4 鉄骨竜
1
赤い閃光が弾けて部屋一面の視界が奪われる。
爆発音の後には煙が充満する。
ユーズレスの放った《魔法》の四重発現は、流体金属を使用した際のボンドの『七十六式タイタン』と同格の威力である。
バチバチバチバチバチバチ
ユーズレスの前身から排熱された蒸気が煙に紛れて舞う。
『急なプログラムで強制的に《多重魔法》を発現したため、スリープモードに移行します。残りの魔力残量は10パーセント以下です』
補助電脳ガードがユーズレスを強制的にスリープモードにした。
『ユーズのボディ全体に加えて、両腕が特にショート寸前だ。効率化を図るためにプログラミングを更新する』
『保護者である補助電脳ガードが許可します』
『ア……リガ……トウ』
ユーズレスの無茶の後始末を保護者達が請け負う。
『しかし、驚きました! テンス、《魔法》の四重魔法とは』
『ディック顔負けの魔法だったな。ボディはボロボロだが、あまり無茶をするな』
『……』
ユーズレスは申し訳なさそうにエメラルドの瞳を一回点滅させた。
『あまり褒められたものではありませんが、やはり同じコマンドの《極》を重ね掛けするのは機体の負荷が強くて排熱が間に合いませんね』
『基本的に、ユーズは統合を司る機械人形で特化型ではないからな。ただ、成長したらどうなるか保護者の腕の見せ所だなガード』
『子育てとはなかなか上手くいかないものですよ。けっこうヤンチャな子ですからね』
『違いないな』
『『ハッハッハ』』
二人の保護者は浮かれていた。
何故なら現状でユーズレスが出せるであろう最高の技が決まったからだ。
ガサガサガサガサ
煙が晴れていく。
この先には……
『ヒィヒィィィン』
大樹の根に守られたホコリまみれのフィールアがいた。
2
『馬鹿な! 』
『冗談でもやめて欲しいですね』
『……』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を点滅させて二人に同意する。
「ブルルルルル! ヒィヒィィィン! 」
フィールアは魔法障壁を破られて、再び《生命賛歌》を発現した。
自身の魔力の半分以上を使って、天界の植物を地上に発現したのである。
『あの太い幹に根は地上のデータベースにはない木ですね』
『信じたくはないが、おそらく天界の伝説なる大樹だろう。神馬というのはどうやら本当のようだな』
三人はフィールアを見る。
バシュン
フィールアを守っていた大樹の根が消えた。
「ブルルルルル」
フィールアはイラついていた。
神馬フィールアといえ、地上に天界の植物を発現するには相当の魔力と制約が必要なようだ。
さらには、先の《神殺し》の攻撃で一瞬であれ命の危機を感じたのだ。
地上の機械ごときに。
「ヒィヒィィィン」
面白くない。
フィールアは豊穣を司る神馬である。
普段は天界にいるが、実は食べ物は地上のほうが美味である。フィールアは美味なるものを求めて久方ぶりに地上に足を伸ばしたら愕然とした。
あの緑豊かな地上が、たかが数百年目を離した隙に荒野となっているのだ。
フィールアは植物を成長させることなど容易いが、その核たる緑がない。フィールアは自身の魔力で植物を発現可能だが、『事象の改変』のため無から有を作り出しても十分程度しか持たない。
フィールアは植物を探した。
生命体を探した。
この地上には誰もいなかった。
生命体がいない場所には、緑が育たない。
フィールアはたまたまにパンドラの迷宮にたどり着いた。
生命体はいたが、あくまでも迷宮産の人工生命体であった。
フィールアは腹を空かせたままただ、ただ、下へ下へと降りた。
そして、機械の竜と機械人形に出会い流れのまま戦闘となったのだ。
鉄骨竜が地上にいる存在としては、強すぎることは分かっていた。手加減が出来なかったため、スクラップになってしまった。地上が何故こうなったか、食料についても情報を得ることが出来なかった。
ただ、腹減っているだけなのに……
そこに来て、黄色い機械人形が遊んでくれとやってきた。
ちょうどいいからコイツから情報を引き出してやるかと……
機械の竜のように壊さないように、手加減していたら、本気で噛みついてきた。
地上の機械ごときに、魔法は飲まれて、障壁も破られ、更には禁忌とされる天界の神樹の根まで発現してしまった。
後から相応の【ペナルティ】を食らうだろう。
「ブルルルルル」
フィールアが全身を震わせて怒りをあらわにする。
フィールアが全身に神なる魔力を纏わせた。
三本角が神々しく光輝く。
「ヒィヒィィィン」
フィールアは怒りのままにユーズレスに突撃した。
3
「ヒィヒィィィン」
フィールアの三本角が輝く。
今までその場から動かずに遠距離からの攻撃をしていたフィールアが怒りのままにユーズレスに向かってくる。
『気を付けろ! ユーズ! さっきとは纏う魔力が桁外れだ! 』
チルドデクスがフィールアの脅威を伝え。
『ビィー、ビィー、魔力残量から戦闘継続可能時間残り十分です』
補助電脳ガードがアナウンスする。
『……』
ユーズレスは赤色の瞳を点滅させる。
『《敏捷》』
バチバチバチバチバチバチバチバチ
『! ! ! 』
ユーズレスの両手足が動かない。
先の無理が祟り、戦闘モード状態での動きに機体がついていかないのだ。
ガシャン
ユーズレスはその場で尻餅をついた。
「ヒィヒィィィン」
フィールアが三本角を突き刺そうと迫る。
『ユーズ! 』
『テンス! 』
保護者達が出来ることは何もない。
その時、ユーズレスの背後から巨大な影が動いた。
ガシャーン
三本角が機械を貫いた。
『……ナン……デ』
動けない古来のダルマのようになっていたユーズレスの前には……
『ギャオオオオン』
ボロボロになった鉄骨竜がフィールアの三本角に突き刺されてていた。
鉄骨竜が最後にエメラルド色の瞳を点滅させた。
ピタ、ピタ
傷口からはまるで生き物のようにオイルを流していた。
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