーズ、目覚めた世界はきっと、これから生きていく世界は残酷だろう。理不尽と絶望が日常的にまかり通る世の中だ。ツラいことも沢山あるだろう。それでも、その世界を愛して欲しい。ユーズレス、今こそ《統合》を解放しよう」
キュイイイン
ユフト師の言葉を合図に兄弟達が七色に光った。
2
「機械人形の父であるユフトが告げる。《統合》を解放、《育成》を促進させる」
ユフト師が呪文のように言葉を紡ぐ。
なぜだろうか。それはまるで、オールを鉄骨竜にしてしまった懺悔の言葉にも聞こえた。
十番目の子、《統合》を司りしユーズレスは兄弟機全ての特性を受け継いだ機械人形ではある。
だが、暴走を恐れたユフト師はユーズレスの自己進化を前提として、成長速度を制限した超大器晩成型として造った。
そのために、ユーズレスは《小》、《中》、《大》、《極》と特性の出力を使い分けている。だが、それはあくまで知っているプログラムを引き出しているだけで、理解していたわけではなかった。
実のところ、ユーズレスは補助電脳ガードのサポートを持ってしても、特性を半分以下でしか扱えきれていなかったのだ。
兄弟達がユーズレスに触れる。
『ユーズ! 本機の《敏捷》は誰にも負けない。迷ったら走れ、とにかく走れ』
一番槍はアギールだった。
アギールがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《敏捷》と無垢を理解した。
『順番というものがあるだろうに、ユーズ。オール兄さんを頼むぞ。《物理攻撃》は相手を傷付ける。お前は相手の痛みを分かる機械になりなさい』
レングがアギールに一番槍を取られて拗ねている。
レングがユーズレスにダウンロードされた。
ユーズレスは《物理攻撃》と誠実を理解した。
「ユーズ、二つの特性をダウンロードした。理論ではここまでがセーフティーだ。ここからが本番だぞ! 」
メモリーのユフト師が夢の中で神とオールに祈った。
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