13 告解階層
1
十一階から二十階層を通称、告解階層という。
出てくる魔獣はローブを羽織った骸骨で、影骨と言われている。特徴として精神系魔術《告解》を発現する。術の発動条件としては、相手に影を踏まれることが魔術の発動条件であり過去の行動を自身の影に告解される。他人にはその囁きは聴こえない。
高等な知能を持つ生き物ほど、掛かりやすい。何故なら知能生命体とは過去の行いに懺悔したい生き物なのだから。
2
『以上が、十一階以下の魔獣の特徴です。なにか質問はありますか』
「影骨は魔術以外の攻撃はしてきますか」
クリッドが確認してくる。多分、影骨自体もクリッドの敵ではないだろうが、こうやって魔獣の特性を確認することは非常に重要なことだ。格下相手に臆病といわれればそれまでだが、こういった臆病者(賢きもの)が生き残るのが迷宮の常だ。
『浅い階層では、素手での攻撃もありますが基本的に動きは早くありません。下の階層に行くにつれて、動きが早くなり武器を持っている個体の報告もあります。多いのは杖ですかね。初級魔術《火球》を放ってくる報告があります。威力は上層の魔猿なら一発で焼かれる威力です。また、厄介なのは下層からの盾持ちです』
(……)
ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させて同意する。
「盾持ちはなにゆえに厄介なのですか」
『盾持ちに攻撃の足止めを食らえば、立ち位置によっては高確率で影が踏まれます。《告解》の発現条件が揃いますから』
「《告解》はそのような恐ろしい精神系の魔術なのですか。真なる悪魔になった私には状態異常無効の加護があるのでそれほど脅威ではありませんが」
『この《告解》は精神系でも特殊なのです。《狂乱》や《混乱》のように直接対象に働きかけて状態異常を引き起こすのではなく、影に対して魔術をかけるのです。魔術にかかった影から自身の過去の苦い出来事を囁かれるのです。戦闘中の集中力を乱してくる小賢しい術に聞こえるかもしれませんが、これが存外、戦闘力の低下を引き起こし効果を発揮すると記述にあります』
「ということは、私でもかかるということですか」
『簡単にいうと耳元で自分の一番嫌なことを囁くのです。強い心を持っていないと持続的に声が大きくなります。どちらかというと呪いに近いですね』
「真なる悪魔となった私に呪いとは笑わせますね。受けて立ちましょうではないですかメェェェ」
ユーズレスはエメラルド色の瞳を二回点滅して舎弟に調子に乗るなと警告した。
3
「メェェェ、メェェェ、違うメェェェ、違うメェェェ、僕は……僕は悪くないメェェェ」
結果は案の上であった。クリッドは赤い毛皮の羊に戻ってしまった。クリッドは悲しいくらいに《告解》に罹りやすかった。
4
中層まではまでは順調だった。
十一階層からは、岩洞窟だが不思議と明るく影ができやすい環境であった。この迷宮の製作者は意図的に階層ごとに魔獣の能力を引き出す環境にしているのであろう。
十一階層からの順路も順調であった。まずもって、補助電脳ガードはこの迷宮の地図があり、自動での《探知》によって魔獣の位置や順路など正確に分かる。現在、ユーズレスがスリープモードのため索敵距離は五十~百メートル程度にしてあるが、入り組んだ迷宮内であれば敵を感知してかたも、十分に準備ができて先手が打てる距離だ。
迷宮での隊列は基本的にユーズレスが先頭になりクリッドが後につく。補助電脳ガードが索敵全般を担当し、魔獣の存在を感知すると隊列を逆転してクリッドが前に出る寸法だ。
十一階層では影骨が一体出現した。影骨の背丈はクリッドの二回り程度小さい個体だ。影骨がクリッドとユーズレスを視認すると、ブツブツと準備詠唱を始めた。
『クリッド気を付けてくだ』
キャハハハハハ
補助電脳ガードが声かける間も無く、クリッドは影骨まで最短距離を走り、夢剣を一閃した。影骨は首を刎ねられてカタカタと崩れ落ちた。崩れ落ちた先には影骨のローブがドロップした。
「先手必勝であります。今回は魔石ではないのですね」
クリッドはしょんぼりした。
十一階層はその後、似たような背丈の個体が一体ずつ三度出現した。いずれも、影骨が準備詠唱している間にクリッドが最短距離で詰めて一閃した。今度は魔石がドロップしたが、十階層の主よりは二回りほど小さい魔石だったがクリッドは大喜びした。補助電脳ガードとユーズレスは、クリッドの戦闘が素直過ぎて心配になった。思い切りがいいのは評価できるが、あまりにも戦闘が単調な気がした。クリッドは戦闘よりもはや魔石を採掘する作業のような感覚だろう。
十二階層と十三階層は戦法を変えずに進んだ。合計で十二度の戦闘になったが、すべて危なげなく終了した。ドロップ品は魔石が大半でローブが数着でた。クリッドはメェェェと喜んでいた。
十四階層からは影骨が三体同時に出現した。大きさも下層より一回り大きくなり、若干動作も早くなっている。クリッドはいつもと同じように駆け出した。中央の影骨の準備詠唱が終わる前に一体を屠った。その流れで右側のもう一体を流れるような一閃で首を刎ねた。やはり凄まじい技量だ。恐らく、連続した型なのであろう。だが、位置取りが悪かった完全に三体目に背を向ける形になったのだ。準備詠唱を終えた最後の一体がクリッドの影を踏もうと動き出す。《告解》の発動条件は対象の影を踏むことで発現する。
「後ろにいらしたのですね」
影骨がクリッドの影を踏もうとした刹那に……
トン、
クリッドの影が逃げていった。クリッドはおよそ人種では出来ない跳躍で予備動作なく、宙がえりをするようにして影骨の後方に着地した。
「おやすみなさいませ。縁がありましたら魔界でお会いできるのを楽しみにしております」
キャハハハハハ
影骨が真っ二つに割れた。最後の影骨からは指輪がドロップした。
虚をついた完璧な動きだったので、補助電脳ガードとユーズレスは注意とアドバイスを言えなかった。魔石集めで頭がいっぱいのクリッドは意識していないだろうが、見ているものからするとそれは美しい剣舞であった。
残りの二体からは下層より少し純度の高い綺麗な魔石が出た。クリッドが目を輝かせながらメェェェ、メェェェと叫んでいた。
その後、十六階層までは三体ずつ出現して九回の戦闘があった。いずれも、魔石の割合が多く三体に一体はローブか指輪だった。今回の探索は〖秘密の部屋〗に行くのが目的で、ドロップ品の回収目的ではないが、あまりにもクリッドが喜ぶため回収しながら進んだ。多少なり時間はとられたが、ユーズレスが回収を手伝った。今や、クリッドは魔石採取が目的になっている。迷宮探索で【モチベーション】は非常に大事なため、本当は早く先を進みたかったが、補助電脳ガードとユーズレスはなにも言わなかった。
クリッドは本当に頑張っていた。迷宮の案内や索敵を除けば、戦闘に関してはクリッドのソロのようなものだ。
本当にここまでは、本当に順調だった。
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