プロローグ
アーモンドの父デニッシュとリーセルスの父バーゲンのパートです。
1
グルドニア王国 王宮玉座の間
『以上が海王神祭典のあらましになります』
玉座となっているアナライズ(U-2)が情報から精査した海王神祭典を語る。
「ボールマンの死亡に、機械人形ハイケンの加護、人工魔石製作炉二号機のマナバーン、ユーズレスの覚醒、砂のゴーレム、聖なる騎士アーモンドか……期せずして、竜殺しアートレイの伝説の再現とはな」
「どうやら、情報のさらに上の事象があったようですな」
国王ピーナッツが玉座の肘掛けを撫でながら楽しそうに笑い、バーゲンがこたえる。
「それにしても、賢き竜の魔石を喰らってシーランドの血によって不運の穢れを払ったか、あいつは今や人種か? 下手したら魔獣じゃねぇか」
「呪いが解かれたのは喜ばしいことではありませんか、ご子息を魔獣呼ばわりいけませんね。神獣かと」
「どの道、あれはもう劇薬だ。下手をするとこの国どころか大陸を喰らうぞ」
「それこそ、お心のままに数々の国を崩されたアートレイ・グルドニア様の血ではないでしょうか」
「……此度の一件どう捌くのがいい」
「そうですね。客観的に見て、グルドニア王国は聖なる騎士アーモンド様の噂で持ちきりです。なにせ、五十年前の海王神祭典での避難民が各地で今や、高齢となり子や孫の代が王都を始め、各領地に根付いております。貴族や王族が思う以上にウェンリーゼの民は二世代に渡って大陸全土にいたようですね」
「俺も、ガキの時には聞いたな。剣帝キーリライトニング・ウェンリーゼの話はな。何故か、その話が出るたびに親父殿がほほ笑んでいたな」
「亡き叔父上とデニッシュ様は、かつて学園の伝説となった剣の宴の当事者ですからね」
カタカタカタカタ
ピーナッツの巡剣(夢剣)が反応する。
「その伝説の英雄ですら討伐出来なかった、海蛇を討伐したんだ。今、ウェンリーゼを責め過ぎるのはかえって懐が痛むか」
「混合政体の煩わしいところですな。海王神祭典でこちらから騎士団を派遣できなかったことが痛いですな。それで、他の地方貴族たちや平民である商人達からも、王都や軍部に不信感を抱かせてしまいました」
「ああ、オスマンの件か」
「軍部ではマナバーンの影響で魔導具に不備がでたため、信号が受信できなかったと報告が上がっておりますが……」
「戦闘記録がなければ詳細の前後は曖昧だからな……アナライズの記録を査問会で出すわけにもいかん。オスマン……堅い仕事をする奴だと思ってたんだがな」
「ルビー卿の主犯ではないでしょう。恐らく、サファイア家かムーンストーン家が背後にはいたかと」
「あの女狐か……」
「サファイア家は一番領主になって欲しくない人材がなってしまいましたから、あれは敵に回すと厄介な女ですからな」
「まったく、王なんてやるもんじゃねえぜ。気楽な冒険者家業に戻りてぇ」
「バター様が王になっていたら、今頃所かしこと戦争ですよ」
「シリアル兄上(元第五王子)やる気出してくれねーか」
「失礼ですが指導者としては光るものがございません。六大貴族に国を牛耳られてしまいますよ」
「それは、それでいいんじゃねぇか。一人の絶対者が統治するもの今の時世はカビ臭ぇだろう。今回みたいに血で血を洗う粛清はこりごりだぜ」
「そのなかで、淘汰されずに生き残ったのがピーナッツ様、貴方様です。それならば、すぐに後継者として王太子をお決めください」
「そんなに急ぐことか」
「今ここで、ピーナッツ様に何かあればよからぬ輩が余計な事をします。ピスタチオ様なんぞを祭り上げたら……考えただけで恐ろしい」
「ああん、それ面白れぇじゃねぇか。ピスタチオ王」
「冗談でもおやめください。一日もせずに、グルドニア王国が滅びます。でしたら、まだ、今から新たに御子を御作り頂いたほうが、まだ希望があります」
「わりぃ奴じゃねぇんだがな」
「今回のオスマン……ルビー卿がいい例です」
「ナッツかアーモンドの二択か」
「王族らしいといえばナッツ様でしょうね。あのような才能あふれた天才は稀ですよ。ナッツ様であれば、次代のグルドニアは安泰でしょう」
「ただ、目立った実績がない」
「さようでございます。中規模の迷宮等は踏破されておりますし、人馬一体でも二桁勝利を収めておりますが……アーモンド様の功績の前には霞んでしまいますな」
「学園で剣帝の称号持ち、十五歳で猿王レイアート撃退、獣国で十二の獣しか名乗ることを許されない帝の称号を獲得、西の中規模の迷宮踏破、王都奪還の立役者、海王神シーランド討伐……どれか一つでも王太子の基準はクリアしている。誰だ、王族の最底辺なんぞ評価したやつは」
「ボンレスハムとおっしゃっていたのはピーナッツ様でしたが、やはり不運の呪いが関係していたのでしょう。周りの対応が評価も伴わない態度でしたから、よりよく見えてしまいますね。容姿もお太りだった御姿が、お痩せになりお若いころのピーナッツ様にそっくりな好青年に見えます」
「貴様、嫌味か」
「他意はございません。アーモンド様はきっと今後も、我々の想像の斜め上の功績を上げていきます。今なら、今回のマナバーンでの影響で起こりえた迷宮魔獣大行進を防いだ功績でナッツ様を王太子にできます」
「……違うんだよな」
「なにがですか……」
「ナッツは俺の子じゃない」
「……」
「……」
ピーナッツとバーゲンは目を合わせるがお互いに沈黙がある。
「フィナンシェ兄上(元第一王子)の子だ」
「なっ……! 」
「俺は所詮、お飾りの王だ。お前が、今後どういった構想を持っているかは分からんが、世襲制を望むならナッツは王にはなれない」
「他に存じているのは」
「このことを知ってるのは、今生きているなかでは俺とお前と認知症の乳母だけだ。まぁ、皇后ジュエルも薄々は気付いてるがな。何にせよ自分の孫になるしな」
「できれば、いわないで頂きたかったですが」
「知るか」
アナライズは《演算》により導き出した『真なる海王神祭典』をアナウンスしたかったが、なぜかいえなかった。
今日も読んで頂きありがとうございます。




