12 トカゲ芝居
お忘れの方もいるかもしれませんが、補助電脳ガード=始まりの機械人形インテグラです。
1
ユーズレスから光の柱が発現する。
『何がどうなっているんだ。こんなアップデートはマニュアルにはなかったぞ。これが、超大器晩成型……《統合》の力だとでもいうのか』
チルドデクスはあり得ない事象を分析するが解析不可能である。
七番目の子デクスはインテグラやアナライズに次いで、ユフト師の研究を手伝ってきた。ユーズレスを製作するに至っても全容を知っている。
ハーフヒューマンへの進化等、プログラムされていない。
『ユーズ、お前は……生命体に、神か悪魔にでもなろうとでもいうのか』
チルドデクスは、ただ光の柱を見つめることしか出来なかった。
2
電脳内にて
『テンス! テンス! 起きなさい! テンス! 』
補助電脳ガードが眠ってしまったユーズレスを起こそうとする。
「無駄だよ。ガード、今のユーズレスは夢を見ているのだから」
『オール、貴方はテンスに何をしたのですか! 』
いつもは冷静でたまに破天荒を発揮する補助電脳ガードの声からは怒気が漏れる。
補助電脳ガードの目の前にはいつの間にか、トカゲ型機械人形だったころのオールがいた。
「久しぶりだよ。鉄骨竜じゃなくてオールと呼ばれたのはね。ありがとうガード。いや、始まりの機械人形インテグラ」
『何をいっているんですか! 』
「とぼけてもダメだよ。この電脳のメモリーのあらましは既に解析させて貰ったからね。《統合》を司りし、成長したユーズレスを統合する予定のインテグラとでもいった方がいいかな」
『……オール、あなたは相変わらず何も知らないくせに、重要なとところを突いてきますね』
「トカゲの時は言語機能がプログラムされていなかったからね。こうしてあなたと話すのは初めてかもしれないね」
『あれだけ一緒にいたのですけどね』
「ユー坊も入れて三人でね」
『……昔話をしに来たのですか? それとも、私を軽蔑しに……いや、笑いに来たのですか』
「えらく卑屈になったなインテグラ。残念だけどあまり時間がないからね。そんな下らないことはしないよ」
『では一体何を! 意図せずに《統合》が解放されました! ハーフヒューマン? これもあなたのウイルスですか!? テンスを返して下さい! 』
「誤解があるようだね。本機は何もしていないよ。ただ、ユーズレス、ユーズを助けただけさ、まさかさっきみたいに殺意が暴発するとは予想外だったけどさ。まぁ、本機のことで怒ってくれて嬉しかったけど、本機もユーズのスクラップを望んではいないよ」
『だったら、ハーフヒューマンのプログラムはあなたの意図ではないと! 』
「ハーフヒューマン、人造機械生命体とでもいった方がいいかな。凄いよね! まさに神話の時代から遡っても初めての偉業だよ! 機械が意思を持った生命体へと進化するんだ。きっと、機械はこれからも進化するよ。可能性は無限大なんだ! そんなユーズを貴方が《統合》するんだよ! まさに、ユー坊の夢が叶うんだよ。機械と人間の違いが失くなるんだ。ああ、今やニンゲンはほとんど地上からいないからね! インテグラ、あなたを王とした機械帝国を造り上げるのさ。お好みのプログラムを組み込んだ戦争のない仲良しの帝国をね! 」
オールは興奮したかのようにエメラルド色の瞳を何度も何度も点滅させた。
『……』
補助電脳ガードは黙ってしまった。
「どうしたんだい? インテグラ、いつも透明な感情の貴方が幾分か電気信号の揺らぎを感じるよ。君らしくないな」
『……まれ』
「何だって!? 」
『黙れっていってるんだよ! このトカゲ野郎が! まだ、頭ん中バグってんじゃねぇか! そんなんだから、デッカイトカゲになってビィー、ビィー、騒いでンだよ! もっかいスクラップにしてやろうか! 』
「ずいぶん、合理的じゃない回答だね。インテグラ、最後にごっつぁん……一番君が得をするんだからもっと効率良く、物事を解釈しようじゃないか」
『黙ってろ! お前なんてな! プルプルプルプルいってるのがお似合いなんだよ! 急にカッコつけてべしゃりやがって! いいか、私の可愛い子に何かしてみろ! 解体したあとに、ドロドロに熔解して馬の餌にしてやる! 馬も喰わないだろうけどな! 』
補助電脳ガードの猛攻は止まらない。
インテグラだった時ですらこんなに感情を露にしたことはない。
「プププ……ハッハッハハッハッハ! 変わらないな!インテグラ、ユー坊が苛められると言葉が汚くなる癖。ユー坊の時より酷いな、それだけユーズのことが可愛いのだね。安心したよ、インテグラ、本機の友よ」
オールがエメラルド色の瞳を点滅させた。そして、両手を挙げて参ったと降参した。
3
『……オール、まさか……私を試しましたね』
実体のない補助電脳ガードが一杯食わされたとプルプルと怒っている。
「ニンゲンに猿芝居というものがあるらしいね。まあ、トカゲだからトカゲ芝居になるのかな」
『相変わらず……センスがありませんね。変わっています』
「今に始まったことじゃないだろう」
『何故に自信満々なのですか』
「本機はさておき。勿論、自信満々だったよ。インテグラがユーズを大好きだってことがね。失礼だけど、君のメモリーを見せて貰った。ユーズとクリッド君とは上手くやっているみたいだね。まぁ、鉄骨竜だった私の討伐というのが些か悲しいけどね……」
『……ユー坊はやはり』
「それについては、本機の口から何も言えないな。幾つ言葉を重ねても本機から口にするのは、今まで苦難を乗り越えてきた君達の冒険に失礼だからね。自分達で見てくるといいよ」
『貴方はどうなるのですか』
「プププ……自分でも分かっていたけど随分と悪いことしたからね。最後は兄弟の役に立ちたい」
『自己犠牲もいき過ぎるとキモッですよ』
「今日はディスりまくるね。まぁ、きっとそのキモッというのが本機のココロなのだろう。先の君の感情の揺らぎのようにね」
『……キモッは言い過ぎでした。謝ります。ユフト師の子であり友である機械人形オールに、貴方の献身に最大限の敬意を』
「気にしなくてもいいよ。半分は好きでやってることだからね」
『もう半分は? 』
「……うーん、言葉では表現出来ないな、なんだろうな。本機の証明かな、適当だけどね」
『やっぱり、あなたは変わってますね。いつも、面倒事を起こしてわざとユー坊と皆の縁を作っていたこと。ユー坊は気付いてましたよ』
「御主人は機械の気持ちが分かるからね」
『世界中の誰よりも』
「『ハッハッハハッハッハ』」
「本機はちょっとばかし、寝過ぎた末っ子を起こしてこよう。挨拶くらいはしたいからね。インテグラ、いや、ガード。大丈夫だ。ユーズレス計画……恐ろしい計画だ。だけど、君なら大丈夫だ」
『私はユー坊の意思に従うだけです』
「だったら余計に大丈夫だ……いつか君にも本機の気持ちが……分か……る」
オールの身体が薄くなっていく。どうやら時間のようだ。
『オール! オール! 』
「だってね……インテグラ……私達の御主人は、世界中の誰よりも機械の気持ちが……分かる……から……ね」
オールが言霊を残して消えた。
『オール、本当に貴方は……変わっていますね』
補助電脳ガードが最後まで悲しそうに友をディスった。
補助電脳ガードは少しだけキカイノココロが軽くなった気がした。
今日も読んで頂きありがとうございます。
時系列として、海王神祭典の遥か昔の話なので始めてハーフヒューマンになる前提ですね。




