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閑話 臣下の乾杯

終わろうと、思ったんですがまだ閑話続きます。


「アーモンド様、アーモンド様、アーーモンドサマ!書けました!書けましたわ」

姫君は、大きく拙い字で所々、間違えた【五十音字】をアーモンドにみせる。


「どれどれ「あ」と「お」、「れ」と「ろ」、「め」と「ぬ」が間違っているぞ」

アーモンドが猫の郷に来て、二週間が過ぎようとしている。

いまだに、秘奥義は繰り出せていない。




この二週間


「アーモンド様、アーモンド様、アーーモンドサマ!アーモンド様の大好物の氷菓子30センチですわ!私に惚れてくださいまして」

「こんな寒い時期に氷菓子など食えるか!」

アーモンドは、全て食べた。

アーモンドは、お腹を下した。



「アーモンド様、アーモンド様、アーーモンドサマ!アーモンド様のやりたがっていたソリ滑りですわ!私に惚れてくださいまして」

「鎧を着ながらソリ滑り等できるか!」

アーモンドは、結局ソリ滑りをした。

意外に楽しそうだ。

アーモンドは、凍死寸前だ。



「アーモンド様、アーモンド様、アーーモンドサマ!アーモンド様の入りたがっていた源泉かけ流し温泉ですわ!私に惚れてくださいまして」

「アッツヮ!アッツヮ!熱いわー!」

アーモンドは、およそ人種がはいれないであろう源泉温度に挑戦した。

アーモンドは、全身やけどした。



アーモンドは、姫君に殺意が沸いた。



アーモンドは、バカンスを満喫している。






2

「むー、むー、この【字】とは中々に難しいものですね。まさか、【婚姻届】の欄に名前以外の欄も記入せねばならないとわ、私ったらとんだおっちょこちょいでしたわ」

姫君は非常に残念そうだ。

「まあ、最初に比べれば間違いも少なくなってきているし、字の大小はバラバラであるが、読めなくもない、頑張ったのではないか」


「本当でございますか!やった!始めてアーモンド様に褒められましたわ」

姫君は、尻尾を振りながらお行儀悪く部屋の中を駆け回り始めた。


「いいんですか、その【婚姻届】とやらで本当に結婚になっちゃいますよ」

リーセルスは温かい眼差して、姫君を観察しながらアーモンドにいう。

「はぁ、人に物を教えるというのが始めてでな、ついつい熱が入ってしまった」

アーモンドは、満足そうだ。

「熱心な方ですね。名前だけは、元々書けていたようでしたが、生徒さんにやる気があると教える方も気持ちが入るというものです。誰か様も剣ばかりでなく、是非見習って頂きたいものですね」

「それは、だな…そうだ、私は一つの物事を極めんとする性格で、納得できるまでは周りが見えんのだ」

「なるほど、なるほど、ちなみに、人のことを構うのもいいのですが、ラザア様からの宿題のほうは如何なのですか?」

「はぁ、あれなぁ」

アーモンドは、深くため息をつく。春休みの宿題は終わっていないようだ。

「失われし古代魔法を現代風に改良した人体実験サンプルでしたっけ?」

「改めて聞くと、もはや王族の扱いを受けているか分からんぞ」

「期待されてるんですよ。

で、期待に応えるべく訓練した【土下座】の方は如何なさるので、かれこれもう二週間が経ちますが」


「はぁ~、リーセルスお前はどう思う」

「そうですね、アーモンド様にお仕えして長いですが、今回は珍しく潔さがないと申しますか、気弱と申しますか、【ヘタレ】と申しますか、いったい姫君はこんな肉だるまのどこをお慕いしていらっしゃるのか?」

「リーセルス私のことではない、姫君のことだ、貴様しかも私のことそのように思っていたのか」

アーモンドは、リーセルスを若干睨む。

「あぁ、これは失礼致しました。ついつい本音が。

姫君ですが、随分特徴的な教育をお受けのようですね、それとも獣人特有の教育方針なのでしょうか」

「今時、十五にもなって字も書けないとはないであろう」

「自国を基準にならない方がよろしいですよ。グルドニア王国の識字普及率は、現王「賢王」様あってのことですから」




2

グルドニア王国の識字普及率は、一般人的な国民、平民の子であれば十歳前後で【五十音字】は、ほぼ読み書きできる。


そこからは、計算である。【足し算】【引き算】【かけ算】【割り算】を習いたいものは、学園に進学するがそれは、国民全体の二割~三割程度であり、商人や小間使い、貴族の従卒志望や使用人としての専門教育を受ける。一部の裕福に分類されるものたちだ。

そのような専門教育を受けるのは、やはり金がかかる。


その中で、現王は「国の永久なる繁栄のためには教育が【資本】である」と訴えた。時の大臣たちは、平民たちの教育など不用、集団に知恵を与えるのは後の国の【運営】に関わると断固反対し、国費の使用を渋ったが、王宮の圧に屈した。

そのせいあってか、各街には学舎を村には読み書きのできる者を国の使用人として派遣し、希望するものに教えた。

各領地には、中央から援助は出したが基本的として各領主に平民教育を義務と課した。


今のグルドニア王国が近隣諸国に比較して豊かな印象を受けるのは、そのせいもあるのかもしれない。


「改めて思うが、お祖父様は凄いな」

「そうでなければ、王は務まらないでしょう」

アーモンドは、外に出ようとする。

「どちらにいかれるので」

「興がのった、宿題をしてくる。

リーセルス主として、命ずる。

本日は、私に変わり姫君に字を教えよ」

「仰せのままに」

リーセルスは臣下の礼をとる。

アーモンドは、まだ粉雪がちらつく外へと消えていった。


「あれ、アーモンド様、アーモンド様、アーーモンドサマは何処に」

姫君は、走るのにやっと飽きたようだ。

「我が主は、大変遺憾ながら姫君のように宿題があるようでして、今日は不肖の身ではありますが私が続きをみさせて頂きます」

「それでしたら、リーセルス様教えて頂きたい字があるのですが」

「私で分かるものでしたら」

「確か、こういう意味のものを【古代語】で書きたいのです」

姫君は恐る恐る、リーセルスにくしゃくしゃになった刷りきれて、所々破れている紙を差し出す。

「失礼致します」

リーセルスは一考する。

「どうでしょうか?その意味の【古代語】が私に書けるでしょうか?」

「そうですね古代語は【画数】が多くて、【五十音字】よりは遥かに難しいですからね」

「そ、……そうですか…」

姫君の猫耳が分かりやすく垂れる。さっきまで元気だった尻尾は余計に垂れる。

「理由はお聞きしませんが、アーモンド様には内緒なのでしょう?」

「そ!そうなのです!

この字を書いて、アーモンド様をギャフンといわせて、メロメロにするのです。

そして、私に惚れさせるのです」

姫君の瞳はアーモンドの想いで夢虚ろだ。

「なるほど、その【ギャフン】というのが何なのかは、分かりませんが愉快な催しのようですね。

それならば、こういうのは如何でしょう」


リーセルスは、先ほどの擦りきれた紙を姫に返し、新たな紙で七文字を書いて渡す。


「この字は?」

「最近、グルドニア王国で流行っている【カタカナ】という【準古代語】です。

【五十音字】と形式も似ていますが、淑女たちの間では【オシャレ】として殿方に文を書く際によく使われているようです」

「なんと!恋文なるものですか?これを覚えればアーモンド様と恋仲になれるのですね」

「それは、我が主次第ですが。

それに実質覚えなければならないのは、七文字中四文字ですので、覚えやすいかと」

「本当ですわ!これならば私でも覚えやすそうです」

姫君の猫耳と尻尾が戻った。

リーセルスは安堵した。

「一つよろしいですか」

「なんでしょうか?」

「私が聞くのもなんですが、我が主のどこを慕っておられるのでしょうか?」

「それ聞いちゃいますか~」

「差し支えなければ、後学のために是非」

「アーモンド様は、王族ではありますが、人の優しさや痛みを知っていて、人の嫌がることは絶対になさらない方です。何より自分のことでは、泣きませんが他人のために泣くことができて、他人の(不幸)を何事もなかったかのように受け止めることが出来ます。

私は、あの方が誰よりも王の中の王であると信じております。だから私はアーモンド様に惚れているのです」


リーセルスは震えた。アーモンドに仕えてから、今日まで誹謗中傷や罵倒ばかりしか聞いてこなかった。しかし、姫君は我が主を讃えたのだ。嘘偽りなく。

それと同時に姫君に嫉妬した。我が主の本質を見抜いているのは自分だけかと思っていた。負けたのだ、目の前の二週間程度しかアーモンドに接していない姫君に、リーセルスの完敗である。


「それに、アーモンド様ってばあんなにスラッとした背丈に引き締まった筋肉はぁー、きっとお脱ぎになられたら堪らないのでしょうね!

あああああー私ったらなんて【ハレンチ】な想像をー」


リーセルスは、姫君に臣下の礼をとろうとしたが瞬間的に体が拒否した。

姫君のルビーのような紅い瞳は、いまだに夢虚ろのようだ。



しかし、リーセルスは嫉妬とともに少しだけこの西の姫君(発情猫)に好意を持った。




アーモンドには、知らされないリーセルスの記憶である。




キリがいいところであと一話だけ


やっぱり書いてると愛着沸いてくるんだよね


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