9 あの時の君に
1
『クリッド! デクス、テンスのプログラム再構成を補助します』
『……了解した』
補助電脳ガードがクリッドの戦闘を記録しながらチルドデクスの作業をバックアップする。
『……クリ……ド』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を何度も点滅させる。
ユーズレスは今すぐにでもクリッドの加勢に行きたいが……
バチバチバチバチバチバチバチバチ
各関節がオーバーヒートを起こしており、スリープ状態を維持するだけで精一杯である。
通常の魔力切れに加えて、急場での稼働可能な運動プログラムを再構築できたとしても、とてもではないが、ユーズレスの戦線復帰は難しいであろう。
クリッドとフィールアの戦闘を記録しながらユーズレスは思考した。
(逞しくなったなぁ)
現在クリッドは劣勢である。
「メエエェェェ! 」
クリッドは吹き飛ばされながらも視線はフィールアからは外さない。深紅に染まった瞳は、まだまだ闘志は萎えていない。
そこには二週間前の先ほどまで扉の前でガクガクと震えて泣いている山羊はいない。
ガコ、ガコ、ガコ、ガキン
『テンス! 止めなさい』
『ユーズ、その身体では無理だ』
ユーズレスは動きたかった。
魔力残量も残り少ないし、自身をまともに動かすことすらままならない。
でもユーズレスは理屈ではなかった。
わざととはいえ、先ほど扉の前でクリッドに冷たい態度を取った。クリッドは震えながら泣いてた。ユーズレスは正直もうクリッドには会えないと思っていた。
だが、クリッド来てくれたのだ。
ユーズレスは行かなくては行けない。
この二匹の獣達の戦闘にはついていけないだろう。むしろ足手まといかも知れない。
(弾除けくらいにはなるだろう)
ユーズレスはココロノカケラを手に入れ、自己犠牲をダウンロードした。
バタン、ガゴン
立ち上がろうとしたユーズレスだったが案の定、脚部がもつれてスクラップとなった鉄骨竜のボディに頭部をぶつける。
コロコロコロコロ
それは、偶然だったのだろうか。それとも、何か大いなる力に導かれたのだろうか。
ユーズレスがぶつかった衝撃で鉄骨竜から球状の【ブラックボックス】が転がる。
『これは、鉄骨竜のブラックボックスか! 』
チルドデクスがいう。
ユーズレスが鉄骨竜のブラックボックスに手を伸ばす。
鉄骨竜のブラックボックスが優しく光った。
『ビィー、ビィー、十番目の子、機械人形ユーズレスの《統合》が解放されました』
補助電脳ガードがアナウンスする。
鉄骨竜、始まりの機械人形インテグラの次にユフト師によって造られた機械人形である。
開発当初の名を『オール』、またの名を『プロトタイプユーズレス』と呼んだ。
機械人形の父といわれたユフト師の子である二つのユーズレスが重なった瞬間であった。
2
『ビィー、ビィー、テンスのブラックボックスに鉄骨竜のメモリーがダウンロードされます』
……
鉄骨竜
鉄骨竜は元々、竜種討伐を目的としたもので、オールラウンダーで非常にバランスのいい凡用に富んだ機体とした設計だった。《演算》、《物理攻撃》、《防御》、《敏捷》、《魔法抵抗》、《器用》、《道具》、《魔法》すべての特性を極限まで上げきった尖った機体である。
ギミックとして変形機構も組み込まれて、その時々で予備パーツを換装すれば状況にあった最適解な戦闘を行う。
機体としては破格のスペックであるが、すべての特性を当時の限界値まで上げた結果、電脳の制御が利かなくなって常時暴走状態となったユーズレスシリーズの前身、プロトタイプユーズレスである。
暴走した鉄骨竜のプログラムを修繕するために、アリス考案の医療ユニットボンドを軍は造った。だが、制作中にアリスの不慮の事後によりボンドは暴走し破壊神チェイサーとなった。
暴走したボンドにはユーズレスの稼働試験も兼ねての討伐を依頼した。
鉄骨竜は、回収不可能と判断し、廃棄と敵戦力の排除のため前線に誘導された。敵が全滅しても稼働している鉄骨竜の姿があった。最終的には自爆シークエンスで自爆させるようとしたが、誤作動で作動しなかった。魔力切れで活動を停止し、敵のど真ん中でスクラップ寸前のところをユフト師が回収した。
……
「おはよう、オール」
メモリーの中のユフト少年がオールに声をかける。その少年の瞳は優しい。
「プルルル」
鉄骨竜は、元々は幼少期からまだ球体であったインテグラしか友達のいなかったユフト師が造ったトカゲ型の機械人形だった。
戦闘力もなく、ユフト師の肩に乗ってはチョロチョロと動き回る可愛いトカゲだったのだ。
鉄骨竜ことオールは、本当は心優しいキカイノココロを宿した。ユフト師の子であり友であったのだ。
始まりはユフト師が幼少時代に応募した機械人形コンテストの素案だった。
僕の考えた最強ドラゴンオール計画
まだ、戦争も激化していない平和であった時代にユフト少年が好奇心のままに応募したドラゴン計画が、数年後に災いをもたらすとは知るよしもなかった。
オール(鉄骨竜)の昔話ちょっと入ります。




