23 十二の月と砂時計
1
「ギン、お前は誰よりもギンギンに生きろ」
(キーリより輝け、稲妻を超えろ)
師匠であるデニッシュ・グルドニアがギンに残した言葉だった。
絶剣がカタカタ震える。
クロの一途な色が
シロの優しい色が
ジョーのハンサムな色が
ベンの無骨な色が
スイの透きとおった色が
レツの職人の色が
ヒョウの気高き色が
七つの魂のカケラが混ざりあい、ギンの色になる。
〖絶剣 満天・銀〗
〖種類 〗刀(元はロングソード)
〖効果とストーリー〗
月の賢者である双子の騎士が振るった剣。刀身は一度折れてしまったが、レツがカブトアカの牙(象牙)と自身の羽を素材として鍛え直した。
非常に丈夫であり、重量も刀と変わらない。効果として、自動修復機能付き。空中を散歩(三歩)することができる。使い手の力量次第でナマクラにも神刀にもなりえる。
カタカタカタカタカタカタ
ギンが愛剣の握りを確かめる。大喰らいの絶剣が、周囲の濃い魔力粒子を取り込む。
「ここは、魔力の補充をしなくて済みそうだ。遠慮はいらないな」
「シーランド、四季を感じてみるか」
「ガララ、ガララララ」
シーランドが初手から全力のブレスを発現する。シーランドは数十分前のことを忘れてはいない。我を追い詰めた。我に恐怖なる感情を呼び起こした、笑う剣とパラディン資質を有する一人の剣士を……
ギンは、絶剣を鞘に納め一瞬のタメを作る。
「《知覚・極》」
ウェンリーゼの浜辺に静かな研ぎ澄まされた【プレッシャー】を敵味方一同が感じる。シーランドだけではなく、皆が一瞬鳥肌のようなものが泡立つ。
ギンが 息を吸い、吐く。絶剣には十分に魔力が供給されている。自分は、目の前に集中すればいい。
ブレスがギンに迫る。
キャハハハッハハハ
絶剣がこの世の果てからの再開を高らかに神々に感謝する。
ギンと絶剣の【カウント】が始まる。
「四極(十二月)」
四季の終わりを告げる一閃は……
「ガラララララララララ」
シーランドの渾身のブレスを四つの斬撃は悠々と切り裂いた。
ギンと絶剣のカウントは終わらない。
「元つ月(一月)」
高速の一閃……
「気更月(二月)」
一閃から返しの二閃……
「弥生(三月)」
三日月の軌跡を描くような月の振り……
「卯ノ花月(四月)」
三日月より力強く踏み込まれた剛の太刀筋……
「水の月(六月)」
水面をなぞるような美しい水平の軌跡……
「文披月(七月)」
七夕のように七色に変化する自由な剣は誰に捉われることもなく……
「葉落ち月(八月)」
木々の葉を裂くような柔らかい剣筋は美しく……
「夜長月(九月)」
下段からの高速の一閃は相手の意識の外から……
「雷無月(十月)」
音をすら消える急所を狙う突きは静かに正確に……
「霜月(十一月)」
霜が降ったような冷たさを感じる剣は振らずとも首元を冷やす……
ギンが絶剣と空中を通り抜けた後には……
四散した水飛沫と
「ガララララァァァ」
火傷のただれた部分を正確に抉られた海蛇の姿だった。
「父上、デニッシュ様、少しはあなた達に近づけたでしょうか」
月夜がギンと絶剣を照らす。その刀身は黄金すら霞むほどに美しく輝いている。
グルドニアに大いなる厄災を切り裂く光が現れる。その者にふさわしき剣をあるべき場所へ導きたまえ、そのもの月より導かれし剣の帝なり。
二つの月が輝く今宵、六十年前の聖女の予言が、時を経て実現されようとしている。
ザアァァァァ
潮の流れが月に導かれるように変わった。
2
「ガラララララララララ」
シーランドの鳴き声を一同が聴く。
「あっちは大丈夫そうだな」
ベンがいった。
「《同調》魔力切れだ」
ロはラザアを除くゴーレム達に魔術を発現した。
「アッツ! ぐうぅぅぅ効くぜぇ。そういや、マリーダにツケ払ってねぇや」
クロがユーズレスの熱を噛み締めながら、ツケを踏み倒そうとする。
「ふん、マリーダの酒場にいる背の小さい娘、どっかのチビにそっくりだかなぁぁぁあ」
ベンが暴露した。
「なぁっ! ちょっ! おやっさん! 」
クロの熱が上がる。今は熱はいらないが、砂のゴーレムにも生理現象はあるのだろうか。
「なんだと! それを、早くいえ! クロ! 危うくお前の娘に手を出すところだったぜぇえぇ」
ジョーも暴露した。狩人は狙った獲物は外さない。
「毎月、ツケの何倍も酒場の支払いして、ことあるごとに自警団の仲間を引き連れて、娘見たさに皿洗いまでしに行ってたからな。本当に素直じゃないな」
シロが素直じゃない弟の愛情を暴露する。
「ほう、あの娘はギルドマスターマルエフの隠し子の噂は嘘だったのだな」
獣人三兄弟長男無口なヒョウが、珍しくぶっこんできた。
「あん! そんなこといったのどこのドイツだ」
クロは興奮して古代エール帝国の名前を叫んだ。
「あっ! それの犯人、オレっぽい。なんか、マリーダとマルエフいい感じだったからさ。ゴメン、クロ」
獣人三兄弟末っ子スイが、素直にクロに謝る。
「すまん、クロ、スイに悪気はないんだ」
獣人三兄弟次男のレツが、重ねて詫びる。
サラサラサラサラ
六人のゴーレムたちはまるで、マリーダの酒場で酒の肴のように会話をしている。だが、ここは海王神祭典会場で、ユーズレスの熱を肩代わりしている。砂のボディが干上がっていく。
『バイタル195でギリギリをキープ出来ています。ビィィィィ、ビィィィィ、あと六十秒でチャージが完了します。それまで、皆どうか』
トゥワィスがアナウンスする。
『皆、もう大丈夫だ。これ以上付き合う必要はない』
ユーズレスが友にいう。
「うん、ボケちまって何言ってるか分からんわい。お前ら分かるか。ワシには、ケツの穴しかり締めて根性入れろとしか聞こえんぞ」
認知症のフリをしたベンが皆に聞く。
「おやっさん、入れ過ぎて下から出さないで下さいよ」
クロがいつものようにチャチャを入れる。
「何をいっとんのじゃ、とっくに漏れてるわい」
「「「……」」」
「「「はっはっはっ、さすが! おやっさんだぜ」」」
『みんな……』
「猿芝居は最後までやらんと、猿のアルパインとメイド長に悪いからのう」
サラサラサラ、ベンの砂が崩れていく。
『ビィィィィ、ビィィィィ、残り五十五秒です』
「ラザアや、子供のフンドシしっかり変えてやれよ」
「ベンおじいちゃん、待って行かないで! おじいちゃんのおしめ私頑張って替えるから」
「はっは、泣いとる顔も、エミリアに似てきおってからに。じいちゃんのおしめは……ちぃとばかし、くっ……さい……ぞぅ」
サラサラ
歳の順だとばかりに、おやっさんが笑って逝った。
神様の砂遊びは波のように、その魂を親愛なる者へ寄せて還した。
「皐月(五月)」は受けの技なので、今回は外してあります。
外伝からの話しの流用が多くてすみません。




