1 機械人形ボンド
第二部 エピローグからの続きです。
ボンド様パートです。
1
ジャンクランドからウェンリーゼに《強制転移》させられたボンド
光の柱が発現した先には……
『何だ。こりゃあ、何がどうなってんだ』
ボンドは困惑した。木人により《強制転移》で連れてこられた場所にはボンドと同じ厄災級と恐れられている海王神シーランドが目の前にいたのだ。
「ガラララララララララ」
シーランドも困惑した。シーランドはボンドのことは無論初見であり知らないが、この個体が内包する魔力量はシーランドとて無視できるものではない。
『おいこら、木人! いつも、いつも、急に呼び出しやがって、ちくしょう聞いてないぞ。しかも、前より若返ってるじゃねぇか。そういう時は、必ずダルいことしか起きねぇ』
ボンドは、五百メートルほど離れた崖の上から高みの見物をしている三十代前半に見える木人を《探知》で発見する。木人は何かの魔術を使ってか、遠く離れたボンドの声を聴く。
「あっちゃぁ、【フルアーマー】じゃなくて着の身着のままで来ちゃったのかい。王たるもの常在戦場の心構えでいることが大切だっていうのに、嘆かわしいねえ」
『ふざけるな! 点検整備期間中だったんだよ。大体なんだよ。この海蛇はなんかメッチャ睨んでるんだけど』
ボンドは【感知センサー】の感度を上げて木人と【コミュニケーション】を取る。
「まあ、ちょいとお客さんのお相手をしていてくれないかい。今回は、特別にご褒美を用意しといたよ」
木人が三枚の【写真】を取り出す。
『ああん、なんだ。ただの子供の姿絵じゃねぇか。いや、おい、ちょ、おおおっと待ったあぁ! それは、お! オカアサンじゃねぇかぁぁぁぁ! 』
ボンドがすべての【視覚センサー】を総動員して望遠の倍率を上げる。
今、シーランドには背中を向けて全く警戒すら出来ていない。しかし、戦闘経験を積んだシーランドはこれが強者たるものの罠だと勘違いした。いま、無防備の状態でブレスの一発でも浴びればボンドはスクラップになっていたであろう。運命神のツキはまだこちらにあるようだ。
「おや、おや、さすがにお目が高いねえ。そうさね。これが、弟子入りした時の十歳のアリス、これが、入学式のアリス、そしてこれがなんと激レアお昼寝アリスちゃんだよ。もう入手困難なコレクションだよ。非売品だよ」
『にゅ……入手困難、コレクション、非売品だと……』
「今なら、特別にラミネート加工と状態保存を付与してあげるかね。期間限定だよ。大盤振る舞いさね」
『ああああああありがとうございますぅぅっぅうぅぅ』
ボンドは木人に深々と頭を下げた。
巨帝ボンド、この厄災級に指定されている機械人形は医療ユニットとして、生みの親アリスと設計コンセプトの段階で、ユフト師の技術を加えたユーズレスシリーズの兄弟機にあたる。
その電脳は亡き母を追い求めた【マザコン】であり、古来のネット通販が大好きであったアリス同様に過度の蒐集癖がある。ましてや今回は母であるアリスの姿絵は、ボンドにとって神話級のアーティファクトに相当する。コストとしては銅貨一枚にも満たないだろうが……このような木人とボンドの心温まる関係は数百年続いている。
2
「五分程度でいいから、その海蛇の相手をしておやり」
『おい、いくら俺でもこの装備で五分じゃあ討伐できないぞ』
今日のボンドは、ノーマル装備で身長はグルドニア成人男性の平均である百七十センチ程度で、装備は風に吹かれて、真っ赤にはためく〖ジャンクマント〗のみだ。
「安心おし、あくまで時間を稼いでくれればいいよ。そろそろあんたの兄弟が起きるころだからね」
木人がボンドの死角で【シャットダウン状態】のユーズレスを指さす。
『オワッ! なんじゃこりゃあ! 兄弟じゃねぇか! なんでこんなボロボロに』
「色々、あってね。今回の環境下だと、まだ、あんたと戦った時の力の半分もだせていないんだよ。まあ、これからどういう選択をするかによっては、化けるけどね」
ボンドに木人の声は聞こえなかった。
正確にはセンサーは認知していたが、ボンドの電脳には久しぶりに再会した兄弟がボロボロでそれどころではなかった。ボンドは、ユーズレスに近寄った。膝をついてユーズレスの頭部を撫で、近くにあったボールマンとハイケンの首をユーズレスの腕の中におさめた。
「悔しかったろうなぁ、兄弟、一生懸命大事なモノを守ろうとしたんだな。ボールマン、機械に優しい魔導技師だった。フェンズになんて言やぁいいんだよ。このぶんだと、ベンの爺様も逝っちまったんだろうな。ハイケンも戦闘用じゃねぇ癖によう……頑張ったんだな……みんな悔しかったろうなぁ」
それは見間違いだったのか、ボンドの目から雫が落ちる。オイル漏れでもしているのであろうかと、神々は機械のココロを推し量る。
「ガラララララララララ」
業を煮やしたシーランドが初手からブレスを発現する。ボンドと木人が旧交を温めている間に大気中の魔力を十分に【チャージ】した。数百トンの荒ぶる水流がボンドを背後から襲う。
ゴォォォォォォン
山をも抉る衝撃がボンドの背中に走った。
その刹那に〖ジャンクマント〗が光る。
〖ジャンクマント〗
〖種類〗マント (ボンド専用装備)
〖効果とストーリー〗
ジャンクランドの王であるボンド専用装備。ジャンクランドにいる約三十万機を超えるボンドが大好きな機械人形皆が、魔力糸とグレン鋼鉄糸を合成させて幾重にも糸を重ねたマント。皆のオイルの誓いが染み込み、大規模儀式魔術《犠牲》の魔術が付与してある。マントを介したボンドへの全ての【ダメ―ジ】はジャンクランド国民が三十万分の一ずつ肩代わりする。よって、マントを介したボンドのダメージは極端に軽減される。また《犠牲》の効果にてボンドの戦闘がジャンクランド住人にも伝わるため、【ダメ―ジ】救済等の対策も取りやすい。
「ガララララララ」
シーランドは困惑した。自身の最大限のブレスを無防備で食らって、平然としているボンドに……
ボンドが二人であったものに手を合わせる。ボンドが振り返り、シーランドを視認する。厄災級と厄災級が目を合わせる。
キュィィィィィィン
ボンドの全身の冷却ジェネレータが一生懸命にボンドの中の怒り排出する。
「予定変更だ。お前はスクラップにしてやる」
ボンドは赤い瞳を一回点滅させた。
ボンド 原案ヴァリラート様
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