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18 借帝クリッド

本日、最後の投稿です。

1


探索は四日目に突入した。


この日、神に見捨てられた地上で運命神の悪戯があった。


十九階層もクリッドが活躍した。一回目は影骨が六体出現した。今までで、最多数だ。しかし、クリッドは水を得た魚のようにその剣技は鋭さを増していった。五体目の個体が《告解》を発動させてクリッドの影を踏んだが、クリッドは意に介さなかった。この《告解》は精神系魔術と分類されているが研究者がいうには、影からの情報を大まかに分析して本人の【トラウマ】に語りかけるだけの魔術だ。そのトラウマを乗り越えたものや、精神の強いものには効果は薄い。要は、自身の気の持ちようで最凶にも最弱にもなる魔術だ。


「ほんとう、この魔術《告解》はメェェェ、メェェェうるさいですね」

『(……お前がいうか……)』

「メェェェ」

眼鏡をかけた山羊は絶好調である。しかし、そこに油断はない。


 二回目の戦闘では補助電脳ガードでも予想だにしない出来事があった。


 出現した影骨が一体だったのである。しかも、その影骨はローブではなく騎士のフルプレイトである重鎧に盾とロングソードを構えていた。その影骨からは魔力をほとんど感じない。一階層の魔猿のほうが魔力だけであれば大きいくらいだ。非常に不気味である。


 補助電脳ガードとユーズレスは魔力のない初見の相手の力は測れない。しかし、その佇まいは機械では測れない強者の風格があった。


「美味しそうな……いや、昨日の総菜パンみたいな匂いがしますね」

きっと、クリッドは強者の匂いがすると中二らしい言葉を発したかったのだろう、とユーズレスと補助電脳ガードは介錯した。


『最適解を《演算》します。技術的な達人による戦闘ではテンスには分が悪いです』

(クリッドいけるか。それとも本機が)

「ユーズ兄上は後方で援護をよろしくお願いいたします」

クリッドは走らなかった。そのままゆっくりと歩を進めた。その歩みに怯えはない。


 影骨がロングソードを胸の前に構えて騎士の礼を取る。まるで知性がある本物の騎士のようだ。もし、間合いというものがあるのであれば、クリッドはそのギリギリで止まった。


「これはご丁寧に恐縮です。借帝クリッドと申します」

クリッドと影骨がお互いに構えをとる。ユーズレスは後方で大盾を構えている。


 静かだった。非常に静かであった。クリッドと影骨はどのくらい向き合ったのだろうか。それはとてつもない集中力が必要だったろうに。

クリッドにとってその永遠に近い時間は急に終わりを告げる。


 カチャリ


 僅かな金属音のあとに……


 両者の剣が光ったように互いの間合いを切り裂いた。


「オ……ミ……ゴト」

「お強いですね。昨日の私でしたら負けていました」


影骨の首が落ちて、剣がドロップした。




2


「はあ、はあ、危なかったメェェェ。ビックリしたメェェェ。オシッコ、ちょっとチビッタメェェェ」

 クリッドは粗相をしたようだ。勝負は一瞬だったがギリギリだったのだろう。


(クリッドお疲れ様、強敵だったみたいだな)

ユーズレスがバックパックの四次元から、水の入った水筒を取り出しクリッドに渡す。クリッドは水をゴクゴク飲み干す。


「ありがとうございます。生き返るメェェェ。こんなに美味い水は初めてだメェェェ。ミルクより美味いメェェェ。正直、僕より剣の腕は上だったメェェェ。よく勝てたメェェェ」

『……達人の力量は魔力などには映りませんから、本当の意味での強さはその道の達人同士しか測れないものでしょうね。とにかく、おめでとうございます』

(この剣も業物のようだな)

ユーズレスがドロップした剣を拾う。


『《鑑定》』


〖白剣〗

種類 ロングソード(魔法剣)

効果とストーリー

かつて双子の騎士が愛用した魔法剣である。魔力のあるものが使用すると刀身が深紅に染まる。魔法剣発現時は、切れ味(極大)、使用者の魔力操作によって刀身を魔力の刃として伸ばすことができる。



『(なっ! )』

ユーズレスと補助電脳ガードは思考する。先ほどの影骨からほとんど魔力は感じられなかった。しかし、このドロップした〖白剣〗は魔法剣であり刀身を伸縮自在にできる代物だ。先ほどの影骨は知性のようなものがあった。技量もさることながら、もしこの剣を使いこなせていたら……クリッドは勝ちを譲って貰った?


 ユーズレスと補助電脳ガードには理解が及ばない。古代語で【死人に口なし】なる言葉があるが、その真意を知ることは永遠に叶わぬのだから。ユーズレスと補助電脳ガードは何事もなかったかのように、いつも通りに、バックパックの四次元に〖白剣〗を収納した。もしかしたら、死蔵するかもしれないが……


「どうしましたか、その剣なにかありました」

クリッドも落ち着いたようで言葉が丁寧に戻っている。


『な、な、な、にゃんでもないと否定します』

(にゃんでもない)

二人は非常に慌てている。


「ひどく慌てているようですが」

『いや、なにもあああ! 先ほどの剣ですが、まあまあの業物でしたが特別な効果などはありませんでした』

(ああああああああ!そうだ。ただの綺麗な剣だった)

「そうでしたか。先ほどの騎士殿がお使いになった剣でしたから、さぞかし名剣かと思われましたが」


 キャハハハハハ


 夢剣が絶妙の【タイミング】で笑ってくれた。


「ああそうですね。確かに私にはこの夢剣がありましたから、ちょっと気になっただけです。それに、まだ私には二刀流は早いと夢剣も言っています。【二刀を負うものは一刀を得ず】、私の敬愛する言葉です」

(ああそうだな。そうだ。取りあえずいつも通り本機が預かっているから、それにまだまだ迷宮は下まであるから! きっともっといい剣が絶対にあるから! なあ、ガード! )

『そうです。そうです。いい剣いっぱいあります。ザクザクです。早く進みましょう』

「なんだかまあ、いつもと様子が違いますが分かりました。進みますか」


クリッドは無二の愛剣を撫でながら先に進んだ。十九階層では先ほどの一体以外は戦闘がなかった。補助電脳ガードが「先ほどからマニュアルと違いますね」ユーズレスが代わりに頭を捻った。


トリオは運命神の悪戯のままに二十階層の主の部屋へたどり着いた。



今週もストック全弾使い果たしました。

ブックマークが一件増えました。底辺作家には嬉しい限りです。ありがとうございます。

来週は帰省予定なので、投稿は不定期でチョコチョコ出来ればいいなぁ。

今日も読んで頂きありがとうございます。


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