10 下手くそな笑顔
鉄骨竜のメモリーです。
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ヴァリラート歴5638年~ユフト青年十八歳、本国にて国主導での魔導機械人形製作チームに参加
「オールドラゴン計画なんてのは、子供の時の戯言です」
ユフト青年はフロッグ宰相とウイーゼル技術長官にいう。
「稀代の天才といわれたユフト君の応募をたまたま見つけてね。これを学生の時に発案したなんて素晴らしいゲコ」
「特に、全ての特性を一体に備えたオールラウンドな機体はどんな状況下でも活躍してくれるだろう。パーツになるボディの剛性に問題があるようだが、素材は軍でどうにかしようククク」
フロッグ宰相とウイーゼル技術長官がユフト青年を称賛する。
「過分なるお言葉痛み入りますが、これは所詮夢物語です。例え、フレームの問題点が解決出来ても、全ての特性を掛け合わせた場合には電脳に問題が起こります」
「情報処理かねククク……いや、失礼した笑っている訳ではないのだよ。癖みたいなものでね」
ウイーゼルが悪気なくいう。
「長官のおっしゃる通りです。《演算》、《物理攻撃》、《防御》、《敏捷》、《魔法抵抗》、《器用》、《道具》、《魔法》すべての特性を極限まで上げきった場合、戦闘時において情報量が多く制御なる機械人形の自我を保つことが出来ないでしょう」
「なるほどな! 一つの特性だけでもその価値は通常の兵士百人~千人に匹敵するといわれている。通常の電脳ならばゲコ」
フロッグ宰相の目が何やら鋭くなった。
「少なくともインテグラに匹敵する。特殊な電脳が必要ということかねククク……これまた、失礼した」
「インテグラは、今や全ての機械人形の祖でありベースユニットです。インテグラに何かあった場合は本国の全ての機械人形に何らかの不慮なエラーが起こることが予想されます」
ユフト青年は球体で浮いているインテグラを見る。勿論これは、ユフト青年のブラフである。自我を持った始まりの機械人形インテグラは、ヴァリラート帝国で稼働している全ての機械人形のベースである。故に全ての機械人形とリンク可能である。
そのためにインテグラに何かあれば全ての機械人形にエラーが生じる可能性があるとユフト青年は軍部に保険をかけていた。
「なるほどな! 確かにインテグラは今や本国にとっての財産であり第一級特異点である。勿論、それは我々も承知しているさ。ただ、ユフト君。君はもう一体特殊な機械人形を持っているじゃないかゲコ」
「アナライズのことですか? アナライズは元々、インテグラの補助をさせるための《演算》外部ユニットであることはご承知のはずです。アナライズに何かあれば、今後の研究……ないし我が国の損失かと」
ユフト青年の額から汗が流れた。
「ハッハッハ、そのくらいは私達も承知しているよ。今や、ユフト君の造った機械人形の功績は計り知れないからね。価値のある機械人形はねククク」
「プルルル」
ウイーゼルの視線がユフト青年の肩にいたオールに向いた。
「長官、その、何を……お考えでしょうか」
ユフト青年は嫌な予感を抑えられない。
「そこのユフト君の肩に乗っているトカゲ型機械人形、それも特別製なのだろう。何せ計画に書いてあった最強ドラゴンのモチーフとなったのはそこのオール君じゃないかククク」
「何をおっしゃるか私には理解出来ません。このオールはただのペットのようなものですし、インテグラやアナライズと比べるのもおこがましい旧式の愛玩機械人形です」
ユフト青年はオールをわざと卑下する。
「ユフト君、嘘はいけないよ。今や量産型は単純な命令は効くが複雑化した戦術や状況判断においてはコストの面からでも通常電脳では情報処理が難しい。しかし、君のペットは自身で思考し生き物のように君と通じあっているではないか……君が幼少の時からね。それとも、元は旧式だが君がこないだ学会で発表した。機械自己進化システムのモデルケースかなゲコゲコ」
「プルルル」
フロッグ宰相が一歩前に出てユフト青年の肩に乗っているオールを優しく撫でる。その行為はまるで捕食者が獲物を舐め回すような不快感をユフト青年は感じた。
「ああ、そういえば君の弟君だったかな。剣帝殿は、何でも軍に入隊してしかも決死隊に志願しているようじゃないかゲコ」
「なんですって! 本当ですか! 」
「立派だねぇ。兄は天才魔導技師で弟さんは剣帝だなんて、お父上である伯爵も鼻が高いねぇククク。そうか、君は廃嫡の身の上だったかな。きっと弟さんは武家である責任を持って頑張ったんだろうね。実に泣ける話じゃないかククク」
「くっ……」
ユフト青年は何も言い返せなかった。ユフト青年の家は武家の家紋である。長男のユフト青年はそんな中で機械にしか興味がない異物だった。もうずいぶん前に廃嫡の身となっていた。
「ああ、確か一番下には妹さんもいたようだね。何でも北バリアント王国への留学が決まったようだね。さらには、バリアントの侯爵令息との婚約も視野にあるようだ。おめでとうユフト君、本当に君の一族は祖国に対する忠誠心が熱いようだ。宰相としてとても関心しているゲコ」
ユフト青年は青ざめた。
北バリアント王国はヴァリラート帝国と懇意にしている国である。だが、他国との王族以外の婚姻はある意味では人質という意味合いが強い。今は戦時中であり他国も緊張状態である。懇意にしている国とはいえ、世界情勢など天の女神の機嫌と一緒でいつ崩れるか分からないのだ。
「ずいぶんと顔色が悪いようだが大丈夫かねククク。いやー、怖い、怖いククク」
「……」
ユフト青年は上官であるウイーゼルを睨む。
「でもね。ユフト君、いい知らせだよ。あくまでも私達は君の味方だからねゲーコゲコゲコ」
フロッグ宰相がオールを撫でながら悪魔のように嗤った。
「プルルル」
オールがユフト青年を心配そうに見ながら鳴いた。
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