24 青い瞳がみた夢は
前半ラストです。
1
二十階層の主部屋で、深紅の瞳と青い瞳が対となるように輝く。
キャハハハ、キャハハハ
夢剣と絶剣が笑う。
二人はゆっくりとまるで散歩でもするかのように歩を進めた刹那に……二振りの剣が振られた。
部屋の中央に火花が散る。ユーズレスは記録するが、その剣閃を視認出来ない。
神速の一閃……火花が散る。
一閃から返しの二閃……左右対称の鏡のように綺麗な閃が重なりあう。
三日月を軌跡を描くような月の振り……二つの月はその引力で引かれ合い。
三日月より力強く踏み込まれた剛の太刀筋……共振したその振動は部屋に響く。
水面をなぞるような美しい水平の軌跡……世界が上下に割れるようだ。
キャハハハ、キャハハハ
二振りの剣は歓喜に満ちた笑い声をあげる。ユーズレスと補助電脳ガードは思考した。双子の騎士とはまるで、今、この瞬間の二人のことのようだと。
二人はまるで、鏡を合わせたかのように剣を振るう。剣戟の中で、駆け引きに慣れた剣帝が【タイミング】をずらしタメを作る。クリッドが剣を振るって最高速度に達しようとしたところに、剣帝の重い一撃が入る。クリッドが弾き跳ばされた。夢剣でなければ武器破壊されているだろう。剣帝が追撃の剣を振る。クリッドは体勢を崩されながらも、頭の中で最適解を解く。クリッドが体を捻りながら最短距離の突きを放つ。その動作は不安定ながらも、自然なものだった。
剣帝はその殺気がある【カウンター】が大きく見えた。
剣帝が剣を防御に回し一旦下がる。些か、動きに切れがない。
ビキビキ
終わりは呆気ないものだった。
2
距離を取った。クリッドは部屋を右回りに走る。剣帝はクリッドから見て左回りに駆け出す。深紅と青い瞳を宿した二人は部屋に螺旋を描きながら全身をバネのようにして伸びのある一撃を放つ。
キャハハハハハハ
剣が笑う。
二振りの剣が重なりあった刹那に……
バキバキ
剣帝の右腕が音を立てて崩れ、絶剣が宙に舞った。剣帝が微笑みながら満足そうに地面に膝をついた。
3
「何故ですか! 師匠! なぜ、手を抜いたのです」
クリッドが両の膝をついた剣帝に詰めかける。
ユーズレスも駆けつける。補助電脳ガードは思考する。剣帝の顔は非常に晴れ晴れしい。また、顔も影骨ではあり得ないみずみずしさを保っている。先ほどの青い球体が影響しているのだろう。
サラサラサラサラ
急に取れた右腕が砂のように崩れていく。
(《癒し》だな)
「《癒し》とは? 」
『浄化魔法《癒し》、限られた神の祝福を受けし聖人にし発現できない回復系統魔法です。傷や病、呪い等を浄化、癒す力を持っています。きっと先ほどの青い球体は《癒し》の光だったのでしょう』
「でしたらなぜ! 呪いを解く魔法であれば、なぜ、師匠の身体が崩れていくのですか」
クリッドは機が動転しているのかユーズレスの身体に掴みかかかる。
『クリッド、彼女は……いや、剣帝殿は手など抜いていません。むしろ、正真正銘の本気でした』
(影骨である彼女に、聖なる《癒し》は……毒なんだろう)
「毒ですか……しかし、現にこうやって身体が元のニンゲンになったではないですか」
『クリッド、影骨は魔獣に分類されますが、ある意味では意識の集合体のようなものです。剣帝殿は既に死んでいるのです。霊や、あるいは魂とでも呼びましょうか。それは、本来地上に、あるべきものではありません。《癒し》は本来、魔を払う効果もあります。剣帝殿は、自身で《癒し》をかけました。それは、貴方と真剣勝負するためには、生前の肉体なる力が必要だったのでしょう。例え、時間制限付きだとしても……』
(クリッド、影骨である剣帝殿は《癒し》はきっと全身を業火で焼かれているような感覚だったと推測する。そのなかで、あれだけ長い間肉体を維持することは、並みの精神力ではなかった。お前は、剣帝殿に認められたのだよ)
皆が剣帝を見る。剣帝は困った顔をして口元に指をやりイタズラでもするかのように「内緒だったのに」とポーズした。
「私はそんなことも分からずに対等の勝負だと……」
剣帝がクリッドに頭を垂れる。脚が砂となる。まるで、最後に首をはねてくれとでもいっているかのようだ。
クリッドが泣きそうな顔でユーズレスを見る。
『クリッド』
(クリッド)
二人はクリッドの名前を呼ぶことしか出来ない。
彼の麗しき偉大な騎士は、敗者としてクリッドに介錯を求めている。影骨としてではなく、騎士としての誇りある最後を……
クリッドが剣を握る。
力を込める。
剣を振り上げる。
剣帝の首筋を見る。
この七日間の出来がフラッシュバックする。
クリッドが剣を振り下ろそうとする。
「出来ませーん」
クリッドが迷宮から天に叫ぶ。
涙に濡れたクリッドは地に伏せる。剣帝は少しだけ困った顔をした後に、クリッドの頬に優しい口づけをした。
クリッドを優しい青い球体が包む。
聖なる光が悪魔の傷と心の【トラウマ】を癒す。
青い瞳がみた夢は、泣き腫らした子供のような山羊だった。
「クリッド、哀しいね」
剣帝はクリッドに微笑みながら、迷宮の砂となった。
クリッドは泣いた。
ただ、ただ泣いた。その涙は悪魔が他人のために流した。それは美しい澄んだ液体であった。
機械人形ユーズレスは記録した。
何故かユーズレスには、剣帝の最後の言葉が「ありがとう」と聴こえた。
カタカタカタカタ
絶剣にブロンドヘアによく似た誇り高い騎士の色が加わった。
機械人形と悪魔 前半 完
今日も読んで頂きありがとうございます。
まだ、続きはあるのですが大幅に当初より文字数オーバーしているので、「機械人形と悪魔」前半ということで一旦区切ります。少し作風を変えてみようと挑戦したのですが、相変わらずくどいですね(笑)まあ、ご愛敬で!
お盆休みして、ストック貯めたら今度こそ、海王神祭典を再開します。また、二週間位休んで、九月からスタート出来ればと思います。貴重なお時間を底辺作家に割いて頂いてありがとうございます。
どんな感想や質問でも励みになります。これからも応援よろしくお願いいたします。
それでは、皆様今日も良い夢を




