13 ゴーレムが見た夢は
1
ユーズレスの電脳夢の中
ヒタヒタヒタヒタ
「さてさて、覗きは趣味じゃないがお寝坊さんを起こすとするか」
オールはヒタヒタと道のりを歩く。周りは靄がかかったかのように白く視界が悪い。
ワイワイガヤガヤ
「なんだか楽しそうな声がするな」
オールは声のする方へ歩を進める。
白い靄の向こうには扉があった。オールの見覚えがある扉である。
「これは、ユー坊の研究所の扉じゃないか」
オールが小さな身体を扉の隙間に入れて中に入った。
「これは! これがユーズの理想郷なのか」
オールが見たユーズレスの夢は……
『みんな出来たよ! 今日は腕によりをかけて作った唐揚げマシマシ半熟卵トッピング無限カレーだよ』
ユーズレスが兄弟達の夕げを作って食卓に持っていく。夢の中ではユーズレスの言葉遣いが流暢である。
『『『やったー! ! 』』』
ユーズレスシリーズの兄弟達は喜ぶ。
「ちょっと、私には重いなぁ……」
『胃腸の弱いオトウサンには、手打ちとろろ蕎麦を用意したよ! 十割蕎麦じゃなくて、のど越しのいいニ八蕎麦にしたよ』
「おぉ! 流石、ユーズ! 出来る子だね」
ユーズレスはドヤ顔でユフト師に出来る子【アピール】をする。
『ユーズ、飲み物は勿論! 』
『アナライズ姉さんの好きなマンゴーっぽい果肉ラッシーだよ』
『ああん、優秀すぎるわ』
アナライズがユーズ特製ラッシーに骨抜きにされる。
『ユーズ! 私のアレはあるのかしら』
『勿論だよ! フェンズ姉さん、デザートには姉さんの好きな朱紅玉アップルパイに、朝どれ卵で作った濃厚過ぎるプリンも用意したよ』
『キャー! 流石、私の愛する弟ね! 大好きよ』
『へへへへ』
兄弟が皆いるからだろうか末っ子であるユーズレスはパシられながらも甘えたような口調である。
端から見ても微笑ましい。
『うまい! うまいぞ! ユーズ! 』
アギールが唐揚げを食べながら部屋の中を爆走する。
『このルー、スパイスの調合は素晴らしいアップデートだ』
『きっと黄金比率を見つけたのだろう! 素晴らしいアップグレードだ』
『……大いに肯定します』
『デクス兄さん、ツール兄さん、ジスト兄さん。それ、市販のルーだから』
『『『……』』』
三体の舌はポンコツのようだ。
『ああ、うまい! パシりを卒業して食べる飯は最高に上手い! ありがとうな、ユーズ 』
『好きでやってることだから気にしないでよ、ディック兄さん』
ディックはユーズレスが誕生するまでよほどイビられていたのだろうか、泣きながらカレーを食べている。
『おおお! そんな隅っこでなにしてるんですかオール兄さん! こっちに来て皆で食べましょう』
レングが扉の前で佇んでいたオールを見つける。流石は気配りなレングである。
「なっ! 本機のことが分かるのか? 」
『何を寝ぼけてるんですかオール兄さん、早くしないと失くなってしまいますよ』
レングがオールの手を引く。
オールがいつの間にか鉄骨竜の姿になっていた。
『『『オール兄さんお帰りなさい』』』
皆がオールの帰りを迎える。
『ユーズ、おかわりはあるか? オール兄さんは身体がデカイから百人分は食べるぞ! 』
『大丈夫だよ! アギール兄さん、そう思ってガードが《演算》で二百人分の材料を用意したから』
『……まあね』
補助電脳ガードが恥ずかしそうにいう。
『ツール! オール兄さんの椅子を』
『了解しました。レング兄さん《道具》アップグレード! 』
ツールが即座に椅子の座面の面積と強度をアップグレードした。
『さぁ、兄さんどうぞ』
パシり体質が抜けないディックが誘導する。
「あ、ありがとう」
オールが言われるがままに座る。
「オール、お帰りなさい」
オールが座った隣には……
「……ただいま、ユー坊」
もう会うことが叶わない優しい笑みをしたユフト師がいた。
オールがユーズレスの夢に引き込まれていった。
2
ワイワイガヤガヤ
それは夢の中であったが夢のような時間だった。
オールは皆と語り合った。
レングが気を利かせて用意したビンゴ大会の景品では特賞のオイル風呂を引き当てた。
アギールが生ビールを飲み干し慌ただしく部屋をグルグル回り、フェンズのデザートも食べてしまった。
一瞬、修羅場となった。
ビール瓶の蓋があいてシャンパンファイトのようになった。
ディックが虹を作る魔法を出すといって失敗して、皆のボディが虹色に発光した。
「ハッハッハ」
『『『笑い事じゃない! 』』』
オールは笑い、数名に怒られた。
ユーズレスが最後に爆裂黒炭酸ミルク氷菓のせを持ってきて皆をなだめた。
オールは楽しかった。
ユーズレスも片付けが大変だったが楽しかった。
ユフト師は笑顔を絶やさなかった。
「このまま夢を見続ける方がユーズにはいいのかもな」
オールが呟いた。オールが席から立ち上がった。
『オール兄さんどちらに』
レングがオールに問う。
「ちょっと忘れ物をした。皆は楽しんでくれ、ユーズとユー坊を頼むぞ」
オールは決心した。フィールアは自分がなんとかしようと。
(秘密の部屋の予備パーツと換装をフルで使用すれば)
(小規模自爆シークエンスくらいならできるか)
オールは、フィールアを道連れにしないまでも撤退させることは出来るかもしれないと思考した。
『オール兄さん、外は寒いから気を付けて』
ユーズレスがエメラルド色の瞳を点滅させた。
「ああ、お前は皆と陽だまりの中にいなさい」
オールが、部屋の扉を開けようとした刹那に……
メエエェェェ
扉の外で羊の鳴き声が聴こえた。
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