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12 モブ達の救済

キーワード、津波、あります。


プロローグ


海の水面が揺れる、ユラユラと揺れる。

その揺れがぶつかり合って大きな力を溜めている。

いつも、皆の母であり友である恵みの海が悪魔へとなろうとしている。

その様を片目の竜が嗤う。左目から血を流しながら満足そうに嗤う。

厄災がウェンリーゼを襲う。



「くっ! 《津波》か」

ボールマンはランベルトを見る。

「最悪のタイミングです」

ランベルトとハイケンの《演算》でも瞳を媒介にした《津波》は予測出来なかったようだ。

「ラン、私が【レジスト】する」

ボールマンがディックの杖に力を込め、九つの第一級人工魔石を手にする。

「ボール、ダメです。ここでディックの《竜巻》を使っては」

ボールマンは手を止めない。

「もう二度と……二度と過ちは繰り返してはならない」

「ボール……」

ランベルトはなにも言えない。この地を、復興に一番その身を犠牲にしてきた男を一番近くで見ていた臣下に、どうして王を止められようか。


ガシッ

「確かに、過ちは繰り返してはいけませんね」

ランベルトの沈黙を破り、ボールマンの手を掴む力強い掌のタコがきた。

「いけませんね。兄上、可愛い弟のオモチャを取るのは、まだ私の【ターン】です」

ギーンライトニング・ウェンリーゼが最後まで我々の祭典、〖オッサン達のゼロ次会〗、〖モブ達の救済〗を観てくださいという。


「ギン……」

ボールマンはギンの強い瞳に、義父であるキーリライトニングを重ねる。

「ヒョウに言われました。あまり遠慮し過ぎるのも可愛げがないとウェンリーゼの家系はワガママがよく似合うのですよ」

ボールマンはこの世で唯一の弟に……

「任せた」

全てを託した。


きゃはははははははは

絶剣が二人の仲を羨むかのように笑っている。


「兄上、スイ……皆からの伝言です。いつものように下ごしらえはしといたから、味付けは頼む。土産は鰭酒を、樽で持ってこいだそうです」

ギンが無邪気に笑う。別れにしては洒落が利いている。この五十年で大切なことを語り尽くしたオッサン達にしんみりした言葉は不要であろう。


「ふっ……まあまあだな」

ボールマンはいつものように翻訳が必要な言語を話す。

「貴方が兄で本当によかった」

「人たらしなところは、父上によく似てる」

「兄上には負けますよ」

しんみりしたボールマンが、ギンの額の三本傷を撫でる。

ギンは()()()な勝負の勝ちを兄に譲る。

二人は海を見る。

波が力を貯めている。

悪魔が海よりやって来る。

災いが来る。

ギンはウェンリーゼを人たらしな兄に譲ったが、この災いだけは譲るつもりはない。


ギーンライトニング・ウェンリーゼ、災いを切り裂きしもの、ウェンリーゼの正当なる血が最後の刀を振るう。



2

ギンが砂浜で海に向かって刀を振る。


いつものようにただただ型稽古を始める。

元つ月、気更月、弥生、厳しい寒さから始まる春の訪れを知らせる温かい剣を……


卯ノ花月、皐月、水の月、温かさは生命の息吹を促し恵みの剣を……


七夕月、葉落ち月、夜長月、暑さが終わりを告げ月を慈しむ夜の剣を……


神無月、霜月、夜風の冷たさを感じさせ、また年を越せるように神々に感謝を告げる厳かな剣を……


ギンのその型稽古を見ていたシーランドを含む皆は見惚れていた。

その舞いたるや、なんたる美しさか……シーランドは何故かその似ても似つかない舞いにかつての想い人(東の姫巫女)を思い出す。


ギンの辺り一帯に神なる力が宿っていく。


「ガララララララ」

先ほどまで高笑いをしていたシーランドは、ただならぬものを感じる。この無粋な竜は、神なる力に恐れおののき、無意識のうちにギンに向かってブレスを発現する。


「センセー(ギン)」

〖水上スキールーググ〗に乗ったアーモンドが荒波の中を爆走する。従者リーセルスは運転しながら顔が真っ青だ。

大波がルーググを飲み込もうとした刹那……

「啼け、猫啼きコトラ」

「にゃー」

アーモンドは〖猫啼きのブーツ〗の効果で十メートルの距離を任意の場所に《転移》した。

「あっ! アーモンド様、私はぁぁぁぁ」

リーセルスはルーググと運命を共にする。波にのまれながらその心意気天晴れである。

ギンにシーランドのブレスが当たるかという軌道にアーモンドが割ってはいる。

「センセーの神楽の邪魔をするな。映せパーシャルデント」

パーシャルデントの鏡(胸当て)が輝き、シーランドのブレスを跳ね返す。


「ガララララララ」

邪魔者は黙らせた。

余裕をかましていたシーランドは無防備なところで自身の跳ね返されたブレスを浴びる。

「があぁぁぁぁぁ」

ブレスを跳ね返した衝撃でアーモンドは砂浜へ吹き飛び、シーランドは目的地の海上ブイまであと一歩のところまで押し出される。



目標ポイントまであと5メートル



3

記憶の中の祖父ホワイト・オリアはいった。

《知覚》を使いすぎるなと、魔術に頼ったその感覚はギンの内にある芯を狂わせると……


ギンはいった。

父はどうだったのかと……私は父を、剣帝を超えたいと普通じゃダメなのだと……だって私はキーリライトニングの息子なのだからと胸を張った。


瞼を閉じる。追い風を感じる。


ドクン、ドクン


見えない声が聴こえる。


風が速さを増していく。故郷の風と海はいつでも自分の味方だよと囁いている。


どこまでも歩いても、歩いても見つけられなかった憧れに、あの日の背中に、掌のタコと剣に誇れる自分でいたかった。

本当は自分が領主になりたかった。

兄と双子の姉を、自分を選ばなかったブリキ人形を恨んだ。

自分だけ仲間外れにされているようだった。自分の居場所を、地位を、証明を奪われたようだった。

いつしか人を傷つけることしかできなかった、それはきっと剣よりも鋭く痛かったろう。

最後まで、父を超えることはできなかったが……自分には何度も傷つけて、許してくれて笑いあった仲間がいた。


仲間と一緒ならば伸ばしたかった場所(父)に手が届く気がした。


私は、誰よりも幸せ者だ


絶剣満天がギン色に輝く。

仲間達の色が末っ子の甘えん坊に応える。

その輝きは天上のどの星よりも眩しい。

その奥からキーリの魂が……ずっと拗らせたままの息子に微笑んだ。


「《知覚・極》」


ピチャン

水面のような静かな【プレッシャー】が広大な海を包む。


ギンはおもいっきり息を吸った後に、ゆっくりと息を吐く。


息を吸う、吐く。兄の優しさを吸う、自分の弱虫を吐く、皆の想いを吸う、皆の痛みを吐き出す。

(父上、いつもそこにいたのですね)

絶剣がカタカタとギンの代わりに、泣いてくれた。


四極しはつ

四季の終わりを告げる一振から、四つの風刃が魔力の渦を切り裂き、ウェンリーゼの海を切り開く。

今のギンは、今までにないくらいに【バッドコンディション】だ。魔力もなければ、気力も体力も残り少なく、この一振りが限界であろう身体で、《津波》の穴目掛けて剣を振った。最高の【タイミング】で振られたその一閃に力は必要なかった。

十六夜イザヨイ


月が照らした海面は、穏やかに揺れていた。

厄災(津波)は予言の通りに切り裂かれた。


「ガララララララ」

シーランドは自身の瞳を捧げた《津波》を【レジスト】され怒る。


ギンは魔力欠乏症により薄れゆく意識のなかで、迫り来る海王神シーランドを前にしようが、いつもと同じく絶剣(愛犬)と散歩(三歩)でもするかのように宙に歩を進めた。


ギンが最後に放った一閃は、始めて剣王デニッシュに教えてもらった、月日を繋ぐ月、神速の一閃……ギンの最も得意とする。

「元つ月」

絶剣満天・銀が七色の光を纏いモブ達のギンの想いを振るった。


きゃははははははは、えーん、えーん、


「ガララララララララララララララ」

その振りが終わった後には、シーランドが作戦指定ポイントに追いやられた。


『アルパイン様が、命名のイケメン軍団が【ミッションコンプリート】したことの報告を終了致します。皆様本当にお疲れ様でした』

機械人形ハイケンが〖海王神祭典・モブ達の救済〗を記録した。


魔力と神なる力を使い果たしたギンが灰となる。


「兄上、アーモンド(弟子)に皆からの伝言です。さっさと親父を超えて俺達の女神を幸せにしろだそうです」

ギンはボールマンに看取られ、満たされ笑いながらウェンリーゼの風となった。


死神が鎌を振った。死の神は不満げな顔をしている。どうやら神ですらその稲妻のような太刀筋をなぞることができなかったようだ。


時の女神は八つ目の赤いレンガを積み上げた。そのレンガは何の変哲もない赤いレンガだが、見る人が見れば黄金にも勝る、ギンギンに輝く混じりっ気のない銀色であった。


師である剣王デニッシュがいった「ギンギンに生きろ」とは古代語でこういった訳しかたもある。


誰よりも輝け、稲妻キーリを超えろ


ギンはその流れ星が消える最後の瞬間に父を超え、誰よりも輝いた。


カタカタカタカタ(えーん、えん、えん)

いつも笑っていた絶剣が初めて悲しそうに啼いていた。


海王神祭典・モブ達の救済 完





エピローグ


古来より【エール】という馬のションベン色の飲み物があった。別の古代語では応援という意味もある。

このモブ達は、星が導くままに愛する人や親愛なる友に出逢えることが出来た。


魂が巡るというが、この一番星のように星座になるのだろうか。ションベン臭い酒でも飲みながら今日も誰かを照らすのであろうか。

誰かが迷わぬように、大切な人達が暗闇でも迷わぬように誰よりも輝いたこのオッサン達……


どうにかして、宝物ラザアに逢わせてやりたいなぁ……と世界の神々が星に願った。


耳を澄まそう。

遠くから、エール(歌声)が聴こえる。これは、馬車引きの歌だろうか暁までにはまだ早いが馬車は廻る。

冥府の扉より、一番星の光を浴びて……

黄金色の砂が道を作る。

馬車は馬の行者はみるからに仕事が無さそうな男と左利きの男が……

馬車の荷台には大量のエールを浴びるように飲んだ八人のオッサン達が何やら騒いでいる。

耳を澄ますと、どうやら忘れ物をしたようだ。

それは女神ラザアとの大切な約束だそうだ。


ガラガラガラガラ


馬車は歌の聴こえるほうへ


アンコールのアルコール(酒)は何が飲みたいと時の女神が聞くと、皆は揃ってこう答えた。

ヒレ酒を一杯いっぱい、この酒飲み達はまだまだ宴が足りないようだ。


モブ達の祭典はまだ終わっていない


魔道機械人形ユーズレスは、演算でも解読できない奇跡を記録する。


クロ、シロ、ジョー、ベン、スイ、レツ、ヒョウ、ギン、きっとまた皆に出逢える。



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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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