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2 厄災と厄災

1


「キャン、キャン」

 崖の上からホクトが啼いた。それは戦いの合図のようであった。


「ガララララララ」

シーランドが吼える。海王神祭典がフィナーレを迎えようとしたときに、突然現れた無作法な横やりを入れてきた機械人形に怒る。


「うるせぇ! 美味しく叩きにしてやるから待ってやがれ! ルーレット!」

ボンドがジャンクマントに付与してある四次元より、装備を取り出す。


ボンドは本来、巨帝の名のままに、愛用武器である六メートル半はある大斧〖巨帝〗を力の限り振り回し、常軌を逸した暴風のような戦闘スタイルである。

ただし、それは周りの被害も甚大であり、ジャンクランド住人はボンドのサブウエポンを検討した。その噂はボンドが大好きなジャンクランド住民に瞬く間に広まり、多くの献上品という名目で山のような武器が城に送られてきた。

ボンドはその純粋な厚意を無下にもできるはずもなく、非常用としてマントの四次元に収納した。武器たちはそのピーキー過ぎる性能から実戦の機会は少ない。だが、武器たちは待っている。いつか、大好きなボンドの為に役立てるその日を夢見て……


「今回は、こいつか。短い得物はあんまし得意じゃねぇんだがな」

ボンドが【ランダム】に取り出した今回の武器は、近接武器の両手用のトンファーであった。


 ボンドがトンファーの握りを手に馴染ませる。ボンドは一通りの献上された武器の扱いは可能である。なにせ、ジャンクランドの良き隣人たちの期待を、どんなことがあろうとも裏切らないのが、器の大きな大きな巨帝ボンドなのだ。


「ガララ、ガララ」


 シーランドがノータイムでの初級魔術《水球》を数十発放つ。初級魔術であるが、一発一発の威力は巨木をへし折る中級魔術クラスの威力だ。遠距離攻撃の選択肢がないボンドは、距離をとられては反撃の選択肢がない。ボンドは駆け出した。ウェンリーゼの砂浜をジグザグに的を絞らせないように駆ける。


「あん、チッ!」


 ボンドが砂に脚を取られた。今回はドノーマルのために、重量はいつもより非常に軽量のボンドであるが、それでも百キロは超えている。また、ボンドはユーズレスに比較して初期型の機械であり、で元々医療用ユニットであり戦闘特化型ではないため、補助電脳は搭載していない。後期型のユーズレスのように、補助電脳ガードによる地形適性を調整するための《演算》は自身で【マニュアル】で行わなければならずに、【オート】ではないのだ。


 ボンドの足が止まった。ボンドはジャンクマントを前方にやり自身を覆いかぶせる。数十の《水球》が雨のように押し寄せる。


「鬱陶しい」


 マントに付与してある《犠牲》の効果で【ダメ―ジ】は全くないが多少の衝撃と、水飛沫による視界不良がボンドを苛立たせた。その刹那に、左側のマントを覆っていない部分に衝撃が走った。ボンドは咄嗟に左腕のトンファーで防御したが、衝撃の勢いのままに吹き飛ばされた。

シーランドによる尾の横なぎであった。シーランドはその永遠なる脊椎を鞭のようにしならせ、遠距離からの物理攻撃をしてきたのである。《水球》で水のカーテンを敷き視界を奪っての尾の攻撃とこの竜は、十一人の騎士とユーズレス、アーモンドの戦闘経験を十全に生かした攻撃だ。


「けっ! やるじゃねえか」


 ボンドは吹き飛ばされながらも《演算》を使用して砂場の地形適性を計算しながら着地した。体勢が多少崩れたが、一発喰らって頭が冷えた。

息つく暇もなく、再び数十発の《水球》の嵐がボンドを襲う。ボンドはジャンクマントで防御する。先ほどと同じ展開で、ボンドは防戦一方である。しかし、これは木人の依頼からすれば最適解だ。今回の木人のオーダーはあくまで時間稼ぎである。

ドノーマルで準備不十分なボンドは本来の力が発揮できない。だとしたらシーランドのペースではあるが、【安全マージン】を取りながら防御に徹するのは悪い策ではない。

しかし、ボンドはマントでシーランドの攻撃を耐えながら思考した。このマントが受けた攻撃微少ではあるが、ジャンクランドの皆を攻撃していると。ただしこれは、ボンドにとってであり、ジャンクランド住人は大好きなボンドの為なら、いつスクラップになろうと本望であり、ボンド役に立てるならいつ活動を停止しても構わないとさえ思っている。

ボンドもその事は百も承知だ。

だからこそ、余計に悲しく、イラつくのだ。国民を盾にしている自分が。


『があああ、やめだ、やめ、おりゃぁ』


ボンドはマントでの防御を中断した。シーランドの《水球》はそんなことお構いもせずに、無慈悲に迫る。


バシュ、バシュ、バシュ、バシュ


ボンドが両腕のトンファーを順手に振った。《水球》が水飛沫に戻る。トンファーは、刃物のように切り裂く攻撃は出来ずリーチも短い為に使い手を選ぶが、熟練した使い手には取り回しもよく防御や殴打に向いた攻防一体の武器だ。


今のドノーマル状態のボンドには、パワー不足で振れない重量級の獲物よりも、高速戦闘に重きを置いたトンファーあればとても相性がいい。


水飛沫で視界が遮られたボンドにシーランドの前脚からの爪牙が振り下ろされた。


「パターンが同じなんだよ! 《演算》」


 攻撃を予測していたボンドは両手のトンファー逆手に交差させて爪牙を受け止める。ボンドの脚が砂浜に埋まろうかという瞬間に衝撃の反作用を利用し、全身をバネのようにして交差させた両手のトンファーで爪牙を弾いた。


「ガララ」


 これにはシーランドも意表を突かれた。これは機械人形であるボンドの金属による剛性と、《演算》による絶妙な刹那の【タイミング】がなせる技だ。


 ボンドはそのまま駆け出し、跳躍した。シーランドのがら空きになった胸部に肉薄する。


「喰らえ、トリニティ・エンド(パイルバンカー)」


 シーランドの左胸部にトンファー両の筒部分を向けた刹那に……


 ドッゴォォォォッォン


 怒れる破壊神の一撃が炸裂した。



今日も読んで頂きありがとうございます。

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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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