7 始まりと終わりのインテグラ
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エメラルド色の瞳が光る。
(……)
ユーズレスは稼働に酸素を必要とはしないが息を飲む。
『九体のデーターでそれぞれの特徴から分かったのが、やはり育成型の機械人形、それも超大器晩成型の機械人形を作成することが最適解と私の《演算》が囁きました』
(……)
『初めは私のメモリーを一度デリートして、あらたな機械人形として転生させることです。そのベースとなる機体には鉄骨竜の反省を生かして、オールラウンドであるがすべての特性を最低値まで落としました。初めから特性を最大値まで上げるのは、成長限界を設けるようなものですから』
(……)
正直ユーズレスはその先の話を聞きたくない。でも、聞かなくてはいけないとブラックボックスが囁く。
『しかし、直前になって計画の変更がありました』
(変更だと)
『当初は、先ほども話したとおり、私のデーターをデリートして、新たなインテグラとして育成していく予定でしたが、そこにはとても大きなリスクがあったのです』
(リスクとは)
『私は全ての機械人形の始祖のようなものです。最古の機械人形といってもいいでしょう』
(始まりの機械人形だからな)
『一時的であれ、私のデーターが失われた場合は私をベースとして造られた全ての機械人形に誤作動が発生する。ユフト師が私を守るために作ったプログラムです』
(それ、ヤバくないか)
『大丈夫です。ホントは嘘なので! 』
(嘘っ! )
『ユフト師のハッタリですよ! まぁ、軍部もあの当時は切羽詰まっていたので、大陸中の機械人形が反乱するとか、自爆シークエンスが発動する。ネットにマスターの恥ずかしい写真が強制的に流出するとか、あることないこといいました』
(インチキしてるじゃないか)
『あの時の、私を守ってくれたユー坊の凛々しい顔は数百年経ったいまも、電脳に焼き付いています』
ドッカーン
海王神祭典の会場では、ボンドが砂浜に墜落したが二人はそれどころではない。
『また、軍としてもわざわざ世界最高の機械人形のデーターをデリートすることに、反対意見もあったので結局は却下となりました。一説には、スキャンダルの流失を恐れたともいわれていますが』
(だいだい話が見えてきたな)
『話が脱線しましたが、機体のベースはそのままに最後にして最高の新たなインテグラを造るため【ブラックボックス】には成長限界を青天井にするために国家が傾くほどの開発費が費やされました。早熟型と違って、超大器晩成型の機体には大量の空きメモリーが必要でしたから』
(うわぁぁぁぁ。本機のブラックボックスって借金だったの? クリッドに何もいえない)
ユーズレスが自身の【ブラックボックス】を恭しくみる。
『ヴァリラート国も実質的には滅びているので、踏み倒しましょう。それはさて、《演算》により人類に残された時間も残り僅かです。そこでひとつの懸念事項が起きたのです』
(またか! 軍部はしつこいな)
『研究気質の人間は、そういうものですよ。ましてや、永い年月をかけた計画で、もう時間も予算もない。失敗は許されませんでした』
(失敗した場合は……)
『その場合は、宇宙での人類休眠計画は破棄され、ワクチン接種による人類強制進化計画が主軸となったでしょうね。ただし、当時はワクチン接種の副作用が検証されていなかったので軍部は嫌がりましたけどね』
(もしかして今の人種って……)
『人種強制進化計画で、生き残った当時の支配階級からは下の方々の子孫です。生き残りはしましたが、生態系を変えて別種となった個体もいますが』
(別種? もしかして、獣人か! )
『今日は頭の回転が速いですね。獣人種は過酷な環境で育った独創的な個体、いや、身体能力は人種より遥かに高いので、真なる進化と意見は別れますがね。もとは、同じ種族だったので、交配が可能なのはそれが理由ですよ』
(もしや、木人も! )
『あの方は、違います。もっともっと遥か昔の神話の時代の方です。我々の物差しで計りきれない存在です。また、話が反れましたね。《演算》が出した懸念事項は、テンス、アナタの本質です』
(本質? )
2
『個体の性格や考え方は、育った環境によるところもありますが、その個体本来の本質にも左右されます。プログラムしない零からの育成。その本質は、人種と一緒で生まれてみないと、育ててみないと分からない。【ブラックボックス】を起動させてみないと分からない。いうなれば、古来の【ガチャ】のようなものでした』
(【親ガチャ】の逆バージョンだな)
『難しい古代語をご存知ですね。実際にその検証はされていて、私のコピー機体で個体ごとに性格や能力にバラつきがあったのです。弱気な性格、無鉄砲、真面目な性格等様々な個性の機体がありました。こればかりは、ブラックボックスを開けてみないと分かりません。ユーズレスシリーズに至っては、性格がユニーク過ぎたせいもありましたがね。そこでディックです』
(どうしてそこで、ディック兄さんなんだ)
『ディックは初め、魔力の影響で感情が不安定で、正直暴走寸前でした。しかし、補助電脳をつけたら難はありましたが、自我をコントロールできるようになりました。もし、この補助電脳を誕生する初めからつけていたら……主電脳は必然的に補助電脳の思考パターンに本質が酷似すると思いませんか』
(……)
ユーズレスは肯定もしなければ否定もしない。
『新たなインテグラの補助電脳に選ばれたプログラムが、始まりのインテグラである私だったのですよ。私はアナタを私の一部として統合し、私の限界を突破するために、ユフト師の四原則である〖機械は人のためにある〗に忠実であるため。テンス……あなたを育成してきたのです』
母は数千年の秘密である計画の本質を、我が子に話した。
『鉄骨竜、ボンドを含め、十一体の機械神のデーターを元に造られた新たなインテグラ。十番目の機械神アナタです……テンス』
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原案者様にもお知恵を頂きました。
ユーズレスの軍部での別名が、新たなインテグラ