あらあら?
「早智には助けられてばかりだな」
「いいの、私が好きでした事だから」
遥の一件から1ヶ月が過ぎた。
事件の翌日に遥のクラスメートがうちのクラスに来て佑真に質問をしていたが、
『知らない』
佑真の言葉にそれ以上の追及は無かった。
何かを察したのだろう。
しかし2週間が過ぎたある日、それは起きた。
突然知らされた遥の転校。
一度も学校に姿を見せない、知り合いにも連絡を取らないままの事態。
佑真は遥の知り合いに昼休み校舎裏へ呼び出された。
こっそりと盗み聞きしていた私は一足先に校舎裏の物陰に隠れた。
数人の男女に囲まれた佑真は質問責め、いや質問というより尋問を受けた。
『遥と連絡が取れない』
『2週間前佑真と抱き合う川井を見た』
『川井に乗り換えて遥を捨てるつもりね』
『浮気するなんて最低...』
佑真に次々と浴びせられる言葉に唖然とした。
こいつらは何を一体?
無言で耐える佑真の姿、本当の事を言えば良いのに!
叫んで飛び込んで行きたいが、それは出来ない。
私が行けばやぶ蛇になってしまう。
こっそりその場を離れ、職員室まで走った。
遥の担任を呼び事情を話す。
『お前達何をしている!!』
佑真の元へ駆けつけてくれた先生の一喝。
奴等は慌てて逃げて行った。
その後奴等は二度と佑真に絡まなくなった。
先生から遥の事を少し聞いたのかもしれない。
「あの時もありがとう、早智」
「ううん、私ってお節介焼きだから」
帰り道、電車で通う私を駅まで佑真は送ってくれる。
こうして毎日を振り返る。
この場所に遥が居た、でも今は私の物。
貴女が悪いんだよ、遥。
「どうした早智?」
「ううん、なんでも」
いけない、あんな奴を思いだして貴重な佑真の時間を無駄にしては勿体無い。
心中を見られない様に笑顔で首を振る。
「勉強まで見てくれてありがとう」
「それも私のお節介だから」
受験勉強を再開した佑真。
しかし心の傷は大きく集中出来ない彼に私は休み時間と放課後、時間の許す限り勉強に付き合っていた。
その時間もご褒美なんだけどね。
「そんな事は無いよ」
佑真は自転車を止め、私を見つめた。
「...佑真」
「お節介なんかじゃない、早智が居なかったら俺は...きっと遥の裏切りに耐えきれず駄目になっていただろう」
苦しそうに言葉を紡ぎながら頭を下げる佑真。
実直な性格の彼を傷つけた遥に今更ながら怒りが...
駄目、今は佑真の事だけを。
「ありがとう佑真」
私は自転車のハンドルを握る佑真の右手に自分の手を重ねた。
私の顔を見つめる佑真の、苦しそうで...
「いいよ、まだ無理しないで」
そう、まだ無理しないで。
そんな次々行ける人じゃないのを知ってるよ。
ましてやあの裏切りの後だもん。
駅に着き、少し寂しそうな佑真の表情を見た。
「それじゃまた明日な」
「うんバイバイ」
改札で手を振る。
佑真には最高の笑顔で。
消える佑真の後ろ姿に決意を固めた。
『佑真、一緒の大学に行こう。
その時もう一度告白するんだ、今度はきっと...』
電車に揺られて自宅に着いた。
受験生の私に休息は無い。
元々勉強は苦手で無かったのでそれほど苦痛では無かった。
「ん?」
ラインの着信が。
[お帰り、無事に着いたか?]
佑真からだ。
[うん、ありがとう]
返信すると直ぐに返信が。
[また明日な]
短くても私を心配する佑真の気持ちが伝わる。
「早智」
「なに?」
せっかくいい気持ちに浸っていたらお母さんが私を呼んだ。
「ちょっと店に来て」
「はーい」
って事は花の配達か。
素早くマスクと帽子で変装完了と。
「これをスナック、マースまで」
「了解」
胡蝶蘭の配達、配達用の自転車に胡蝶蘭を積み一路スナックまで。
ここの店にはお世話になった。
...そう遥の件で。
「お花を届けに」
「早智ちゃん、いつもありがとう」
店先に待っててくれたのは店長さん。
少し強面だけど...本当に怖い。
でも私には優しい人。
受け取りのサインをして貰いながら、ふと考えた。
家の仕事柄、昔から私は沢山の大人と接していた。
だから沢山の人生模様も見てきた。
開店祝いに花を配達したお店があっという間に潰れたり。
店が成功したせいで家庭が崩壊した人もいた。
そしてなにより男が女を見つめる時の目、下心には敏感になった。
だから遥をファーストフードで男の人と居るのを見た時、男の目に危険を覚えた。
一度だけ遥に言った。
『止めなよ、佑真にバレる前に』
だけど遥は、
『あんた振られてるのに、そんな事よく言えたわね』
....だから見捨てた、後悔はしてない。
「自業自得だったな」
「え?」
店長さんは私を見て笑った。
「あの男と女の子だよ、知り合いだろ?」
「まあ、女の子だけ」
「そっか」
それ以上店長さんは何も言わない。
察したのだろう。
あの時、佑真が遥にホテル前で会った後、逃げようとする男に
『そいつを捕まえて!』
そう叫んだ。
男を捕まえてくれたのが店長さん達だったから。
「ホテル前で張り込んだり、早智ちゃんもよくやるよ」
「知ってたんですか?」
「当たり前だ。女の子が夜に、危ねえだろ」
って事はバレてたのか。
「馬鹿な女の子だ」
「そうですね、本当に馬鹿でしたね」
店長の言葉を素直に受け取ろう。
私も、遥もだな。
私は絶対に裏切らないからね、佑真....
そう誓った。
おしまい。