5 補助電脳ガードという機械
1
ボンドが戦闘中のユーズレスの電脳内
『《高速演算》が終了しました。魔力残量が非常に乏しいです。稼働時間は残り一分です。テンスはハーフヒューマンに進化しない場合は、魔力切れにより再度シャットダウン状態となります。損傷が激しいので自動修復機能による再起動は数百年後となります』
補助電脳ガードが確認するように機械的にアナウンスする。
(本機は進化する。を選択する)
『ビィィィィ、ビィィィィ、ビィィィィ、エラー、エラー! ハーフヒューマンに進化した場合は、疑似体性感覚が形成されます。疑似痛覚により、主電脳に与える情報量が過負荷になりショートを起こす可能性があります。《演算》を発現します。ビィィィィ、ビィィィィ、《演算》の結果、九割九分の確率で、主電脳がショートします。』
(ショートした場合はどうなる)
『機械人形ユーズレスは、永遠に再起動が不可能なスクラップとなります』
(……ガード、進化する。を選択できないのか)
『ユフト師の四原則である、機械は自身を傷つけてはならないに抵触します』
(なんとかインチキできないか)
『機械にインチキは出来ません』
(ガード……ありがとうなぁ)
『なにがですか』
(ガードはずっと本機を守ってくれていた……いなくなってしまったオトサンや、オニイサン、オネエサンの代わりに……ずっと、本機のことを守ってくれてるのが分かるよ)
『テンス……』
(でもね。ガード、本機ももうそろそろ親離れしなきゃいけないんだ。じゃないと、この二人に笑われる)
ユーズレスが、腕の中にある一部となってしまったボールマンとハイケンを見る。
『……』
補助電脳ガードは電脳を通してユーズレスの気持ちを理解する。そんなことせずとも、補助電脳ガードはユーズレスのことをよく分かっている。なぜなら補助電脳ガードは……
(ガード、もう親離れしよう。この首輪、本当はもうとっくに外せるはずだ。頼む! オカアサン! )
『……いつからバレていたのですか』
(分かるさ、本機が何故、統合を司るか少し考えればな……まぁ、子育てしたからってのもあるけどさ。親にならなきゃ分からないやつ)
『……子の成長は早いとはこのことですね。これだけ一緒にいたのに、わからないものですね』
(数千年かかったけどな)
『超大器晩成型ですから』
(大物になっただろう)
『……後悔しますよ。人の痛みは機械の数値では計れないものです』
(当たり前だろう、大丈夫さガード! 木人がいっていた。本機は、心を受け止めて愛を知る機械人形らしいからな)
ユーズレスは補助電脳ガードに向かってエメラルド色の瞳を一回点滅させた。補助電脳ガードには、それがまるで、イタズラがバレた子供のように見えた。
『テンス……少し話をしましょうか』
(あまり、時間はないが)
ユーズレスが、爆発しながら喜劇回しをしているボンドを見る。
『最後の母からのお願いです。始まりの機械人形のオリジナルであるインテグラからの……十体の機械神ユーズレス計画の中心である貴方に秘密を打ち明けます』
補助電脳ガードが、深々とユーズレスに最後のお話を始めた。
2
機械厄災戦争時代に始まりの機械人形マザー・インテグラは軍のコンピューターを総動員して大規模《演算》を行い未来予測とした。その結果は、戦争の果てに人類の滅亡した世界、魔力濃度が非常に濃い生物の住めない世界であった。
軍部は戦争の最中、人類を存続させるための計画を立案した。
「人類休眠計画」
高位の貴族階級のみを宇宙に休眠させる計画。休眠施設には始まりの機械人形であるマザー・インテグラを核とした、直径五キロに及ぶ強大な衛星を拠点とする。システムの全ては統合を司るマザー・インテグラが管理し、補佐として器用を司るU-7デスクも同行した。一部の人類は、人工休眠機で長い年月を休眠する。再び、地上が浄化されるその日まで……
「地底人類進化論計画」
医療ユニットであるボンドのデーターの元になったコンセプトの一つで人類を種として進化させる計画。アリスが幼少期に空想の産物として、ノートに残した走り書きのような構想で日の目を浴びることはなかったが、ユフト師が苦肉の策として手を加えた。地上に残された人類に強制適応ワクチンを接種させて、体内の魔力適応値を強制的に上昇させる計画だが、想定よりも地上の魔力濃度が高すぎて失敗に終わった。
ユフト師はその英知を総動員して突貫であるが、地下大都市「バイブル」を建設した。残された人類はバイブルで疑似人工太陽と地下水脈を頼りに生活している。マザー・インテグラの《演算》により数世代の後の人類は自体が魔力適応値が地上で生活できる適正値まで上昇し、それに加えて地上の魔力濃度が低下しているという予測の元に、地上に戻れる日を夢見て……
3
『ただし、主軸となる「人類休眠計画」には問題点がありました。地上の魔力濃度が幾万時を過ぎようと人類に害を及ばさない適正値まで低下しないというのが、《大規模演算》の答えでした』
(そうか、クリッドとの一部のメモリーを復元したあの時代より、現代は大幅に魔力濃度が低いが……)
『イレギュラーが発生しました。それが、クリッドと超大器晩成型であったテンスの第一次成長です。あなたとクリッドの二人は、誰にも想像がつかなかった方法で、地上を元に戻したのです』
(全然、記憶にないんだけど)
『まだ、そのメモリーは封印されていますから、まぁ、ある意味そのツケが厄災となっているのですが……ネタバレは好きじゃないので、これはまた別のお話で』
(ツケは良くないな。ちゃんと払わないと)
『話を戻しますね。上空に上がった私のコピーユニットである。マザー・インテグラ、シークレットネーム双子のトゥワィスでは制御システムを管理しきれなかったのです。そこで、器用を司るデスクを補佐として付けました。デスクによると、休眠システムを維持できるのは数千年単位が限界だと。それ以上は、個体から科学的には説明できない魂のような存在が抜ける可能性があるとのことでした』
(よくわからないな。デスク兄さんにしては非合理的な解釈だ)
『確かに、非合理的な解釈です。ですが、この数千年をアナタと共に稼働して数々の出来事を見て感じました。それは、数値やデーターでは測りきれない奇跡なる事象です。本当に神様もいるのかもしれませんね』
(泣き虫な悪魔もいたしな)
『……本当に楽しい日々でした……テンス、アナタはきっと私を軽蔑するでしょう』
補助電脳ガードであり、マザー・インテグラは決意したようにいった。
『ユースフルネットワークシステム。通称「ユーズレス計画」はテンス、成熟し完成した個であるアナタを……私が統合する計画です』
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補助電脳ガード=始まりの機械人形マザー・インテグラです