エピローグ 猿芝居は終わらない 後編
外伝 ラストです。
1
「何を辛気臭い顔しとるんじゃ、まるで幽霊でもみたような顔しおってこのジジイは」
ベンがアルパインにいう。
「おやっさんも十分にジジイですぜ」
クロが茶化す。
「アル、年をとって逆にハンサムになったんじゃないか。まぁ、俺には負けるがな」
ジョーがアルパインを褒める。
「おー! これ、俺の槍じゃん、持っててくれたのか」
スイがはしゃぐ。
「皆の武器を背負って戦うって……さすが百器兵装殿だな」
シロも別の角度から茶化す。
「ほう、しっかりと手入れもされているようだな。関心、関心」
鍛冶屋のレツは機嫌が良い。
「アルは、見た目の割に結構デリケートなところがあったからな」
ヒョウが一応、褒めている。
「アル……良くやってくれた」
ギンが代表してアルパインの今までの労をねぎらう。
ベキベキベキベキ
ランベルトが作った土壁にヒビが入る。
「ああ、分厚くしたつもりですが流石に千単位は手に余りますね……いかが致しますかアルパイン閣下」
「閣下! 」「閣下! 」「禿げ閣下! 」
ランベルトや皆がイタズラをするようにアルパインを茶化す。
「誰がぁぁぁ! 禿げ閣下じゃあ! 」
アルパインは顔をカッカさせながら泣いている。
最高で最強の仲間達が猿芝居をしに戻ってきたのだ。
ビュー
東からは少し生ぬるい潮風が吹く。海も喜んでいるのだろう。
「決まっているだろう! お前ら! まあまあにやるぞ! 」
もう何も怖いものはない。
「「「ぶっ! 」」」
禿げ閣下がボールマンの真似をした。
お世辞にも似合っていない。
屋敷に控えてたハイケンが、衛星のトゥワイスからの映像を受信してこういった。
『魔獣大行進の作戦成功率が大幅に上がったことの一部の報告を終了したことを報告します』
冷静な執事機械人形ハイケンがエメラルド色の瞳をはしゃぐように何度も点滅させた。
2
「どおぅりやぁぁぁぁ! ワシの拳骨はちいっとばっかし痛いぞぉぉぉ」
ドッカァァァン
『拳骨』を装着したベンの一撃が大地を割る。
「「「ギィィィァィ」」」
土壁に囲まれた魔獣達が大地に足を取られて混乱する。
「全く、後で地面を直す身にもなって欲しいですね。我は練る練る高き塔を《砂遊び》」
ランベルトが『夜森の杖』の代わりにアルパインが胸元のポケットに挿していたペンを回しながら魔術を発現する。
アルパインとジョーの立っていた場所が高くなり、二人は戦局を見渡せるようになる。
魔獣が怯んでいる今が攻勢に出るチャンスである。
アルパインは瞬時に判断をする。今やどんな状況にも対応できる手札は揃っている。
アルパインはレツにハンマー『源』で土壁の一部を一匹が通れるように崩すように指示を出す。
その間は、スイが四足歩行でクロを乗せて騎馬のように土壁の中の魔獣達の気を引いた。
スイとクロは魔獣達を挑発するように攻撃しては離れてを繰り返した。
アルパインはヒョウに土壁の真ん中で暴れるようにいった。補佐に乱戦で気配を消せるシロを就かせた。
ヒョウは竜の血を浴びし大剣『夜朔』を振り回した。一振で五匹の魔獣をヒョウは屠った。
ヒョウに対する死角からの攻撃はシロがカバーした。
ガコン
土壁に穴が空いた。
魔獣一匹から二匹がやっと通れる大きさだ。
「キィキィ」
「グモオォォ」
「元つ月」
魔獣は外に出ようといきり立つが、そこには『ウォルンの剣』を携えたギンがいた。
制限された通路からの魔獣など、ギンにとってはただの作業である。
ジョーが準備詠唱に入り。
アルパインがボウガンでの遠距離攻撃で、スイとクロのサポートをする。
レツは散発的に《発火》を発現して魔獣の注意を反らし、ランベルトが魔獣からのブレスを《粘度》でレジストした。
アルパインは隙をみては自身も攻撃に参加しながら、指示を出す。
皆もアルパインが指示を出す内容をアイコンタクトだけでも、だいたい把握しており連携も非常にスムーズである。
アルパインは戦いの中でも嬉しかった。また、皆と共に、信頼できる友に背中を預けて戦えることがなんと心強く頼もしいことか。
「よし! 準備できたぞ」
ジョーがハンチングの形見である弓『皆中』に魔力を充填する。
「各自、土壁の外に退避ー! 」
アルパインは掛け声とともに、スイとランベルト、ベン、レツに合図を送る。レツが魔獣達の頭上に目立つように大規模な《発火》を発現する。
その隙にヒョウやシロ、スイにクロが土壁の外に出る。
ランベルトは、あらかじめ練っていた魔力で広範囲の《軟土》を発現し地面を柔らかくしたところで、ベンが再び拳骨により地割れを起こした。
ランベルトが地面を柔らかくしたために、二発目のベンの拳骨は落とし穴のように魔獣を閉じ込めた。
さらにはレツがハンマーである『源』の効果で土壁の穴を氷でふさいだ。
魔獣達は鳥籠の鳥のようになる。
「俺はあんまり弓は得意じゃないんだがな! ボールの魔術と一緒で加減ができんぞ! 我は練る、練る、幾千万の星を貫く、流星よ、降り注げ、《星崩し》」
ジョーが魔力のほとんどと引き換えに独自魔術を発現する。
「正射必中」
ジョーは練り上げた魔力を魔獣達の上空目掛けて射った。
ジョーは弓(皆中)の効果も相まって《星崩し》は魔獣達の上空より千を越える光の矢となって土壁の中に降り注ぐ。
皆も《星崩し》の有効範囲外に逃げる。
「ギィィィァィ」「キィキィ」「グガァァァア」
魔獣達の断末魔の叫びと、ズタズタで使い物にならない魔獣だったものが残った。
3
その後、皆はまるで時間だとでもいうように砂の体が風にさらわれるように消えた。
皆はアルパインに「孫の顔でも見てからゆっくり来い」といった。
あの日、円卓で『馬のションベン』を飲みながらランベルトの微妙な郷土料理を食してから、皆との最後の晩餐ともいえる猿芝居をうたれてからアルパインはずっと考えていた。
どうして自分が残されたのかを……
ただの花屋の息子が、ヒョンなことで貴族となり、仲間内で一番の凡才が長生きしてしまった。
時間が解決してくれたこともあるが、隙間には滑稽な自分がいた。
「父上ー! 」
息子のジークが泣きながらアルパインを呼ぶ。
アルパインを父上と呼ぶ。
皆の猿芝居がなければ味わうことの出来なかったこの世の何物にも勝る愛だ。
「「「閣下ー」」」
息子同然の兵達もアルパインを呼ぶ。
この十六年で温かいものが増えていった。
「ああ……ありがとう」
アルパインはやっと皆に感謝を告げることができた。
アルパインは、皆の形見を再び大事そうに拾った。
一番星と月に照らされた影達が、老人を祝福してくれた気がした。
エピローグ 猿芝居は終わらない 完
アルパインの見せ場になれたかは分かりませんが、ボッチ可哀想なんで書き下ろしました。
今日も読んで頂きありがとうございます。




