第1話 魔王様ととのう
仕事に疲れたのでサウナとスパにいきたい。
そんな話です
サウナ&スパ
それは異世界の娯楽である。
喜劇や文学、宮廷料理や女……
ありとあらゆる娯楽に食指が動かなくなった頃、私はそれに出会った。
「まーちゃんさん!ロウリュ!ロウリュ行きますよ!」
「かたじけない。ほこちゃんさん!」
ほこちゃん、それはこの世界で出会ったサウナ友達。サ友だ。
アツアツに熱せられたサウナストーンに水がかかり、モワモワとアロマ水が水蒸気になっていく。
「この香りは……清々しくシャープな香り……ローズマリーですね」
「頭の中がスッキリしていく……ローズマリーという名、覚えておこう……」
友達なんてこの年になってもできるとは思っていなかったが、身分、立場、種族を超えて何かを楽しめる友というのはかけがいのない存在だと気づいた。
サウナは万能の聖杯なのである。
そして、私の心にぽっかり空いた空虚な部分に再びアロマ水が入っていく。
じゅわぁぁぁぁぁ!!!!!!
あああっ!きくぅううう!!!
公務や魔族関係などの悩みがどんどん水蒸気と共に消えていくようだ。
額には大粒の汗が流れていく。
1年続く戦闘にも、太陽の如き灼熱の火球にも汗1つかかなかった私が、この世界であればサウナで10分もすれば、あっというまにびちょびちょだ。
しかし、悪くない。
胸の中がドクドクと鼓動を打っている。
生きている。この世に自分がいると胸の臓が主張している。
「そろそろですかね?」
「ええ、行きましょう」
身体がしっかり、温まった後、水風呂に入る。
それはサウナーに取ってのメインディッシュだ。
お湯をかぶり、汗を流す。
これはマナーだ。マナーがなければ、それは獣と変わらない。この世界で学んだ事だ。
ほこちゃんさんは水を被ってから入るが私はこの水風呂が苦手だ。
だから湯を被る。
そして、間髪入れずに水風呂へ入る。
身体が冷めてから入っては意味がない。
「ここの水風呂。17度で深めの水深なのがイイですよね。入りやすい。」
「ええ、羽衣が消えず、じんわり冷えていく。私のような初心者にはちょうどいい」
口からの吐息が冷たくなった頃、それが私の中での水風呂から上がる合図。
そして、間髪入れずにととのい椅子へ向かう。
やった!寝転べる椅子が空いている!
タオルで体の水を拭い、横になる。
そして目を細め、口を開けてぼーっとする。
全裸で口を開けて寝転ぶ、この姿を見られたら部下に幻滅されるだろうが、ここにはいない。
しばらくすると世界がまわり始める。
今回は縦にぐるぐる回り始めた。
鼓動が聞こえる。人の声や自然の音、風の音、水の音。
ありとあらゆる物の中に自分がいる。
なんとも言えない感覚がやってくる。
これをほこちゃんさんは「ととのい」と教えてくれた。
『ととのった〜』
ほこちゃんさんと声がかぶる。
私は自然と笑顔が溢れた。
私の名前は魔王マキャベリズム・イスカンダル。
異世界の9人いる支配者の一人である。