プロローグ 前編
第三部開幕です。
1
ウェンリーゼの浜辺 海王神祭典
『魔道機械人形ユーズレスはハーフヒューマンに進化可能です。進化しますか/しませんか』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を一回点滅させて、進化する、を選択した。
『進化する、を選択しました。アップグレードを開始します……封印されし過去のデーターの一部がフラッシュバックします。以前の進化時に魔道機械人形ユーズレスは、ハーフヒューマンになると疑似体性感覚認知します。現存の海王神シーランドによる本機のダメージは甚大です。疑似痛覚を認知した瞬間に過度な痛みの情報により、主電脳がショートする危険があります。ビィィィィ、ビィィィィ、ユフト師の四原則である、機械は自分自身を守らなくてはならない、に抵触します』
補助電脳ガードがハーフヒューマンの進化を拒んだ。ユーズレスが消去法として進化しないを選択する前に《演算》を使用した。ユーズレスが空を見上げてエメラルド色の瞳を何度も点滅し、マザー・インテグラに《補助》を求めた。
『《高速演算》を実施します。ハーフヒューマンに進化しなかった際の未来を予測演算します』
補助電脳ガードが衛星であるマザー・インテグラのバックパックを受けて、ウェンリーゼの未来を予測演算した。
2
数百年後のウェンリーゼの未来 予測演算による電脳内でのシミュレーション
ユーズレスは辺りを視認する。
空が曇天で灰色となっている。極まれに薄らと陽の光が差す程度だ。大地は、枯れており砂漠に近く痩せている。海はまるで悪いモノでも飲み干したかのような人工的な深緑で生命の活動が感じられない。
『地上の大気中の魔力濃度が非常に多いです。大地には陽の光が差さないことによる異常状態です。海面は魔力濃度高すぎて変色しております。本機に影響はありませんが、データーにある人種も含めた生命体には多大な悪影響を及ぼす環境です。周囲に二キロ四方での生命活動・機械の起動は感知できません』
補助電脳ガードが【アナウンス】する。ユーズレスは思考した。
(この景色どこかで見たことあるような……)
その時だった。ユーズレスの目の前の空間が黒く歪む。
『ビィィィィ、ビィィィィ、感知しきれない非常に巨大な魔力を感知しました』
補助電脳ガードが魔力を感知する。ユーズレスも魔力を感知した自身よりも、巨大な魔力だ。しかし、不思議なことに恐れはない。むしろ、この魔力に安心感を覚える。
メェェェ
歪んだ空間から羊か山羊の鳴き声が聞こえる。黒い空間からは、赤い燕尾服を着てシルクハットを被った山羊が出現した。
「ご無沙汰しておりました。ユーズ兄上、シャチョウ、幾千の時を超え、今度こそお迎えに参りました」
悪魔がユーズレスに優雅な礼をした。何故かユーズレスには、悪魔が子犬のように尻尾を振っているように見えた。
3
「大気中の魔力濃度が高いおかげで、地上に来ることができました。ですが、このような光景をまた見ることになるとは、歴史は繰り返すと申しますか、些か悲しくもありますね」
悪魔が話をする。この悪魔の口調から相当の長生きをしているのだろうか。
「しかし、邪竜シーランドには参りました。確かに成長限界は設けませんでしたが、やはり〖女神の雫石」をベースにしたのがいけなかったのですかね。事象には想定外のことが起こる。それもまた、失敗の友、失敗の母、私の敬愛する言葉です」
(いったい誰だ、コイツ)
ユーズレスは補助電脳ガードに問いかける。
「ちょっと待ってください。ユーズ兄上、私です。クリッドです。貴方様に名を頂いた弟のクリッドです」
(なんだ、お前、新手の詐欺かなんかか。さては不審者だな。だいたい、本機の正当な弟は坊が創ったハイケンだけだぞ)
「不審者ってなんだメェェェ。酷いメェェェ。ずっと、ずっと昔だけど、あんなに一緒に冒険したのに忘れたとはいわせないメェェェ」
紳士的だった不審者の言葉が崩れ、ユーズレスに迫る。不審者は身の潔白を証明しようと酷く切実だ。
(そこの不審者よ。だいたい、なんで本機の思考が読めるのだ。これは電脳内でのガードしか分からないはずだぞ。ああそうか、なにかの精神系魔術によるものか、バクによるものか。ガード、本機はどうやら《高速演算》で故障したらしい。早急なメンテナンスを推奨する)
『了解しました。海王神シーランドによるダメージが深刻だったのかもしれません。データーの総点検を行います』
「ああ、そうだメェェェ。確か、確か、兄上とシャチョウの中のメモリーは封印されているんだメェェェ。魔界大帝の加護だメェェェ。それを付けたときに負荷が強すぎて、メモリーが封印されたんだメェェェ」
(ああ、わかった。わかった。ハイハイ、お前のオニイサンですよー)
「全然、分かってないメェェェ。泣いちゃうメェェェ。ホントのホントに泣いたちゃうメェェェ。五話ぐらい前(数千年前)は皆で焚き火してあんなに一緒だったのメェェェー。もう知らん顔かメェェェ。神はいないのかメェェェ。」
その後のメモリー検索により、完全ではないが封印が解けた〖機械人形と悪魔〗のメモリーが見つかり、真なる悪魔クリムゾンレッドの誤解は解けた。クリッドは「数千年ぶりに心がポッキリ折れそうだったメェェェ」といった。
一部のメモリーを取り戻したユーズレスと補助電脳ガードは、数千年ぶりに弟の頭を撫でた。結局、クリッドは数千年ぶりにホロリと泣いた。ユーズレスと補助電脳ガードは、大人になって、魔界大帝になっても変わらないクリッドが嬉しかった。
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