11 ギーンライトニング・ウェンリーゼ
1
災いを切り裂きし剣帝
半世紀以上前に聖女が予言した当時の人気取りの【パフォーマンス】と云われた予言である。
「シーランド、四季を感じてみるか」
カタカタカタカタカタカタ
ギンと絶剣の【カウント】は続く。
「ガララ、ガララララ」
シーランドが《水球》を連発する。その数は十を越える。最早、遊んでいる場合ではないと知りながらも、その攻撃は余裕が感じられない。
ギンは、絶剣を鞘に納め一瞬のタメを作る。
「《知覚・中》」
息を吸い、吐く
「元つ月(一月)」
高速の一閃……
「気更月(二月)」
一閃から返しの二閃……
「弥生(三月)」
三日月の軌跡を描くような月の振り……
「卯ノ花月(四月)」
三日月より力強く踏み込まれた剛の太刀筋……
「水の月(六月)」
水面をなぞるような美しい水平の軌跡……
ギンが絶剣と空中を通り抜けた後には……
四散した水飛沫と
「ガララララァァァ」
全身に傷を負った海蛇の姿だった。
「シーランド、これが皆の痛みだ」
月夜がギンと絶剣を照らす。その刀身は黄金すら霞むほどに美しく輝いている。
グルドニアに大いなる厄災を切り裂く光が現れる。その者にふさわしき剣をあるべき場所へ導きたまえ、そのもの月より導かれし剣の帝なり
二つの月が輝く今宵、聖女のパフォーマンスが、時を経て実現されようとしている。
2
シーランドはギンの【カウント】に為す術がない。
ブレスを発現しようと背鰭から魔力を供給しようとすると……
「元つ月」
きゃははははは
神速の稲妻(一閃)が走り背鰭からの魔力供給を邪魔される。時間差のない《水球》を放つが……
「気更月」
きゃははははは
返しの二閃と耳障りな笑い声が《水球》を飛沫へと還す。
【ノータイム】の軽い攻撃は相殺され、タメがあるブレスでは背鰭からの魔力供給を的確な【タイミング】で邪魔をされ発現できない。
シーランドは思考し記憶を遡る。かつて、その笑う一振りの剣で我に恐怖という感情を植え付けた金髪の剣士……剣帝を……
「ガララララララァァァ」
シーランドは怒る。その刹那の感情に……シーランドは認めた。
この痛みを与えた羽虫どもを……奴らは、強者であったと……こやつは五十年前の剣士ではないがそのときの剣士であると……我を切り裂き、天界の神々にその力を示す海王神祭典を成せることのできるパラディンの資格を有していると……
シーランドがニタリと嗤った。金髪の三本傷の剣士よ、貴様はさぞ美味であろうと……
3
「ふぅー、はぁ、はぁ」
ギンは疲労を悟られないように表情を崩さずに呼吸を繰り返す。
この戦いで、ギンは【ダメージ】を負っていないが身体が悲鳴を訴えている。一発でも食らったら終わりの【デスゲーム】を綱渡りで行い、常に最善手を繰り出さなければないギンは一振り一振りに神経をすり減らし、気力を消費している。その蓄積した疲労に加えて、魔力枯渇寸前による気怠さと、硬い鉄を打ち付けるような手の感触に、掌のタコ達も感覚が無くなってきている。
〖絶剣満天・銀〗この魔力が大好きな大喰らいの相棒は、持ち主の力量によってナマクラにも神刀にも成りえるが、使用する際の魔力消費が多く燃費が悪い。
金級冒険者であるギンは普段、迷宮探索で得た業物の剣を使っている。しかし、どれも消耗品扱いあり、ギンの本気を引き出すことはできなかった。父が残し、レツが鍛え、師匠に返されなければならなかった双子の騎士の二振り、建国王アートレイの剣は巡り巡って、今この手のタコによく馴染む。
きゃはははははは
今となっては、この耳障りな笑い声からも感情を読み取ることができるまでになった。
世界で唯一無二の愛剣だ。
また、当の絶剣も自分を本当に笑わせることが出来るのは世界中探してもギン以外にはいないであろうことを理解している。この【バディ】は悪くいえば共依存、良くいえば最高の二人だ……短期決戦に至っては
ギンが息を吸い、吐く。
愛剣を振れるタイムリミットは長くない。
ギンは絶剣を鞘に納め、両の眼でシーランドを見据え感覚的に理解する。次の一撃が全力で絶剣を振れる最後の太刀である。
呼吸を整えたギンが空を駆けようとした刹那に、シーランドが神々すらも予想だにしなかった行動に出た。これまで、稲妻のような速さを誇るギンを捉えることができなかったシーランドは標的を変えた。この剣士の大切なモノを奪えばいいと、五十年前のあの時と同じように……そのためには多少の代償は仕方があるまいと。
シーランドは前脚爪牙を天にかざした。それはまるで、天井にあらせられる母なる女神に自身を捧げるような神秘的な絵画のようであった。
絵画から出た、誇り高き気高き海王神シーランドは、己の誇りを捧げ爪牙で自身の傷ついた左目(海の秘宝)をくり抜いた。
「ガァァァァ」
「なっ! 」
きゃはははははは
シーランドは王者の雄たけびと母への祈りを捧げ、ギンはその異様な光景に慄き歩みを止め、絶剣は狂気に笑い新たな絵画が描かれる。
シーランドは残る独眼竜で恐れ慄くギンのスキを見逃さなかった。シーランドは最高の魔力媒体の瞳を飲み込んだ。瞳が体内で弾け全身が青く発光し、一瞬で大いなる魔力が漲る。
「ガラララララ」
シーランドは発現した。人種には決して発現すること叶わない厄災を……潮の流れが強くなる。
大地が鳴き、海が荒ぶる。
神々のみ許されたすべてを飲み込む魔法《津波》が、五十年の時を経て発現されようとしている。
絶剣満天・銀 作画ヴァリラート様




