14 ミルク
1
ギィィィィ
オールが扉を開けて部屋を出た。
ガギィィィン、ダン、ダン
ヒィヒィィィン
メエエェェェ
外では靄で見えないが何処からか戦闘音と怒声が聴こえる。
(クリッド君が頑張ってくれているが、そろそろ限界だろう)
(しかし、鉄骨竜の本機を一撃でスクラップにしたフィールア相手にここまで持つとは、真なる悪魔も伊達じゃあないな)
(遠隔操作で、研究所から予備パーツと換装ユニットを無理やりコネクトさせて強制アップグレードすれば何とか自爆シークエンスまで持っていけるだろう)
(範囲縮小したピンポイント自爆なら、クリッド君を巻き込まないようにしないとな。ユーズの舎弟なんだし)
(ユーズにまさか、機械以外の兄弟が出来るなんてな。運命神のイタズラにしても粋なことしてくれるな。ユー坊や)
オールはシュミレーションをしていた。ユーズレスを甘やかすことを決めたオールは、何としても脅威を排除しなくてはならない。
そして、ユーズレスの弟であるクリッドの生存は第二優先順位である。自身の生存よりも……
機械の四原則である、機械は自身を傷付けてはならないに抵触する行為である。
だが、それがユーズレスの夢を守るためにオールができる精一杯の献身なのであろう。
2
メエエェェェ
『……山羊、いや、羊? 』
ユーズレスが扉の方を向く。
「どうしたんだい? ユーズ? 」
ユフト師がユーズレスに聞く。
『いま、なんか山羊みたいな羊みたいな、なんか懐かしいような、親しみのあるような』
「私には聴こえなかったけど、皆が騒ぎすぎるからかな」
ワイワイガヤガヤ
部屋では兄弟達が残りのデザートを取り合ったり、誰がビンゴでズルしただの、非常に騒がしい。
『ユーズ、デザート無くなったからまた追加で』
『ついでに、紅茶かコーヒーも』
『本機は爆裂黒炭酸ミルク氷菓のせをおかわりだ! 』
『『『本機も! ! ! 』』』
皆は騒がしくユーズレスのお・も・て・な・しを楽しんでくれている。
『ああ、うん、待っててすぐに用意するから』
「皆ワガママだなぁ、誰に似たのやら。ところでユーズ、その手に持っているカレーは誰の分かな」
『えっ!? 』
ユーズレスが手元に視線を移す。その手には、揚げ芋トッピングチーズましましカレーと干しいもが握られていた。
「干しいもかぁ、私の大好物じゃないか」
『うん、そうだね。あれ、このカレー誰の分だろう? 』
「もしかしたら、ボンドの分かな? 彼はアリスの子だけど兄弟機みたいなものだからね」
『ああ、そうだね。ボンド……いや、違う……ボンドの分じゃない』
ボンドはどうやら今回に限り仲間外れのようだ。
「兄弟が多いからね。数を間違えたんだろう。ちなみに、その干しいもは私が貰ってもいいかな」
『うん、勿論だよ。オトウサン』
ユーズレスが左手に握られた干しいもをユフト師に差し出すが、何故かその動作はぎこちない。
『あれ、なんだ! なんだか手が動かないよ』
「ユーズ、本当は他にカレーと干しいもを食べさせたい相手がいるんじゃないかな? 」
ユフト師が優しい瞳でユーズレスのエメラルド色の瞳を覗く。
『うん……でも、誰だろう……思い出せないな』
「その人も私のように、干しいもが好きだったのかな」
『えーっと、なんだろう。その誰かは、いつも美味しそうに干しいもを食べてたんだ。始めて干しいもを食べた時は、美味すぎて感動してた』
「そうか、干しいもも嬉しいだろうね。他には」
『スッゴイカッコつけてるんだ。紳士ぶってはいるんだけど、子どもみたいに癇癪起こして、泣き虫で……』
「ケンカもして……」
『そう、オトウサンが造ってくれたボディの色を馬鹿にされて……あれ、燕尾服! 真っ赤な燕尾服……顔は思い出せない』
ユーズレスが何かを思い出そうと必死である。
「カレーも好きだったのかな? 」
『カレーは……食べてなくて、でも、いつも本機が作った料理をウメエェェって食べてくれて……』
「ユーズ、電脳がオーバーヒートしてしまう。ミルクでも飲んで落ち着きなさい」
ユフト師が、両手の塞がっているユーズレスの口にミルクを入れる。
『あっ! オトウサン、ダメだよ。ミルク……はボディがサビ……ない……確か、ミルクが好きな……山羊? 機械は……ご飯を食べれない』
ユーズレスはミルクが機械に毒だということを思い出した。
ユーズレスは、大切なオトウトのことを思い出した。
「おはよう、ユーズ」
夢の中のユフト師が迷える機械を起こした。
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