16 赤いレンガと砂遊び
一万アクセス突破記念で、休憩パートです。
皆様に深謝です。
第一部「イキルシルシ」から一部抜粋しています。
1
グルドニア王国
五百年ほど前に賢き竜ライドレーを倒した聖なる騎士アートレイ・グルドニアによって建国された。王家を中心として王より爵位を賜った各地の貴族によって統治されている。
その中でも王都を中心として影響力のある六大貴族がいる。
神殿を統括するダイヤモンド公爵家。
迷宮を統括するジルコニア公爵家。
軍部を統括するルビー公爵家。
財務を統括するサファイヤ公爵家。
農業や食の生産を統括するエメラルド公爵家。
国内外の流通を統括するムーンストーン公爵家。
この六大貴族家は、アートレイが国を興す際に多大な貢献をしたといわれている。その名残ではないが、世襲制であるグルドニア王国では王の妃として第一妃に六大貴族から嫁ぐことが習わしとなっている。
勿論、強制ではないが各世代の王の中には、他の貴族家から妃を娶った例もある。悪しき風習といえばそうではあるが、「尊き血には尊き血を」。
過去の建国の際に、六家の当主にアートレイが下賜した宝石にも似た輝きを宿した魔石がそれぞれの家名となっており、各家の秘宝としてに保管されている。王家を六家の絆はそれは、深く堅い物であった。
しかし、昨今の状況は変わってきている。
グルドニア王国歴508年に第三王子バターによるクーデターがあった。後押しをしたのは、バターの母親の実家であるルビー公爵家が後ろ盾となった。裏では、ムーンストーン公爵家が糸を引いていたとされている。
クーデターによる結果は散々なものだった。
王太子であった第一王子フィナンシェ、第二王子ゼリー、第四王子マーガリンが死亡した。また、床に臥せっていた賢王デニッシュが崩御した。それを機にバターは他国との戦争を宣言し強きグルドニアを掲げた。重い腰を上げて、現王である第六王子であったピーナッツがアーモンドと西のズーイ伯爵、東のウェンリーゼ伯爵の協力を経て王都を奪還した。
これは、グルドニア王国の長い歴史のなかでも血で血を洗う粛清であり、ワガママだった。
一番王位に遠かった迷宮狂いの道楽息子のピーナッツが王になるなど誰が予想していたであろう。そして、活躍したピーナッツの三男で王族の最底辺だったアーモンドは、民の間では次代の王に最も近しき存在である。
ピーナッツの妻レートは実家が西のズーイ伯爵家を生家とする。まだ公ではないが、東のウェンリーゼ家の姫君であるラザアはアーモンドの子を身籠っている。
さらにいえば、ピーナッツの母の実家は剣術でその名を馳せたオリア伯爵家で現宰相バーゲンの実家である。伯爵三家が勢いに乗っている。それを、六家が面白く思わないのは必然であった。
正常なる体制に戻さなければならない。次代の王の正妃は公爵たる六家が相応しい。なぜならそれは、建国王アートレイと交わした「美しき宝石の誓い」なのだから……
2
ウェンリーゼ領主邸 地下シェルターの入り口
「マダム。失礼、名簿にお名前がございませんね」
アーモンドの影といわれる親衛隊のクロウが、老婆を止める。
「ああねぇ……わたしゃ、領主様がお生まれになる前からこの土地にいるからね。そのころには、まだそんな戸籍なんてもんはなかったから、漏れてるんだろうね」
腰が曲がって杖をついた老婆が入れてくれないかと問う。
「そうでしたか、一応規則ですのでこちらでお話きいてもいいですか」
「なんだい、年寄だからってバカにするのかい」
「とんでもないですよ。ただね、足音がしないくせにわざとらしく杖の音だけ鳴らして、さらには杖から鉄の血なまぐさい匂いがプンプンする方が珍しかったので」
「……」
「あんた、仕事が雑だな。きっと正面切ったらなかなかに強いだろうけど、こんな脳筋の似合わない刺客しかだせないのはルビー家かな。ラザア様になにかあれば、銀狼に食いちぎられるのはご自身でしょうに」
カチャ
老婆が仕込み杖に手を伸ばした瞬間にヒヤリとした感触が首にかかる。
「一回でもまばたきしたらダメですよ。やっぱり、三流ですね。今度、サンタクロース養成塾紹介しましょうか」
目の前に先の軍服を纏った少年はいない。声をかけられるまで、老婆に偽装した暗殺者は少年を少年としか見ていなかった。非常時に駆り出されたお手伝いだと……周囲に死の匂いが漂ってくる。
「騎士が暗殺者の真似事は関心できませんね。ああ、この業界はもう人手不足でしたか」
サンタクロース、王族の手足となる影の親衛隊で名もなければ詳細も分からない都市伝説のようなものだ。
サンタクロース、それは、古来のクリスマスに赤い服を纏い無邪気な子供たちにプレゼントを配る聖人からなる。
王国のサンタクロースは、尊き血の為に自身を血で汚すことを厭わぬ狂人の集まりである。彼らに殺気はない、化け物はただ息をするように命を刈り取るだけだ。草刈と変わりない。だから彼らは死と平然と佇んでいられるのだ。
今月で十一人の部外者にサンタクロースから死がプレゼントされた。
主である、アーモンド様のお心を決して煩わせることなかれ。
それが、彼らの存在意義である。
3
地下シェルター内
ゴォォオオォォッォオッォン
「また、地震だ」
「もう、嫌だ」
「ああ、神様」
地鳴りが避難してきた領民の不安を煽る。
災害時で一番怖いのは、精神の疲弊であるといわれている。そのためには日頃の備えや心構えが重要である。しかし、いざその場になると隠しきれない不安は襲ってくる。それは、集団の人数が多ければなおさらである。ましてや、このウェンリーゼは過去に大きな爪痕を残している。
厄災級海王神シーランド、約五十年経とうがその恐れと、痛みは世代を超えてウェンリーゼの民に染み込んでいる。
ポロン、ポロン、
シェルターの奥には何故か大きなグランドピアノがある。このシェルターは、屋敷が立てられる前から地下にあるものでありその下には、迷宮となっている。その迷宮を突破した者には「秘密の部屋」という人類の英知や財宝か、そのものの希望が眠る部屋があるといわれている。
美しい音色だ。
王都といえ、このような音色を奏でるピアノはないであろう。勿論、ウェンリーゼが誇る万能メイドにしてアルパイン少将の妻、メイド長の指は鍵盤を優しく撫でる。
美声が聴こえる。
その声は、すべてを癒すような静かな海を思わせる。
ラザアは身重の身体でゆっくりといつもよりも、柔らかくそれでいて皆の視線を集めるように、不安を鎮めるように巫女の舞を踊った。
誰かが巫女の歌声に釣られた。
一人、二人とそれはピアノのメロディーに重なる。
皆が唄った。馬車引きの唄を唄った。
美の女神が釣られた。風の女神も釣られた。
ラザアは無意識にイキルシルシが発動した。
この唄が皆を癒すように、騎士たちに届くように、今日と明日が良い日であるように…
時の女神は、積み上げた八個のレンガを砂に還した。
本物の魔法が発現される。
数名の神々が少しだけ、手を貸す。
戯れではない、本気の砂遊びをする。
黄金色の砂がメロディーと歌声に重なり、ウェンリーゼ空に舞う。
冥界の門が開かれようとしている。
大神はその扉を閉めようとしたが、死神にいわれた。
対価も頂いておりますし、何より……ホームアドバンテージでは……
大神は、一瞬困った顔をしてそっと手を離した。
モブ達の救済が……冥府より、円卓の騎士が酒を片手に扉を開けた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)
本日の投稿はこれで終了です。
近々、外伝でよる予定だったモブ達のお話やりますので、良かったら外伝「ゴーレムのみる夢は~モブ達の救済」読んで頂ければより楽しめると思います。
https://ncode.syosetu.com/n1447id/




