10 クリッドの強がりと厄介な足跡
記念すべき百話目です。
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「魔界では悪魔遊戯といいますが、地上はボードゲーム等という、似たような遊戯がありましたね。違う種類の十二個の駒を互いに競うのです。父上の代から神々の法で、悪魔同士の武力による戦いは正式な決闘以外を除いては、この悪魔遊戯にて優劣を決めるのが主流となっています」
クリッドが器用に駒を掌で回しながら言う。
『暴力を振るわない知性的な勝負は見習うべきところです』
(本機もそう思う。悪魔と神様偉い)
ユーズレスと補助電脳ガードが過剰に魔力濃度の高い曇天の空と荒野を見回しながらいう。この景色は暴力と暴力による悲惨な結果である。人類の英知とそれぞれの正義がすれ違った悲しい結果だ。
「知能ある生き物が二人以上いれば、おのずと優劣からなる嫉妬やコンプレックスが生まれるのは悪魔も一緒です。話は戻りますが、この遊戯による統治体制も月日が長かったこともあるのでしょうね。不満を漏らす悪魔が少しずつ増えてまいりました。我らは元々、始まりの闇から自分の器に魔力を纏い力による優劣を誇っていた種族です。古来の力の時代を知っている悪魔たちは智の時代に適応しようとしましたが、時代の変化に適応が難しい脳筋もおります」
クリッドが軽くディスり、溜息をつく。クリッドは若い世代の悪魔のようで、力の時代を生きていないからこその意見だろう。
(元々、力があった奴らは面白くないだろうな)
古代図書館を読みつくしたユーズレスは再起動前と違い今や、知性ある機械人形だ。
「その通りです。今は神なる法の下、滅多なことは出来ませんが現状を良く思っていない悪魔もおります。武のない狡賢い悪魔が牛耳っているとでも思っているのでしょうね。私としましては、代が変わってそういった方々を統治するのはストレスでしかありません。父上には提言してはおりませんが、私は地上の文化や法を学び、こちらでいう文官なるポジションに就きたいと考えております。父上が聞いたら……ガッカリするでしょうけど」
(本機でいうガードのようなポジションだな)
「そうですね。私は次代の魔界大帝を支えるブレーンになりたいです。ユーズ兄上を支えるシャチョウのような縁の下の力持ちになりたいのです。シャチョウは私の目標なのです」
クリッドは生まれて初めて、自身の奥にある本音を語った。数千年を生きた悪魔が、出会って僅か数時間足らずの機械人形に心根を話すのも皮肉なものだ……
(クリッド、ガードは凄いんだぞ。ガードがいなかったら本機は独りでなにも出来なかったぞ。しっかり、ガードから社会人としての一般常識を盗む(学ぶ)といい)
「はい。ユーズ兄上、しっかりシャチョウから社会常識を《強奪》致します」
クリッドは結構ぶっこんでくる。最近の若者はこうなのだろうか、それとも魔界のユニーク言語であろうか。知的財産を《強奪》予告された当の補助電脳ガードは……
『……まあ……まあね。いつでも奪い(学び)に来て……いいよ』
普段褒められることに慣れていない仕事一筋の補助電脳ガードは、よっぽど嬉しいようだ。補助電脳ガードは照れるという感情を【ダウンロード】した。やはり、シャチョウサン、シャチョウサンは好意のココロを上げるユニーク魔法のようだ。
「流石、シャチョウです。その英知なる知識を出し惜しみしない器の大きさ、私の目標はシャチョウなのです。なので、ユーズ兄上のオトウサン探しを手伝うことは修行だと思っております。古代語で確かウインウインです。私の敬愛する言葉です」
クリッドは杖を持ちながら両手でさすりさすりしている。誰に教えられた訳ではないが、クリッドは、上司に気に入られる才能を持っているようだ。
『クリッドよ、私の背中を越えていきなさい』
補助電脳ガードはかつてないほどに調子に乗っている。マザー・インテグラにもし信号が届いていたらお叱りを受けるレベルだ。ユーズレスには羽はないが、補助電脳ガードは現在の状況下でこれ以上ないほどに羽を伸ばしている。
「なるほど、まずは背丈である身長を越えなければならないのですね。確かに体格は大事ですね。ユーズ兄上の身長まであと、十センチくらいですかね。悪魔は見た目が九割、私の敬愛する言葉です。地上の美味しいものいっぱい食べて大きくなるメェェェ」
クリッドはユーズレスのバックアップである四次元を見ながらいう。この舎弟はオニイサンにたかる気で満々だ。借帝クリムゾンレッドは真なる悪魔の容姿とは裏腹に、借金などお構いなしのところが逞しくまた可愛げがある。嫡男でありながら、まさに末っ子体質全開だ。
古代図書館で古来の英知を学習したユーズレスは、色々間違っているそんな可愛い弟を見ながら、ブルーの瞳を数回点滅させて頑張れといった。
ユーズレスは気遣いと優しさを【ダウンロード】した。
『目的地に着きました』
補助電脳ガードがアナウンスした先には、地上と地下を繋ぐエレベーターが壊された後と、地面に大きな蹄の跡が残っていた。
古代語で【足の跡はつかぬが筆の跡は残る】なるメッセージを残すときは、注意深く気を付ける意味の言葉がある。しかし、この足跡はちょっとやそっとでは消えそうにない足跡だ。このメッセージが一体何を示すのかは機械人形や悪魔でも知らない。
今日も読んで頂きありがとうございます。
文字数はそれほど多くありませんが、百話目まで投稿出来ました。処女作でここまでこれるのは、底辺作家としては嬉しい限りです。
読者の皆さんに感謝です。
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