6 異質なる存在
遅くなり申し訳ありません。
1
『クリッド! 助かりました。テンスの暴走を止めていなかったら下手したら世界が滅びるところでした』
補助電脳ガードがクリッドに礼をいう。
『……』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を点滅させた。少し頭は冷えたようだ。
『ユーズ、ガード、あの羊だか山羊だか分からない生き物は知り合いか? 』
チルドデクスが警戒しながらいう。
『ええ、悪魔でテンスの舎弟となったクリッドです』
『あっ……悪魔だと、舎弟? 』
チルドデクスが混乱し警戒するのも無理はない。クリッドの魔力は異質すぎるのだ。
「ブルブルブルブル」
フィールアもクリッドを警戒している。
フィールアは振り替える前ただならぬ気配を感じた。
カッカッカ
足音が聴こえる。
緊張が走る。
魔力は巨大だが、それを感じさせない。おおらかさがある。
鳥肌が立つ。
毛が逆立つ。
脚が震える。
この存在は、明らかに過去に悪魔大戦で戦った魔界大帝をも上回る存在だ。
「すみません遅くなってしまいました。少しばかり泣いていました」
そこに現れたのは、先ほどまで泣くだけしか脳の無い赤い羊だった悪魔ではなかった。
魔の力と、明らかに、悪魔の存在より上位なる神なる神力を感じた。その反する二つの力が、混沌が絡み合い稀有な神秘たる気品を放っている。
「ヒィヒィィィン」
フィールアがクリッドに対して野生を開放した。
2
「ヒィヒィィィン」
フィールアの全身が黄金に光輝く。
三本角が集束していき大きな一角となる。
フィールアが本気となる。クリッドを敵と認定したようだ。
「お馬さんは、どうやら私と遊びたいようですね。兄上とシャチョウに、デクスさん? はどうぞ休んでいて下さい」
クリッドが夢剣を抜く。
「ブルブルブルブル」
フィールアが様子見とばかりに《生命讃歌》を発現する。無数の蔦がクリッドに向かって伸びてくる。
キャハハハハハハ
クリッドが蔦を切り裂く。蔦による攻撃など、今のクリッドにとっては児戯に等しい。
ニュルニュルニュルニュル
フィールアは、構わずに《生命讃歌》を追加で発現する。怒りのままに突進するかと思われたフィールアであったが、どうやら頭は冷えているようだ。
「懲りないですねぇ」
クリッドは飽きましたとでもいうように蔦を切り裂く。
ここでフィールアは、異常に気付く。
蔦が再生していないのである。フィールアは、様子見とはいえ既に二桁は超える《生命讃歌》を発現している。切り裂かれたとはいえ、本来ならば部屋を埋め尽くすほどの蔦があるはずなのだ。
だが、切られた蔦は再生していないのである。
先の機械人形が鎌で切り裂いた時には確かに再生した。魔法には飲み込まれてしまったから仕方ないとして、斬撃によって再生しないのはおかしい。
考えられる原因としては……
キャハハハハハハ
「草遊びはもう終わりですか? 何やら驚いていらっしゃるようですが……ああ、いい忘れていましたが私の愛剣は大食いなのですよ。ここは魔力濃度も濃くて、貴方様の魔法もお上品な味がして大変喜んでおります。私としても、魔力を使わなくて非常に助かっております」
クリッドがフィールアを挑発する。
「お部屋が蔦だらけになってしまいましたね。もしかしたら、何か仕掛けがされているかも知れませんので、お掃除しておきますね。《強奪》」
クリッドの左腕が魔力を纒い、先と同じような深紅の大きな手を作る。深紅の手は地面に溶け込むように紅を広げて散らばった蔦を飲み込んだ。
「ヒィヒィィィン」
フィールアは後ずさりした。《強奪》、これは神なる魔法である《生命讃歌》でできた蔦を飲み込んだ。いうなれば、魔術ではなく同格の神なる魔法である。
この魔法は神獣であるフィールアを傷付ける恐れがある。
更には、蔦を切り裂いた剣も同様にただの剣ではない。フィールアは、夢剣三日月より生命を感じた。
これは、豊穣の生命を司るフィールアだからこそ感じれたことだ。
あの剣は間違いなく自身の意思を持っている。しかも、複数の意識の集合体である。
天界にも神々がお使いになる数々の神器は存在するが、意識のある剣等聞いたことがない。
恐ろしい……
おそらくあの剣は、おおよそ口にすることすらおぞましい業により作られしものであろう。
《強奪》に夢剣、フィールアは改めてクリッドを脅威認定した。
「ああ、本当に残りカスだったようですね。心配して損しました。では、そろそろ私の【ターン】でよろしいでしょうか」
クリッドが姿勢を低くしてフィールアまでの距離を一気に詰める。
「ヒィヒィィィン」
フィールアが前方に多重魔法障壁を張り巡らした。
ビュン
パリン、パリン
クリッドの斬撃が魔法障壁を切り裂いた。
私事ですが、グルドニア王国王妃であるジュエルの物語
「尊いは正義~公爵家の聖女は年上男爵令嬢に青春の全てを課金したい」が完結しましたので、良かったら遊びに来て頂ければ幸いです。




