6 まあまあ
ご愛読ありがとうございました。
1
ボールマンがディックの杖を空に掲げる。隣にいるエミリアもボールマンに触れて補助をする。
ディックの杖が二人の魔力を得て黄金に輝く。
「こりゃあ、本物の《創造》だね。ディックのプログラムされている魔法でも最上位の魔法だよ」
木人が感心したようにいう。
「キャン、キャン」
木人の腕の中のホクトが「頑張れ」と鳴いた。
ランベルトを含めた九人がシーランドの方に歩を進める。皆の魂は薄らいでおり、形を保っているだけで精一杯である。
皆がシーランドを囲んでラザアを見る。
ボールマンがディックの杖を九人の英雄たちに向けた。
「よぉっく、見ておき! 滅多にみれるもんじゃないよ! 」
木人が皆にいう。
「みんな! 」
ディックの杖から黄金の光が英雄たちに降り注ぐ。英雄たちが黄金の光と同化して円を描く様に回り始めた。九つの光の円は重なり合い、一つになる。円は回る。英雄たちの魂は回る。
クロの勇気が回る。シロの優しさが回る。ジョーの博愛が回る。ベンの慈愛が回る。スイの純粋が回る。レツの真摯が回る。ヒョウの気高さが回る。ギンの信念が回る。最後にランベルトの希望が回った。
「コルルゥゥゥ」
シーランドが鳴いた。シーランドが最後の力を振り絞り青い光が発現された。シーランドの祝福が光の円に注がれる。オマケとしてシーランドの無垢な心が回った。
パァン
ウェンリーゼに優しい光の柱が発現した。
光が収束していく。
ラザアの掌には、一つの指輪が創造された。
2
「綺麗……」
ラザアは何度目になるか分からない涙を流す。
シーランドの首があった場所には純度の高い青色の魔石が二つ残されていた。
「ちょいと、ごめんよう《鑑定》! こりゃあ、女神さまの涙だねぇ。流石はシーランドだね。女神さまの眷属にして神獣というのは本当だったみたいだね。しかも、この指輪は私の上級の鑑定を弾いちまった。根源なるものの格が段違いだねぇ」
木人が好奇心を抑えられずに《鑑定》を発現する。ホクトは「キャン、キャン」と恥ずかしいから自重しろと鳴く。
3
「ヒィィィィン」
馬の鳴き声と共に馬車は空へと進んだ。
「ディック、いままで良く尽くしてくれた」
ボールマンがディックに感謝をいった。
『……本機はこのまま、貴方様に仕えたいです』
ディックは離れたくないといった。
「……ディック、そういえばずっと礼を言えていなかったな。その時、カブトアカから私を守ってくれたこと、おかげで私は命を拾った。そして、壮大な夢を見ることができた」
『ボールのことも巻き込みましたが』
「ディック、私はもうここでは夢をみることができない。お前が私の代わりに、夢の続きを見ていてくれないか」
ボールマンがラザアを指さす。
『マスター・ボールマン、貴方は私が見つけたマスターです。最後の命令を』
「神よ。私は宣誓する。ディック、汝の枷をいまここに解こう。これより、ソナタは杖ではない。自由な機械人形だ。自分での考え、自分で学び、自分で行動することを、永遠たる自由をここに命ずる。ディック、いままでありがとう」
ディックの身体が淡く光る。
ここに、神々公認の元、機械の四原則は解かれた。
ボールマンがディックを手放した。
『さようなら、愛しき友よ』
ディックが主であった親友に別れを告げた。
エピローグ
空からディックがウェンリーゼの浜辺に降りた。
ディックがラザアの近くの砂に突き刺さった。
皆が、天に還る馬車を見た。ボールマンとエミリアが天より皆を見ている。月が皆を見ている。神々がウェンリーゼにもたらした涙は祝福となり、魂を救済した。
「行っちゃったね」
「ああ、いってしまったな」
ラザアとアーモンドが天に還る魂を見送る。皆が見送る。
「この指輪は私がもらってもいいのかしら」
「君以外に、その指輪をつける資格があるものはいないよ」
アーモンドは指輪をラザアの左手の薬指につけてこういった。
「皆で勝ち取ったプロポーズだ」
「……なんかそれは、違うんですけど」
ラザアが指輪に口づけをした後にアーモンドに口づけをした。
騎士の誓いはここに果たされた。
アーモンドは笑った。ラザアも笑った。
木人は節操なしに、そこら辺に散らばったシーランドの素材を値踏みしていた。ホクトが恥ずかしいからやめろと鳴いていた。
「こりゃあ、最高の鰭酒ができるねぇ」と木人が舌なめずりをしていた。
何処に行っても酒飲みは困ったものだ。
大神と武神が羨ましそうに見ていた。
ラザアの指輪が一瞬輝いた気がした。
アルパインは立ち尽くしていた。ずっと、空を見上げていた。星々がそれに応えるように満天に輝いていた。
リーセルスは油断なく、サンタを伝令として領主邸に送った。王宮に応援要請をしたのに返答もなく、クリムゾンレッドに対する援軍がこないことを不可解に感じた。サンタは、最速で戻り、転移門から魔石を抜いて使用不能とした。欲をかいた友軍が敵軍とならないようにした。
そこから、遅れて巨帝ボンドが大型飛行船エアマスターにのってやってきた。遠隔カメラで先の奇跡を見ていたとのことだった。
「あんたは、ほんっとうに何しに来たんだい」
木人がボンドを見る目は厳しかった。
ボンドは頑張った。ボンドはまずに、技術系の機械人形でマナバーンした人工魔石炉二号機の修繕を最優先とした。続けて、国境付近にフェンズの親衛隊を送った。混乱に応じて悪い輩はどの時代も悪いことをするものだ。
転移門を強制的に閉じたために王宮からの支援は期待できなかった。ジャンクランド右丞相であるレングが、領民の保護と物資の搬入を指揮した。ウェンリーゼの建物は家財こそ損傷はあったが、建物はほとんど無事だった。大工であるヒョウの仕事が光った。
機械人形達は良き隣人の為に頑張った。
後で木人がアリスの写真を三枚ボンドにプレゼントした。ボンドは「この世に神はやはりいたのかぁぁああ」と叫んでいた。ジャンクランド住人はこんなに喜んでいるボンドを久しぶりに見たのでとても幸せだった。
ラザアがディックの杖を手に取った。
「ウェンリーゼ当主としてここに、海王神祭典の作戦成功を高らかに宣言するすべての報告を終了することを報告します」
緊張していたのかハイケンの口癖が移っていた。
ザアァァァァ、ザアァァァァ
カツンの岩が今日も今日とてウェンリーゼの海を見ていた。
ザアァァァァ、ザアァァァァ、ザアァァァァ
『ビィィィ、ビィィィ、ビィィィ、本機はシャットダウン状態となります。ビィィィ、ビィィィ、本機はシャットダウン状態となります』
「ユーズ、ありがとう」
ラザアがユーズレスに大好きだよといった。
『……マア……マアデス……ね』
ユーズレスが息子のよく分からない口癖を真似した。
ビィィィィィイイイイイイイイ
魔道機械人形ユーズレスはエメラルド色の瞳を点滅させた後にシャットダウンした。
ラザアがユーズレスの色のない瞳に優しい口づけをした。
ユーズレスの代わりに時の女神が『真なる海王神祭典』を記録した。
第四部『真なる海王神祭典』 完
海王神祭典は終わりです。
年内に終われて良かったです。




