4 喜劇回し
1
《水球》の嵐がボンドを襲う。
「くっそう! こうなりゃ、破れかぶれだ」
ボンドが結合した柄杓を振る。柄杓に《水球》が触れた途端に消失した。それは、摩訶不思議な現象であった。一振り、二振り、三振り、ボンドが柄杓を振るう。《水球》がまるで、柄杓を敬うかのように水飛沫となる。
「なんだぁぁぁあぁぁ、良く分かんねけど、大したもんじゃねぇか」
ボンドがシーランドに向かって柄杓を向ける。カッコつけているようだが、柄杓は柄杓である。
「……ガララ……ガララ……」
それは神々も予想だにしないことだった。シーランドが身じろいだ。なぜか、シーランドが柄杓に震えている。母である海と水の女神に神々は説明を求めるが、二神も理解に困る。
「なんか知らねぇがビビってんのか、だったら容赦しねぇぜ! ルーレット! 」
余裕ができたボンドは、マントの四次元から武器を取り出す。
「これも当たりじゃねぇか」
〖伸び延びぐんぐん=サークル・オブ・エンド〗
〖種類〗蛇腹剣 (ボンド専用武器)
〖効果とストーリー〗
刃の部分が等間隔で分割され、繋がれたワイヤーによって鞭のように変形する剣で、堅さと鋭さを持つ刀剣と、柔軟性があり長さも変幻自在な鞭の性質を持つ。《伸縮》の魔術が付与されており、ボンドの魔力次第で何処までも伸びる。勿論、各部の刃には火薬を仕込んである。夢のある武器。
「オラオラオラァ、容赦しねぇぜ!伸びろーぐんぐん」
ボンドが蛇腹剣を振った。刃と刃の関節部のワイヤーが伸びてシーランドの全身に巻き付いた。本来であれば、各関節の刃で変幻自在な攻撃をする。しかし、シーランドの鋼鉄以上の強度を誇る鱗には刃による斬撃は、効果は薄いとボンドは思考した。
「うちの夢見る武器はひと味違うぜ。エンド! 」
ドッゴォォォン
ボンドが柄の部分のトリガーを引いた瞬間に豪快な爆発音と火薬の匂いが漂う。
「ガララララララァァァァッァ」
シーランドの全身に爆炎の熱さと衝撃による【ダメ―ジ】を受ける。
「へ! ざまあみはぁぁぁぁぁぁあぁ、がふう。あちぃぃぃいぃ」
なぜだが、ボンドの蛇腹剣の柄の部分も爆発した。ボンドは、爆炎と踊った。
ペラペラ
再び注意書きが舞い降りた。
〖火薬、マシマシでサービスしときました。ジャンクランド住人一同〗
ちなみに、ジャンクランド住人に全く他意はなく、ただただボンドに喜んで欲しいだけである。シーランドが怒りに任せてブレスを発現する。ボンドはブレスを〖ジャンクマント〗で受けた。ボンドの炎はブレスの水飛沫で消えた。
木人の視線はいっそう冷たくなった。ホクトは楽しそうに鳴いた。
『違うんだ、これは、これからが、本番なんだぁぁぁあぁぁ』
ボンドの身体が光る。どうやら、時間切れのようだ。
《強制転移》は任意の転移ではないために、膨大な魔力を湯水のように使う力技の《転移》である。マーキングした対象の意思に反しているために、正式な術式手順を行っていない術はリスクが伴う。
木人はリスク回避のため、一定の時間が経過すると魔力の流れを巻き戻すようにしている。魔力が暴発しないギリギリのラインとして《強制転移》で転移座標にいられる時間を五分と設定した。五分を過ぎると、元の座標に戻る仕様だ。
尚これは、一介の魔術師であれば数十人の魔力を使用しての儀式魔術クラスの術である。それほどまでに《転移》いう魔法はこの世界では規格外とされている。
ボンドの後方で光の柱が出現した。どうやら、もう一体の機械人形が眠りから目覚めたようだ。
『おおう! 兄弟! 見せ場は作っといたからあとは任せたぜ! 』
「あんた、なにを、さも善戦したみたいなことおおいいだい。恰好ばっかつけておいて」
「キャン、キャン」
木人の言葉にホクトも同意する。
『違うんだよっぉおおおう。俺の本気はこんなんじゃないんだよう。ちゃんと、【フルアーマー】の時に呼んでくれよぉぉぉう』
ボンドは半べそかきながら光の包まれて消えていった。
「あの子、本当になにしに来たんだい」
自分で呼んどいてそれはないだろうと、神々がボンドに同情した。大神は「面白いもの」が見れただろうと大いに笑った。
カラン
柄杓がボンドの代わりに音を立てて砂浜に佇んでいた。
2
ジャンクランド玉座の間
『おかえりなさいませ。ボンド様』
『おかえりー。おんもは楽しかったかしらー』
レングとフェンズが無事なボンドの帰還に安堵する。
『ボンド様、ボンド様、ジャンクマントと夢見る武器つかって頂けたようで、国中で皆が歓喜に満ちてます。海蛇を退治して、ウェンリーゼを救った大英雄ボンド様の武勇伝は、吟遊詩人によって唄もできています』
ユニコがジャンクランド住人の気持ちを代弁する。
『ええええええええええええ』
ボンドが叫んだ。ジャンクランド住人に悪気はない。本当にみんなボンドが大好きなだけなのだ。
『おやおや、ボディに軽微な損傷がありますね』
『流石は、厄災級の海蛇ね。うちの王様に傷をつけるなんて大したものだわ』
実際は「夢見る武器シリーズ」による自爆によるものだが……
『ボンド様、ボンド様、こちらで海王神シーランド討伐の宴の準備が出来てます。ボンド様の無事のご帰還と武勇伝を聞こうとジャンクランド住人が城に集まってますよ』
『なんだとぉぉっぉっぉぉおぉ、皆、仕事はどうした』
『ボンド様のおっしゃるようにやはり、機械人形といえど、人種に習って【働き方改革】は重要ですから、もう遅い時間ですが今日明日は「ボンドと海の日」ということで祝日を設けました』
『祝日の名前は私が考えたのよ。ウェンリーゼの海を救った英雄ボンドを称した海の日なんて素敵でしょう』
『あっああああ、そうだな。ありがとうな……あああ』
レング、フェンズ、ユニコよ。君たちは本当によくできた子達だよ。ジャンクランドの皆はボンドの勝利を疑わない。
『ボンド様、ボンド様、国民が英雄ボンド様のスピーチを待ってます』
『ウェンリーゼの避難民の皆さまも、ボンド様のシーランド討伐を聞いて涙を流して喜んでおりました』
『あの人種の坊やの、ボンド様の話をしたときのキラキラした目なんて忘れられないわぁ。なんだか、私の【ブラックボックス】もキュンキュンしちゃったわあ』
ボンドの逃げ場は塞がれた。ボンドは勇気を振り絞った。
『実は、なあ、あの、海蛇まだ』
『『『ボンド、ボンド、ボンド、』』』
ジャンクランド全体にボンドコールが鳴り響く。
『あ、う、ああああああ』
巨帝ボンドの本当の戦いが始まった。
『アッツ! 写真……貰うの……忘れた』
巨帝ボンドの戦いは終わらない。
ボンド様ありがとうございました。
原案は、ヴァリラート様でした。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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