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19 剣帝


 二十階層は十階層と同じく一個体で階層主が出現する。


 影骨の大型魔獣で体長は二メートルクラスでバトルハンマーと盾を持った個体だ。いままでは、武器なしの個体が《告解》を発現してきたが主は詠唱してくる。遠距離攻撃はして来ないが中距離でのバトルハンマーでの膂力は凄まじいものがあり、攻撃は盾で防がれたところに影を踏まれて《告解》を発現してくる厄介な階層主である。




2


 二十階層主部屋入り口


『以上が二十階層の概要です』

(なかなか厄介な相手だな)

『単純な戦闘力は頭一つ抜けていますね。大半の侵入者がこの階層を突破出来ないで足踏みしていることが多いです』

「……」

(クリッド、どうかしたか)

「いえ、その、改めてなのですが先ほどの騎士影骨ですか。あのお方よりお強いのですか」

『魔力と膂力は上ですかね……ただ、その』

補助電脳ガードが言葉に詰まる。

『データーにないのです』

(どういうことだ)

『今回の迷宮探索はイレギュラーが発現しています。まず、侵入者の追跡できていますがまだ発見できていないことから既に対象は駆除されたか、さらに先の階層にいるかです。最下層の鉄骨竜は勝てるとは《演算》でも難しいとの評価なので、「秘密の部屋」の侵入の心配はいりません』

「確かに元はそれが目的でしたね。いつの間にか私の修行兼冒険譚になっていますが」

グリッドがいっていることはあながち間違っていない。


『おかしいのは十八階層からです。今まで、十層ごとの階層で八階層以下では五体以下の個体が出で来ることはなかったのです』

(十九階層では一体でしかも戦闘は二回だったぞ)

『そうなのです。正直、我々の戦闘力は四十階層までであれば問題なく突破できるレベルです。その下の階層でも油断は禁物ですが、多少被弾はしますが警戒するほどではないのです』

「しかし、先ほどの影骨騎士はその対象ではないと」

『そうです。魔力はほとんどありませんでしたが、明らかに四十階層下層の格を感知しました。不明瞭なデーターですが』

補助電脳ガードは思考した。


先ほどのドロップした〖白剣〗は魔力量と魔力操作ができる個体であったら、刀身を自在に伸縮させて攻撃の【バリエーション】も多彩であったはずだ。近接戦闘を旨とした剣士や騎士にとっての武器の間合いは己の生死をかけた重要な要素だ。もし、先ほどの影骨が多彩な魔力の使い手であれば、やられていたのはクリッドのほうだったかもしれない。

まだまだ、上層に出現する魔獣の強さと報酬のレベルではない。ただのバグであって欲しいが、明らかに、迷宮のシステムに介入した強い意志を感じる。


(ということは、このボス部屋も通常個体ではないということか)

『そうであるかもしれませんが、そうかもしれません。神とユフト師のみぞ知るです』

(となると、遠距離での攻撃が有効だな。クリッドは魔術か魔法はつかえるのか)


「攻撃魔法といっていいのか分かりませんが《強奪》がつかえます。しかし、その、【トラウマ】がありまして……十階層では調子に乗っていて、良い精神状態でしたが、高確率で暴走します。暴走したらあらゆるものを喰らい尽くします。多分、ユーズ兄上もことも」

(よし、却下だ)

ユーズレスは神速の【アナウンス】を発現した。


『通常個体であれば、テンスがタンクでクリッドが遊撃で立ち回ればそれほど脅威ではありません』

「通常個体でない場合は」

『一度、部屋を出ましょう。ここは一回部屋を出るとリセットされるので、別の個体が出現するはずです。ああ、最下層の〖鉄骨竜〗は、ずっと暴走状態なのでその限りではありませんが』

(サラッと恐ろしいこと言わなかったか)

ユーズレスはブルーの瞳を二回点滅させた。


『さあ、つべこべ言わずに行きましょう』

補助電脳ガードが誤魔化した。


 ユーズレスが盾を構えながら扉を開けた。

部屋で待ち構えていたのは、二本の剣を腰に吊るした革鎧の首のない剣帝であった。


 悪戯好きの運命神のダイスが降られた。




3


『ビィィィィ、ビィィィィ、予期せぬ事象が発生しました。即時撤退を推奨します』

補助電脳ガードが【エマージェンシー】を【アナウンス】する。


 四方、約四十メートル程度の部屋の中心に首のない剣士が佇んでいる。部屋に入った瞬間にトリオは感知した。剣士から発せられる隠しきれない武威を。生命としては格上のクリッドですら「メェェェ」と毛を逆立て、機械のユーズレスと補助電脳ガードはその壮大な魔力量と数値では測れない圧倒的な存在感に一同は動けないでいる。


 剣士も微動だにせず腕を組んでいる。まるで、遥かなる時を、強者を待っていたかのようだ。


(大型影骨じゃなかったのか)

「明らかにヤバい気を感じまメェェェ」

クリッドは怯えている。魔術で《威圧》は存在するがその類ではないだろう。


『《鑑定》……双子の騎士! 暴炎竜バルドランドを退治した剣帝です……ビィィィィ、ビィィィィ、迷宮における出現条件を達成したようです。迷宮誕生以来の隠し【クエスト】だそうです』

(宝くじが当たったのか)

「宝の九時……時間で決まるのメェェェ。もうちょっとゆっくり朝ごはん食べればよかったメェェェ」

真なる悪魔クリムゾンレッドは状態異常無効であるが、《混乱》しているようだ。


 キャハハハハハ


 クリッドの〖夢剣三日月〗が仕込み杖の鞘のなかでカタカタと笑っている。いや、歓喜の声をあげている。このような現象は魔界でもなかった。


「ユーズ兄上、シャチョウ、夢剣がものすごく興奮しております。いや、喜んでおります」

『クリッドここは撤退です。一度、部屋に出れば、違う個体が出現するはずです』

(クリッド、ここはガードに従おう)

「了解しました。身の丈に合わない、私の敬愛する言葉です」

意味は合っているがちょっと合っていない。


 カチャリ


 双子の騎士が剣を抜いた。


 首のないはずの顔が笑った気がした。


 キャハハハハハ


 双子の騎士の()()も笑った。

今日も読んで頂きありがとうございます。

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