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5 幸せの杖


 ボールマンの鎖は解かれた。


 魂たちは「よかったね」と満足したのだろう。馬車には乗らずにそのままに、ゆっくりと空へ昇っていった。灯火は夜空を覆い尽くすほどに明るく、その一つ一つの魂は星へとなった。


 ボールマンがゆっくりと歩く。向かった先は、スクラップになったユーズレスだ。


『ビィィィ、ビィィィ、ビィィィ、本機はシャットダウン状態となります。ビィィィ、ビィィィ、ビィィィ、本機はシャットダウン状態となります』


 ユーズレスはプログラム通りの言葉をアナウンスする。そのアナウンスにユーズレスの意思があるのかどうかは分からない。


 ボールマンはしゃがみ込み、スクラップとなったユーズレスを抱きしめた。


静かだった。


誰も何も言葉を発しなかった。


静寂の中で、二人はどれほどの時間を触れ合ったのだろう。


『ビィィィ、ビィィィ、ビィィィ、本機はシャットダウン状態となります』


 ユーズレスが精一杯の声を叫ぶ。ユーズレスはエメラルド色の瞳を五回点滅させた。


 皆が見たその光景はヒトハダのように優しい温かさのある時間であった。


 どうやら二人は最後の最後に仲直りが出来たようだ。


2


『ヒィィィィン』


 フィールアがもう時間だとでもいうように叫ぶ。


 ボールマンは名残惜しそうにユーズレスから離れた。ボールマンは何も言わない。そのままに、ラザアの傍にくるとボールマンはラザアを抱きしめた後に、優しくお腹をさすった。


 ラザアは、最後は泣かなかった。アーモンドが気力を振り絞りラザアの隣で支える。その二人ボールマンが安心したかのようにほほ笑んだ後に馬車へ向かう。それはまるで、次代の若者を労うようであった。


 モブ達も、ボールマンの後に続く様に馬車に歩を進める。


 その姿は王が英雄たちを引き連れ理想郷へと歩を進める絵画のようだった。そして、馬車にはラザアによく似た顔のエミリアが待っていた。


 エミリアはボールマンの手を取る。ボールマンがエミリアに「まあまあ終わったよ」といった。エミリアはボールマンに「ずっと待っていましたわよ」「皆もありがとう」といった。


『ヒィィィィン』


 出発の時間がきたようだ。


 パカパカパカパカ


 馬車は魂の暁に向かってゆっくりと動き出した。


「お父様、お母様、みんな! 待って、やっぱり行かないでよ! 」


 ラザアはワガママを全開させた。お姫様は最後まで、我慢ができなかったようだ。


「コルルゥゥゥ」


 シーランドが泣いた。


 エミリアが困った子を見るようにボールマンと顔を合わせる。


 ピョン


 ラザアと一番の友達のように遊んだスイが馬車から降りた。スイは尻尾を振りながら四足歩行でラザアに駆け寄ってくる。


 馬車では皆が顔を見合わせる。


「おい、スイ! 一番乗りは俺だぞ」


 クロが一番槍を取られたと、続けて馬車を降りる。


「ワシはションベンがしたくなった。年寄りは締まりが悪くていかんのう」


 ベンも降りる。シロ、レツ、ヒョウがやれやれと顔を見合わせ降りる。


「トニー、レフティ、女の誘いを断ったら俺のハンサムが廃る。お前たちは、御者として皆をしっかりと送り届けろ」


「先生、しかし! 」


「これまで、良く尽くしてくれた。お前たちは最高にハンサムだ」


「……勿体なきお言葉です」


 ジョーも降りて後を、二人に託す。


「どいつもこいつも仕方がないな……」


 ギンは乗り遅れたと降りた。


 カタカタカタカタ


 アーモンドの近くに落ちていた絶剣が鳴った。


「ふっ……災いを切り裂きしものの元に……か……予言通りだったな」


 ギンがアーモンドを見ながら少し寂しそうに呟いた。


「まったく、まあまあにワガママに育ったな」


 ボールマンが馬車から身を乗り出そうとしたときに


「ボール、あなたはこっちではありませんよ」


 ランベルトがボールマンを制した。


「後ろを御向き下さい。貴方を待っていた女神様を、また待たせるつもりですか」


 ボールマンが言われるがままにエミリアを見た。エミリアは「私は大丈夫よ」といった。


 ランベルトが本当の主であるエミリアに跪拝する。


「嘘をつくときの、瞼が動く癖は治っておりませんね。お嬢のことは、どうかお任せください。我が主よ」


「ラン……」


 ボールマンはランベルトを見る。


 エミリアがランベルトの頭に手を置いた。そして、肩に二度ほど触れた。これは、略式ではあるが騎士の任命である。


「勿体なきことにございます。我が月、我が太陽よ」


 ランベルトが初恋のエミリアを見た後に、名残惜しい気持ちを押し殺して馬車を降りた。


 古代語でこの月や太陽とは、わが生涯の一番愛しい御方なる意味合いがある。ランベルトは、最後の最後に想いを告げた。


 ボールマンが皆を見た。だが、魂は現世へとどまることは本来許されない。


「来い! ディック! 」


 ボールマンがディクの杖を呼んだ。ディックの杖がエメラルド色に点滅した。


 ボールマン最後の魔法が発現されようとしている。


『ビィィィ、ビィィィ、ビィィィ、かつてのグランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼの命令権はありません。ですが、本機のブラックボックスが……泣いています。ビィィィ、ビィィィ、本機がボールマン・ウェンリーゼに使われたがっています』


 ガシャン


 ディックの杖が、アンカーを収納して通常形態に戻った。


『《移動》』


 ディックは自身の意思でボールマンの元に《移動》した。ディックはココロノカケラを手に入れた。


(久しぶりだな)


 ディックはボールマンに触れた。ボールマンの魂に触れた。最後に使った劣化厄災魔法は一時間前だが、ディックには本当に久しぶりにボールマンに握られた気がした。


「ディック、最後の仕事だ。まあまあにやるぞ」


 ボールマンはいつもの良く分からない合言葉をいった。ディックにはそれがとても嬉しかった。


 

あと一話でラストです。

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