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決別の時

「ガディ!今日は何の日か覚えているかい!」

勢いよく扉を開いて、相棒のガディに話しかける。僕は有名なパーティーである「サンセット」に所属しているパージ。今日はサンセット結成から五年目の記念日だ。パーティーが一年以上持つことはかなり珍しい。報酬の分け方、冒険中の戦闘、恋愛沙汰、さまざまな理由で解散するパーティーは後を立たないのだ。それもあって僕らは毎年結成日に初心を忘れないために、そして来年も同じ日に祝えることを願ってささやかなお祝いをするのだ。


「おぉ!もちろん!今日はパーティー結成から五年の記念すべき日だからな!だから・・・今日でお別れだパージ。今日で俺たちは解散だ。前々から紅蓮の嵐に誘われていてな、お前はお荷物だから要らないってよ。悪いな、俺は一足先に上に行かせてもらう」

「う、嘘だよね。今まで一緒に頑張って来たじゃないか。なんでそんな簡単に僕を捨てられるんだよ!」

「うるせぇな!おまえはもう必要ねぇんだよ!とっとと出ていけよ!」

「わかったよ!そんなに言うなら出て行ってやるよ!後で後悔しても知らないからな!」


つい勢いで出てきてしまった。でも悪いのは絶対にあいつだ。今まで一緒にいろいろなダンジョンを突破してきた仲間じゃないのかよ!それをあんな簡単に誘われたからって僕を捨てられるのかよ!今日までの五年間は何だったんだよ。思わず目から涙があふれてきて止まらない。どんなに押さえようとしても涙は収まらない。理不尽な理由で捨てられたというのに心の底からあふれてくるのは怒りではなく深い深い悲しみばかりで一向に怒りなど湧いてこない。ここで怒ってダンジョンにでも潜って忘れられればきっともっと楽な人生を送れたのかもしれない。でも何度思い返してもあいつにひどい扱いを受けたことなどない。一緒に戦って、一緒に傷ついて、一緒に喜んで、一緒にお祝いして、思い出すほどにあいつとのこれまでの日々が輝いて僕の心を苛む。今必死にあいつの悪いところを探す自分がひどく醜くて仕方がない気がしてくる。考えるほどに悲しくなってくるのでまだ昼だが酒場で引っ掛けることにする。


酒場でひとりでやけ酒を飲んでいると、僕が一人で酒場で飲んでいることなど滅多にないことなので友人たちに声を掛けられる。よほどひどい顔をしていたのだろう、理由を聞かれるが答えられない。長年パーティーを組んでいた相手に捨てられましたなんてどうして言えるというのか。そこまで珍しい話ではないとはいえ、他人に話したいことでもない。誰に打ち明けるわけでもなく、黙々と酒を飲んでいるとギルドで受付嬢をしているヤーナが見かねて声を掛けてきた。ヤーナにもいう気はなかったのだが何となく打ち明けてしまう。


「そんな。ガディさんに限ってそんなことはしないと思いますけど・・・」

「現にされたんですよ!目の前で確かにあいつが、僕はお荷物だから要らないって!」

思わず声を荒げてしまう。急に荒げたのでヤーナも驚いた顔をしている。


「すいません・・・。実は私も結婚直前だったのに浮気をされた挙句捨てられたのでパージさんの気持ちはわかります」

「そうだったんですか、軽く噂で聞いた程度でしたけど本当の話だったんですね・・・。」


落ち込む二人がそろってしまうと、下がり続ける気分に誰も待ったをかけてくれない。明るいもう一人の受付嬢も今はいない。二人そろってため息を吐きながら酒をちびちびと飲むその姿は傍目にもずいぶんと異質だったのだろう。誰も声を掛けず、そっとすることに彼らの中で無言の決定がなされたらしい。気分が落ちるとどんどん声のトーンも大きさも下がっていく。既に僕らは隣に誰か座っても何を話しているかわからないほどまでに小さく、そして低くなっていた。


「・・・飲みますか、毒酒」

「・・・あれは危険すぎて一般には出回っていないはずですけど」

「これでもギルド内だとそれなりに上の方の立場にいるんです。二人分くすねるぐらい訳はありません」

「ばれたらクビどころじゃないと思いますけど・・・」

「今の私達に未来のことを考える理由があるんですか?あなたは五年も付き添った相棒に捨てられ、私は婚約者が同僚と浮気、しかも毎日隣で働いていた彼女です。死にたくもなるでしょ?彼女はいったいなにを思って私と笑顔で働いてたんでしょうね?」


思わず聞いた彼女の境遇に驚きながら、彼女の顔に戦慄する。いつも笑顔を絶やさない彼女が目になんの光も灯さず、表情はピクリとも動かない。それは彼女が僕よりもはるかに深い絶望の中にいることを示していた。そしてそれに抵抗できるほど僕の精神状態は健康ではなかった。

「私。裏切りは許しませんから・・・。今日の夜、広場の噴水で待っています」



 夜、広場に行くと恐ろしい程に静かだった。昼間は出店に商店から露店売りが声を張り上げて客の気を引こうと喧喧囂囂としているのだが。誰もおらず、何の声も届かず、動物の声すらしてこない。

「ヤーナさん。街の夜ってこんな静かなんですね。いつもこの時間は寝ているので知りませんでした」

「ええ、夜の街もいいものでしょう。静かで、街に私たちしかいないみたいです」

「ささ、ぐいっといきましょう。今更私たちに躊躇する理由なんてないんですから」

「まぁ・・・。そうですけね」


杯に毒酒を注ぐ。とぽとぽと静かな音を聞きながら街を眺める。二人で杯に注いだ毒酒を見つめる。恐ろしい名前の割には底が見えるほどに透き通っていて拍子抜けだった。こんな綺麗な液体だが、この一杯で100はくだらない人間の致死量に値する。彼女と軽くグラスを合わせ、どちらともなく笑う。死ぬ前はもっと死への恐怖とか躊躇が生まれるものだと思ったが、そんなこともなく自然に口に運ぶことができた。二人で一気に飲み干す。苦しくも、痛くもなく、すっと目の前が暗くなる。抵抗もなく目を閉じる。


あぁガディに特大の不幸が訪れますように。

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