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8 千日手

キャハハハハハハ


キャハハハハハハ


クリッドが絶剣を抜いて二刀となる。


二十階層~三十階層では慣れない二刀流で痛い目を見たクリッドであったが、あの時とは纏う空気が明らかに違う。


「メエエェェェ」

深紅の瞳が迫りくる蔓と《壁蹄》を捉える。クリッドは脳内で思い出す。師である剣帝との死闘を、あの憧れた太刀筋を……


ビュン、ビュン


クリッドの二刀が、蔓と《壁蹄》を切り裂いた。

その一撃、一撃はクリッドが一刀であった時と遜色ない。


「ヒィヒィィィン」

フィールアが先ほどと戦闘スタイルの変わったクリッドを警戒する。


「ああ、これはこうだったのですね」

クリッドが絶剣に語りかける。


カタカタ


絶剣はまるで、クリッドに剣帝の太刀筋を教えるかのようにカタカタと鳴る。


フィールアがすかさず《生命讃歌》と《壁蹄》に《魔法障壁》を発現するが……


「千の言葉より実戦、訓練にはもってこいですね」

クリッドがフィールアの攻撃を切り裂く。まだ、防戦ではあるが徐々に絶剣がクリッドに馴染む。


二刀流によりクリッドの手数が増える。

クリッドは脳内にある師の太刀筋を、絶剣に導かれるように振った。


ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


剣を振るうたびにクリッドの動きは洗礼されていき、二刀流に対する理解が加速する。


キャハハハハハハ


キャハハハハハハ


双子の剣も喜んでいるようだ。


「ヒィヒィィィン」


徐々にフィールアとの距離が近付いていく。


深紅の瞳を宿した羊が笑う二振りの剣を振り回しながら死神のように迫ってくる。


フィールアが汗をかく。


「ヒィヒィィィン! ブルブルブルブル」

フィールアは興奮した。

美しいと……

フィールアが魔法を発現する。

「メェェ」

クリッドが両断する。


フィールアは自身の神代級魔法を、玩具のように壊していくクリッドの流れるような剣技に見惚れてた。


フィールアは神獣であるがあくまでも神に仕える馬である。豊穣を司るフィールアは大地に恵みを与えてきたが、神以外でこのような同格の存在に出逢うことはなかった。


遥か昔の神話の時代におきた悪魔大戦でさえ、フィールアを満足させる相手はいなかったのだ。


「ヒィヒィィィン」

愉快だ。

非常に愉快だ。

フィールアは腹が空いていることも忘れ、目の前の強敵に酔いしれる。


「ブルブルブルブルブルブル」

距離をとっていたフィールアが自身の前方に《多重魔法障壁》を展開した。


パカラ、パカラ、パカラ、パカラ


フィールアがそのままクリッドに突進する。

まるで抑えの利かなくなった盛りの暴れ馬のようだ。


「ヒィヒィィィン! ヒィヒィィィン! 」


「手綱と躾が必要ですね」

クリッドが脚を止めてフィールアを迎え撃つ。


目の前にはユーズレスでも貫くことが出来なかった四重の魔法障壁を身に纏ったフィールアがもの凄い勢いで近づいてくる。


「フゥー」

クリッドがゆっくりと息を吐いた。

クリッドは息を吸う。クリッドは息を吐く。


「メェェエエ! 」

クリッドが二振りの剣に導かれるように一つの剣技を生み出した。

神速の一閃……火花が散る。




一閃から返しの二閃……左右対称の鏡のように綺麗な閃が重なりあう。




三日月を軌跡を描くような月の振り……二つの月はその引力で引かれ合い。


三日月より力強く踏み込まれた剛の太刀筋……共振したその振動は部屋に響く。


水面をなぞるような美しい水平の軌跡……世界が上下に割れるようだ。


キャハハハ、キャハハハ


二振りの剣は歓喜に満ちた笑い声をあげる。


パリン、パリン、パリン、パリン


クリッドが突進してきた《多重魔法障壁》を切り裂く。


だが、その先にはフィールアの一角による渾身の突きが待ち構えていた。


ガギィィィィン


剣舞を放ったクリッドは剣を交差させ一角を受け止めた。


羊と馬が互いの瞳を覗く。

「メエエェェェ」

「ヒィヒィィィン」

この獣達が互いに言葉を理解しているかどうかは定かではない。


むしろ言葉は必要ないであろう。二匹はまるで歓喜と狂気を混ぜたような殺意をぶつけ合った。


ジリジリジリジリ


キャハハハハハハ


フィールアの一角が神なる魔力を宿しながら黄金に輝く。

二振りの剣は笑いながら魔力を喰らう。


実力も殺意も拮抗した獣達の宴は、決着がつかない千日手のように不動となったかのように思われた。


「メエエェェェ」

ジリジリとクリッドが押されてきた。

天界からやって来たフィールアと違い、クリッドはあくまでも()()でユーズレスの負の感情を核として受肉した。肉体的の格として、大神の子たるフィールアにクリッドは及ばない。


単純な体力、膂力において羊が馬に勝てる道理はなかった。


「ヒィヒィィィン」

メキメキメキメキ

フィールアが四本の脚を隆起させ力のままに一角に力を集中させた。


「ぐっ……メエエェェェ! 」

クリッドが壁まで吹き飛ばされた。


二刀流となった悪魔ですら神獣には一手及ばなかった。



今日も読んで頂いてありがとうございます。

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