6 ユーズレス計画
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天才魔導技師ユフト師の最高傑作にして、最古の機械人形マザー・インテグラ。その統合を司りし機械人形が旧国ヴァリラート帝国にもたらした恩恵は計り知れない。そのため、人々は期待した。一人の天才と機械人形に、それはある意味人類が自己による進化を止めた瞬間だったのかもしれない。
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「ユーズレス計画」
遠くない未来、機械厄災戦争により荒れた地上で人類が住めない場所と分かった軍部は、地上を浄化する方法をマザー・インテグラに求めた。しかし、早熟型機械人形のインテグラは既に成長限界であり、軍部を納得させるだけの回答は得られなかった。
そこで、軍部は新たな計画を立案した。それがユーズレス計画の前身であるインテグラ育成計画である。軍部はまず、インテグラのコピーを大量に量産した。戦争では指揮官級の個体として、それなりに活躍はしたが、オリジナルを越える個体は出現しなかった。その後、軍部は一旦、インテグラの育成を凍結してユフト師に新たな機械人形の作成を依頼した。それは、半ば脅しのようなものだったが。
そこで、作成されたのがユーズレスシリーズのプロトタイプである「鉄骨竜」である。インテグラを超える機械人形をコンセプトとした鉄骨竜は、当時のすべて技術を集約した最高の機械人形だった。性能面のみならば、であるが……強制的にすべての特性を詰め込んだ鉄骨竜は個性が強すぎて、軍部の手に負えずに暴走した。
その鉄骨竜を回収し、直すための医療ユニット「ボンド」を制作した。だが、事故により制作者であるアリスが亡くなったためボンドも暴走した。暴走したボンドは破壊神チェイサーとなり、各支部を暴れ回った。元々、医療用ユニットであるボンドは《結合》の特性をもっていたために、補給なしスクラップを自身に取り込み限りなく暴走した。この二体は戦闘面では、インテグラを上回っていたがそれは軍部の求めているものではなかった。
軍部は、一旦凍結したインテグラ育成計画を推し進めた。鉄骨竜ではすべての性能を底上げしたために、失敗した反省を生かして一個体に一つの特性を持たせた。それがユーズレスシリーズである。
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(……)
ユーズレスは何も答えなかった。ユーズレスは思考した。深く、深く思考した。
『ユフト師は鉄骨竜の反省を踏まえて、始まりの機械人形以外のユーズレスシリーズは、それぞれの特性を生かした。《演算》、《物理攻撃》、《防御》、《敏捷》、《魔法抵抗》、《器用》、《道具》、《魔法》の兄弟機を作りました。テンス、始まりの機械人形と同じ《統合》を司りし育成型の機械人形が誕生したのです』
(……)
『まず初めに、私のコピー機体の中でも優秀だった個体トゥワィスが衛星となりました。人類休眠計画を実行する私の予備としてです。軍部は僅かですがトゥワィスにも期待をしていました。そのため補佐として後になりますがデスクが生まれました』
(……)
『また、トゥワィスの成長を促すために地上のデーターをフィードバックするための外部ユニットとして《演算》を司るアナライズが創られました。アナライズには計画の全容が明かされました。また、地上の監視の役割も兼ねています』
(オネイ……サン……が)
『その後で造られた早熟型の機械人形レング《物理攻撃》とフェンズ《防御》とアギール《敏捷性》、ジスト《魔法抵抗》にはそれぞれ違った性格の電脳がプログラムされました。その異なった性格を分析、観察することで機械の情緒面のデーター収集したのです。軍部はこれ以上暴走する機械人形を作りたくなかったですから』
(ニイサン達は、独特だったけどみんな優しかった)
『ある一定のデーターは収集できました。そこで、今度は並列ネットワークに目を付けました。トゥワィスの外部ユニット、アナライズのデーターを元に、集団個体である《器用》デスクが誕生しました。複数個体のデスクはマザー・デスクを介して複数のチルドデスクの情報を全ての個体が共有できるユースフルネットワークのテスト個体でした。ただし、個体の自我を持ち始めてマッドサイエンティストになったイレギュラーもいましたが』
(デスクニイサンは、だからぶっ飛んでるんだな)
『そこから逆転の発想で誕生したのが、《道具》のツールです。彼の電脳は初めからぶっ飛んだ性格をプログラムしました。軍部としてもそういったデーターに何かヒントがあるのではと睨みました』
(ツールニイサンはだから、あんなにアップグレード、アップグレード、うるさいんだな)
補助電脳ガードもといインテグラとユーズレスの会話のキャッチボールがぎこちないが復活してきた。
『そこで、一つの答えが見えました。電脳の性格をプログラムするのではなく、まっさらな状態から育成してはどうかという案です。後期型のディックにはデーターが零の状態から育成が始まりました。計画では冷静沈着機械人形を育成する予定でしたが、彼の《魔法》という特性が電脳に影響を及ぼしました』
(魔法に? )
『大気中の魔力には実は感情があるのです。当時はそのような眉唾な話を誰も信じませんでしたが、ラザアの卒業論文の研究を手伝っていて分かりました。確かに、魔力にはその周囲の生命体の感情の残滓のようなものが含まれると、今なら確定していえます』
(ラザアはやはり、天才だろう)
『ディックはその感情に過敏に反応したせいで、エラーを繰り返しました。そこで、私のコピーでもトゥワィスに次いで優秀な個体を補助電脳としてあと付けしました。多少、幼さはありますが熱血漢なまっすぐな個体になりました。そのディックが、坊の魔法の杖になって再開したときは、びっくりしましたが』
(それだけ、坊が魅力的な大人になったということだな)
『前置きが長くなりましたが、ここからが本題です』
多少なり、二人の間の空気は和やかになってきたがここからが本番のようだ。
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ユーズレスシリーズの機械人形の特徴は、序章の第一話をご参照下さい。