27 ラザア・ウェンリーゼ
1
バチバチバチバチバチ
月の雷を宿りし魔法の杖が完成した。
「「「ユーズ!」」」
ユーズレスは皆の力を借りて役目を全うした。ユーズレスが崩れ落ちた。辛うじて頭部と右腕がボディに残っているがほとんどスクラップだ。
『ビィィィィ、シャットダウン状態になります。ビィィィィ、シャットダウン状態になります』
現状でユーズレスは海王神祭典退場である。
サラサラサラサラ
ユーズレスを支えていたクロとシロの砂が崩れ落ちていく。
「わりぃ、兄貴、限界みたいだ」
「クロ……後でな」
兄弟は目を合わせた。時間の違いはあれど行先は一緒だ。
「クロ! 待ってよ」
「ははは、俺が、堪え性がねぇの知ってんだろ。祝勝会はマリーダのところで、今後も贔屓にしてやってくれ。頼むぜ」
「私だけのお子様ランチ出してくれるのは、あそこだけよ」
「ハハハハハ、そうだな。エビ油揚げにタールタルたっぷりな。あばよ、お子様……ああ、ツケ、はら……と……い……て」
クロが酒場ツケを払わずに、人生のツケ清算して逝った。
「クロ! 」
サラサラサラサラ
シロの時間ももう少ない。付与術師シロは、暗殺を生業とするが、モブ達の中でランベルトに次ぐ参謀タイプだ。シロは感情で動くことない。このリアリストは周囲の状況を把握する。次に消えるのは自分だ。ならば、精一杯できることをする。シロは思考した。
「ガラララ」
「ウォオオオン」
ガギン、バキン
現在、シーランドと戦っているのは突起戦力のギンとヒョウだ。しかし、この二人もリミットは近い。この二人だからこそシーランドを足止めできているのである。
『ビィィィィ、シャットダウン状態になります。ビィィィィ、シャットダウン状態になります』
ユーズレスは使い物にならない。
リーセルスは、魔力欠乏所により気絶しているため戦力外。
アーモンドも砂場に落ちて、魔力は感じるため死んではいないが、生命を維持しているのがやっとの状態だろう。
バチバチバチ
スクラップとなったユーズレスの手には弩級魔法《月雷》が宿ったディックの杖がある。皆の魂を代償としたこの魔法を、命中させればシーランドを殲滅することができる。
サラサラサラサラ
だが、誰が放つ。
自分はもう体の半分が砂となっている。ギンとヒョウは手が足止めで精一杯だ。何とかして、残してきたアルパインに応援を要請できないかと思考した。だが刹那に却下した。
サラサラサラサラ
ギンとヒョウの残り時間も少ない。アルパインの増援は間に合わないだろう。手札はあるのにそれをベッドするモノがいない。
「シロおじ様、私がやるわ」
ラザアが涙を拭き、身重の身体で立ち上がった。
「エミリア……お嬢様」
シロはその姿にかつてのウェンリーゼ領主であるエミリアを重ねた。その何かを決意した佇まいは、守られるだけのか弱き姫ではない。
そうだ、ボールマン亡き今、ウェンリーゼの正当なる領主はラザア・ウェンリーゼなのである。
ウェンリーゼ領主がその証であるディックの杖を握った。
2
「どうすればいい」
ラザアがディックの杖を握った。ラザアがシロに指示を仰ぐ。
「ちょっと、待て、《鑑定》」
シロが《月雷》を鑑定する。月雷は雷系の魔法の最高位である。広域の殲滅魔法で、月より舞い降りた神の怒りは罪人とすべてを灰と化すと《鑑定》結果が出る。シロが直感的にこの威力であればシーランドも跡形も残らないであろうと、ギンとヒョウを巻き込んで……
「ラザア、シーランドに向けて魔法を放て! それで、すべてが終わる」
サラサラサラサラ
シロの下半身が崩れていく。
「えっ! だって、まだ、ギンとヒョウが」
勘のいいラザアはこの高威力の魔法が二人を巻き込むことを分かっている。
「構うな! やるんだ! いま、このウェンリーゼを救えるのはお前しかいない」
シロが構わずに叫ぶ。
ラザアがシーランドと戦っているギンとヒョウを見る。この二人は、ウェンリーゼために、ラザアに導かれて冥府より蘇ったのだ。その時間が残り少ないことも分かっている。ここで、《月雷》の犠牲となってシーランドを道連れにできるなら本望である。それは、一度死んだ身からすれば、名誉なことであり仲間たちの想いを遂げたことになる。
スッ
ラザアが杖をシーランドに向ける。それは、ギンとヒョウに杖を向けたことと同義だ。ラザアは決断しなければならない。
選択肢はない。一択だ。ボールマンより受け継ぎしディックの杖を振る。
それで、すべてが終わる。
ウェンリーゼに再び平穏な日々が訪れるのだ。
きっと、父ボールマン、母エミリア、そして顔の見たことのない祖父キーリライトニング、スクラップになったユーズレス、砂となったモブ達も喜んでくれるだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぇぇぇぇ」
「ラザア! 」
ラザアは嗚咽しながら、嘔吐して、お腹が痛む。極度のストレスが身重のラザアに与えた影響は大きい。
手札はあるが、手札をきれるものがいない。
ラザアの雫がディックの杖に触れる。
神々も詰んだと思った瞬間に……
ビィィィィ、ビィィィィ、ビィィィィ
『……新たなマスターを登録しました。ラザア・ウェンリーゼをグランドマスターとして登録します。新たなマスターの誕生により、ディックが再起動します』
ディックの杖がエメラルド色の瞳を一回点滅させた。
うたた寝より、九番目の機械神がお目覚めになった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
あと、十話で完結宣言して終われませんでした。
人馬一体も終わってないし。
計画性がなく本当に申し訳ありません。
明日から、お彼岸で黒柴連れて帰省するので、連休中の投稿はお休みします。
一応、物語はフィナーレに向けて加速しているはずです。
あと、四十万文字突破しました。
こんなに連載続くとは思いませんでした。読者の皆様に深謝です。