11 献身
1
「弟君、近衛騎士に推薦してあげようゲコ」
近衛騎士は帝国の王族直属の親衛隊である。つまりは、戦争の前線には出兵せずに王宮の守備が役目たる王族の剣であり盾である。
「妹さんは、何か病気を患っているなら外国に行くのは難しいよねククク」
昨今、大陸では疫病が発生して少なくない数の死者が出た。各国で独自のワクチンを開発、隔離等様々な対応をしている。そのため、病気に関しては現在非常にデリケートになっているため、入国制限等の水際対策が取られているのだ。
「……あなた達はいったい何をいっているんですか」
ユフト青年が目を見開く。
「「その代わり分かってるよね」」
悪魔達の視線がユフト青年の見開いた目を見たあとに、肩にいるオールを見る。
「何を馬鹿なことを言っているのか! 私には分かりません!
」
その時だった。
ユフト青年の肩に今まで無邪気にじゃれていたオールが何かを決心したかのようにエメラルド色の瞳を点滅させた。
「プルルルルルン」
「オール、どうしたんだ? 待て! いくな! 」
ピョン
オールがユフト青年の肩からフロッグ宰相の肩にピョンと飛び乗った。
オールの質量が失くなり、軽くなるはずのユフト青年の肩が何故か重くなった。
「ハッハッハ、このトカゲ君はどうやら御主人より頭の回転が速いらしいゲコ」
「いやー、流石稀代の天才魔導技師ユフト師のペットだ。しっかりと我々の言葉遊びを理解しているようだね! ああ、ちなみに我々はあくまでもお願いで強制はしていないからね。古代の【ハラスメント】と勘違いしないようにねククク……いや、いや、失礼、失礼したククク」
「待ってください! オールは私の家族なんです! 」
「プルルル」
オールがユフト青年に心配しなくても大丈夫だよとエメラルド色の瞳を何度も点滅させた。
「心配する必要はないさ、ユフト君。なんたって君が失敗しなければいいのだからねククク」
「ゲーコ! ゲーコゲコゲコ、期待しているよ」
フロッグ宰相がさっきほどまでオールがいたユフト青年の肩をポンと叩き去っていく。
オールを連れて去っていく。
「オール! 」
オールはユフト青年に振り返ることはなかった。
2
『ボディの調整には成功しました。後はベースとなる電脳とブラックボックスを移植するだけです』
インテグラがアナウンスする。そのアナウンスは些か悲しげである。
「さあ、準備万端のようだねククク」
「楽しみだねぇ。ゲーコゲコゲコ」
「お待ち下さい! 一気に八つ全ての特性をダウンロードさせるのは危険です! まずは、《演算》、《物理攻撃》の二つをダウンロードさせてから、時間をかけて調整すべきです! 」
ユフト青年は実験を慎重に進めるように進言する。
「ユフト君、どうしたんだい? そんなに慌ててククク」
「少し落ち着いたらどうかねゲーコ。ところで知ってるかね? 古代語でこのような言葉がある。【時は金なり】とねゲコゲコゲコゲコ」
フロッグ宰相がダウンロードのスイッチを押した。
「やめろぉぉぉぉ! 」
『グギヤァァァァァァァァァァァ! 』
国崩しの荒ぶる竜が誕生した。
『オール! オール! 電脳に呼び掛けていますがエラーです。情報過多により正常なフィードバックが困難となっています。ビィー、ビィー、情報処理が間に合いません。情報のうねりが瘤となりました。電脳に情報の瘤が引っ掛かり擬似的な脳疾患となります。情緒を司る前頭葉が損傷しました。ビィー、ビィー、自我を失ったプロトタイプユーズレスであるオールは暴走状態となります』
インテグラが危険をアナウンスする。
「くそっ! だから言ったんだ! インテグラ、緊急拘束を! 」
『緊急拘束が承認されました。グレン鋼鉄性の拘束具を使用します』
ガシャン、ガシャン
オールの手足が最高硬度を誇る拘束具によって自由を奪われるが……
『グギヤァァァァァァァァァァァ』
バキン、バキン
荒ぶる竜には意味をなさない。
キュイイィィィン
オールの冷却ジェネレーターが稼働する。
『オールの内部で高エネルギー反応を感知! ブレスが発現します』
「不味い! 伏せろ! 」
『グギヤァァァァァァァァァァァ』
竜の怒りによるブレスは研究所を半壊させた。その後もオールの破壊行動は止まらない。
「ハッハッハ! これはすごいゲコ! こんな兵器を造ってしまうとは、流石はユフト君だゲコ」
「これならば、西のやつらを皆殺しに出来るでしょうなククク」
「待ってください! オールドラゴン計画はあくまでも防災や救助が目的のはずでは」
「ああ、そうだったかなゲーコ」
「ユフト君、君は若いから分からないかも知れないが時勢とは常に流動的に変化しているのだよ。君のペットは祖国のために大いに役立ってもらう。寂しかったら、大丈夫さ、ユフト君、君は天才なのだから、また造ればいいのだからクククククク」
フロッグ宰相とウイーゼル長官はひどく上機嫌だ。
「あなた方は、本当の悪魔だ」
ユフト青年が悪魔達を睨む。
二人の悪魔は「よく分かったね」と笑う。
「確かプロトタイプユーズレスだったかな、オールは生まれ変わったのだよ。新たに名を授けようゲコ」
「荒ぶる竜、機械人形の竜、そうだ鉄骨竜なんていいのではないかねククク」
『グギヤァァァァァァァァァァァ』
オールであったものが鉄骨竜となった。
「オォォールゥゥゥゥゥ!」
ユフト青年はいつまでも諦めずに声が枯れるまで鉄骨竜の名を叫んだ。
「ゲーコゲコゲコゲコゲコ! 」
「ククククククククク! 」
フロッグとウイーゼルが飽きもせずに嗤った。
3
『ダウンロードが完了しました。テンスのブラックボックスが共鳴しています』
……
ユーズレスは、オールの感情である勇気を理解しました。
ユーズレスは、オールの感情である哀しさを理解しました。
ユーズレスは、オールの感情である優しさを理解しました。
ユーズレスは、オールの感情である友情を理解しました。
ユーズレスは、オールの感情である誠実を理解しました。
ユーズレスは、オールの感情であるココロノイタミを理解しました。
ユーズレスは、オールの感情である自己犠牲を理解しました。
自己犠牲は既に獲得済みです。自己犠牲と自己犠牲が理解を経て献身へとなりました。
ユーズレスは、オールの感情である献身を理解しました。
『ビィィィィ、ビィィィィ、テンスが機械人形オールのブラックボックスのメモリーを統合して、オールのキカイノココロを理解しました。ユーズレスのメモリーにあるキカイノココロが強く共鳴しています。今まで貯めた、ココロノカケラがココロノカタマリになります。機械人形ユーズレスは人造機械人形に進化可能です。人造機械人形に進化しますか/進化しませんか』
ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させた。
今日も読んで頂きありがとうございます。




