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数年後、ジェームズは社交の場で、ヴェロニカと再会した。
少女だった彼女は美しく成長し、もう立派なレディーになっていた。
いや、正確には見た目はレディーになったと言うべきか。
話してみてわかったのだが、中身は相変わらずといった様子だった。
そのことにジェームズは少し安堵した。
女性は変わる。
妻のように、心変わりする生き物だ。
だからこそ、変わらないヴェロニカの無邪気さが嬉しかった。
とはいえ、再会して間もなく、ヴェロニカからプロポーズされるとは、さしものジェームズも考えていなかった。
ヴェロニカは真剣だった。どこまでも真っ直ぐだった。
だからこそ、ジェームズは戸惑った。
以前、ヴェロニカは婚約者がいると言っていた。
それを袖にして、ヴェロニカはジェームズを選ぼうとしているのだ。
彼女は言った。
親が勝手に決めた相手とは結婚したくない。彼のことなど全く愛していないと。
それは、かつてジェームズが妻から言われた台詞そのものだった。
ジェームズの心の傷を抉ることばだった。
ヴェロニカにも、それはわかったらしい。
急に萎れた花のように、俯いてしまった。
それでもヴェロニカは顔を上げて言った。
「あなたを愛している」と。
ジェームズにはよくわからなかった。
ヴェロニカの本心がどこにあるのか。
ヴェロニカはただ婚約者から逃げる手段として、ジェームズのことを好きになろうとしているのではないか。
結婚したら妻のように、ジェームズの傍から去ってしまうのではないか。
考えれば考える程、訳がわからなくなった。
ただ、信じてみたいとも思った。
ヴェロニカの真っ直ぐな瞳を。
無邪気な笑みを。
ジェームズがヴェロニカの親を訪ねたのは、それから数ヶ月経った時だった。
結婚の申し込みの為だった。
そして、断られた。
正確には、既にヴェロニカは婚約が整っているので、ジェームズの申し出を受け入れることはできないと言われたのだ。
当然だった。
ジェームズはヴェロニカに婚約者がいるにも関わらず、横槍を入れた形となっている。
しかも、ジェームズの過去は皆が知るところだった。
薄暗い噂が流れていることも、もちろんわかっていた。
普通の親なら、自分の元に娘を嫁がせたりしない。
だから、ヴェロニカと公園で鉢合わせた時は驚いた。
彼女は諦めていなかった。
ジェームズの醜聞は聞いただろうに、それでも結婚したいと言ってくれた。
さすがに、駆け落ちまで持ちかけてくるとは思わなかったが、それでもジェームズは嬉しかった。
ーー彼女になら裏切られても構わない。
そう思えたのは、きっとヴェロニカのおかげだった。
彼女の必死さが、真っ直ぐさが、ジェームズには眩しかった。
信じたいと思った。
ヴェロニカと歩む人生を。
二人寄り添って生きる未来を、強く夢見た。
そして、その半年後。
ジェームズとヴェロニカは隣国で、ひっそりと結婚した。
結局、駆け落ち結婚になってしまったのは残念だったが、もうその頃にはジェームズはヴェロニカのことを深く愛してしまっていたので、構わなかった。
愛する人と、これからずっと一緒にいられる幸せを思い、ジェームズはただ嬉しかった。
ヴェロニカを大切にしようと思った。
絶対に傷付けないし、裏切りもしない。
今度こそ、最高の夫になろう。
この幸せを逃しはしないと、ジェームズは固く決意した。
こうして、ジェームズにとって二度目の結婚生活が始まった。