1 チルドデクス
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「ヒィヒィィン」
馬帝フィールアが新たな獲物を見つけ叫ぶ。
『デク……ニイ……サン』
ユーズレスは壁にまるで絵画のようにめり込んでいる鉄骨竜とチルドデクスを見る。
『ビィー、ビィー、テンス落ち着いて下さい』
補助電脳ガードが瞬時に状況を把握してフィールアを警戒する。
チルドデクス
ユーズレスシリーズ七番目の機械人形であり《器用》を司る。
この機械人形は個であり集団の並列ネットワークシステムでマザーデクスが中心に、複数のチルドデクスが存在しており、常に情報を共有している。
しかし、個体別に序列はなく。全てが平等であり、全てにおいて並列化されている。
だが、このチルドデクスは地下にいたために、地上からの並列ネットワークシステムを受信しておらず独自の進化を遂げた個体である。
補助電脳ガードはスクラップ寸前のチルドデクスより戦闘データーを受信していたため、先の戦闘で鉄骨竜を一撃で屠ったフィールアの戦闘力を把握していた。
キュィィィィィィン
ユーズレスの冷却ジェネレータが最大で稼働する。
ここまでの戦闘のほとんどをクリッドに任せていため魔力を節約できた。また、迷宮最下層の濃度の濃い魔力粒子から魔力を供給できるためコンディションは非常に良い。
ユーズレスが赤色の瞳を四回点滅させた。
ユーズレスはコマンドの《敏捷性》、《魔法抵抗》、《物理攻撃》、《器用》を選択した。
四重発動は機体に多大な負荷がかかるが、暴走寸前のユーズレスには関係なかった。
『テンス、ダメですか……《演算》』
補助電脳ガードはそこに《演算》を使用して機体が融解しない範囲での細かい調整を行った。すべてのコマンドの出力が《大》を振り切って《極》まで出力が上がっていたのを、《器用》のみを《極》とした。
「ヒィィィィン」
フィールアの目の前に幾重もの魔法陣が出現し、魔法障壁となって張り巡らされた。
ドッガーン
ユーズレスの渾身の一撃がフィールアの魔法障壁を貫く。
一枚、二枚、三枚、最後の一枚である四枚目の障壁を破壊したところでユーズレスの攻撃は止まった。
「ブルブルブルブルブル、ヒィィィィン」
どうやらフィールア自身も魔法障壁が破られるとは思ってもいなかったのだろう。フィールアは嘶きをした後に両の前脚を上げてユーズレスに向かって蹄を叩きつける。
『ビィー、ビィー、過去に例がない脅威を確認、強制運転による回避行動に移ります』
補助電脳ガードが保護者権限で緊急プログラムを起動させて、強制的に《敏捷・極》を発現してギリギリでフィールアの攻撃を回避する。
ダダーン
ユーズレスが先ほどまでいた石畳が蹄の形に陥没している。
『高密度のエネルギーによる攻撃です。《演算》の結果、一撃でもまともに被弾すればスクラップとなります』
無理な回避をしたのでユーズレスの体勢は崩れている。
「ブルブルブルブル」
フィールアが身体を反転しながら後ろ脚の蹴りをユーズレス目掛けて放つ。
『……』
ユーズレスは《演算》を使用して最適解を解く。
バックパックの四次元から『クーリッシュの盾』を取り出した。
パリン
さらに補助電脳ガードが流体金属でフェンズの特技である『全身鎧・イージス』を展開した。今のユーズレスができる最大限の防御である。
『《器用》、《防御》』
ドッガーン
フィールアの蹴りがクーリッシュの盾にあたる瞬間に《器用》により攻撃を受け流そうとするが、すべての衝撃を受け流すことは叶わなかった。
バアァァン
ユーズレスは鉄骨竜のように壁画にはならなかったが勢いのままに壁に激突した。
パリン
あまりの衝撃に流体金属が原型を留められずに元の姿に戻る。
「ヒィィィィン」
フィールアは仕留めきれなかったことに驚くとともにいい遊び相手を見つけたと鳴いた。
2
『ユーズ、まだ動けるか』
スクラップ寸前のチルドデクスが問う。
『……』
『防御に全振りしたため損傷は軽微です。連続での攻撃を受けた場合は稼働が難しいですが』
ユーズレスが赤色の瞳を点滅させて、補助電脳ガードが状況を把握する。
『ユーズ、本機はここから動くことはできない。しかし、バックアップなら可能だ』
チルドデクスは並列ネットワークを【オン】にした。交信先は勿論ユーズレスだ。
『ビィー、ビィー、チルドデクスからの信号を受信しました。チルドデクスが外部ユニットとして疑似的なマザー・インテグラの働きを担います。ビィー、ビィー、情報処理速度が大幅に向上しました。ビィー、ビィー、さらに更新をアップデートします。テンスの排熱機構が二割程度の効率化に成功しました』
器用を司る七番目の子の真骨頂が発揮された。
「ヒィィィィン」
バシュ、バシュ、
フィールアはその場から動くのが億劫だったのだろう。
前脚を突きでも放つかのように虚空を蹴った。
それは、高密度のエネルギーとなり魔術のように無属性の攻撃が放たれる。
『《演算》』
『《器用》、《補助》二時の方向に二歩、そのあと屈んで前進』
補助電脳ガードが《演算》をチルドデクスが外部ユニットとして《器用》と《補助》のコマンドを起動させる。
『……ヨケレ……ル』
保護者達の強制運動によりユーズレスは最適解をプログラミングされて、フィールアの攻撃を避ける。
バァアアン
攻撃を避けた先の壁には蹄のあとが残る。
『凄い威力ですね。通称《壁蹄》とでもいいましょうか』
補助電脳ガードが攻撃の名づけ親になる。
「ヒィィィィン、ヒィィィィン、ブルブルブルブル」
フィールアは面白くない。興味本位の攻撃であるが、避けられたことに腹を立てた。
フィールアの前方に強大な魔法陣が出現した。
ゆっくり更新します。




