あれ?
書きためてた物です。
胸糞ありです。
「遥はどうしたの?」
学校が終わり、クラブの荷物を自転車籠に入れ、家に帰ろうする俺に声が掛かった。
振り返らなくても分かる、この声はクラスメートの川井早智。
色々あって俺は彼女を少し避けていた。
「何か用事があるって、先に帰ったよ」
「用事?昨日も佑真1人だったじゃん」
何で知ってるんだ?
確かに昨日も、いやこの所ずっと遥は俺と帰って無いな...
「何かあったの?」
川井は窺うように聞いた。
何を企んでる?
「何も無いぞ」
「嘘、遥ったら最近休み時間、全然佑真に会いに来ないし」
「お前よく見てるな」
「...まあね」
少し考える素振りで川井は俺を見た。
何か言いたい事でもあるのか?
「佑真、あのね」
「何だ?」
「遥と別に喧嘩したとか無いよね?」
「なぜだ?別に喧嘩もしてないぞ」
「...そう」
明らかに川井は考えこんでいる。
俺の心に荒波が襲う。
いやまさか、遥に限って...
「佑真、落ち着いて聞いてね」
川井は駐輪場から俺を引っ張る、他の生徒から逃げる様に。
「私見たの」
「見た?」
「遥が男と歩いてるところ」
「......は?」
今なんて言った?
いや分かってるよ、川井は遥が男と歩くのを見たって...
「まさか見間違いだろ?」
震える声を何とか抑えて話すが、声が上ずってしまった。
「間違い無いよ、ほら」
川井は携帯を取り出す。
そこには遥と知らない男が腕を絡め仲良く歩く動画が映っていた。
その様子は恋人にしか見えない、それより問題は背景だ。
「...ホテル」
「ええ」
輝くラブホテルの看板。
これは俺....寝取られたの?
「...何で川井がこんな所歩いてたんだ?」
最初に出た言葉は我ながら間抜けな物だった。
「最初は偶然だったの、バイト途中に」
「バイト?」
「お母さんの店の手伝い」
「手伝いって、お前高校生なのに夜の店でバイトを?」
川井は凄く綺麗だ。
男子からよく告白される程に、遥も俺が川井と話しをするだけで嫉妬していた。
「何勘違いしてるの?家はお花屋!
あの辺にスナックとか一杯あって、花の配達に行ってたの!」
川井は顔を真っ赤にして手を振った。
クラスでは地味なキャラの川井に夜の店は似合わないよな。
「成る程」
1つ深呼吸、話が逸れて少し冷静に...
なるわけ無いか。
「恥ずかしいから帽子とマスクで変装してるの。
配達終わって店に帰ろうとしたら」
「遥と男が歩いて来た訳か」
「うん、で私咄嗟に」
そうして撮影した映像って事か。
手ブレも酷く録に映って無いシーンが多いのは当たり前か、探偵じゃあるまいし。
「証拠には弱いな」
「そうよね」
携帯を川井に返す。
これを遥に見せた所で『私じゃない』そう言われたら終わり。
しかし映像の女は間違い無く遥だ。
私服に見覚えもあるし、何より彼女の顔を見間違う筈ない。
「この映像を誰かに?」
「ううん、見せてない」
「だろうな」
俺は携帯を取り出す。
さっき見た映像の日付けからその日を確認する為に。
「へえ」
ラインの履歴を探すと難なく見つかった。
遥から来ていたのだ。
「どうしたの?」
「ほれ」
俺は携帯を川井に差し出した。
「なにこれ!?」
信じられない顔で川井は画面を見た。
「笑えるだろ、普通[愛してる]って書くか?」
画面には
[今から予備校の授業なの、補修もあるから今日は連絡出来ません]
そう書かれていて、
[分かった、勉強頑張れよ]
そう書いた俺の返信に、
[ありがとう佑真愛してる]
そう書かれていた。
「やれやれ」
思わず乾いた笑いが出る。
喪失感と呆れ、そして憎しみ。
どんな理由があるにしろ、ラブホに入る前に書く内容では無い。
「ちゃんと別れてから次に行けばいいのに」
「佑真...」
川井は辛そうな顔で俺を見る、なんでだろ?
携帯のラインを上にスクロールさせる。
「ほう」
「どうしたの?」
「いや、遥から同じ様なのがたまに来てたんだよ」
曜日はバラバラだが同じ時間帯から来る遥からのライン。
予備校だったり、バイトだったり。
「[今日は連絡出来ません]で最後に[愛してる]か。
馬鹿らしい」
ここまでに虚仮にされていたのか。
付き合って1年か、向こうから告白してきたのにな。
「佑真...」
「遥と別れるよ、何だかな」
そう言った俺の携帯からラインの着信音が。
「遥からだ」
「まさか...」
「何とまあ」
読みながら呆れてしまう。
[今日も帰られなくてごめんなさい。
今からバイト、最後までのシフトだから今日は連絡出来ません]
そう書かれていた。
「どうするの?」
携帯を覗いていた川井が俺を見る。
[せいぜい頑張れ]
無言でそう書いた。
[ごめんね、この埋め合わせはするから。愛してる]
遥から返信は直ぐに来た。
「どうするの?」
「今日は帰るよ、明日にでも遥に別れ話しする。
川井ありがとうな」
駐輪場に向かう。
もう耐えられない、こんな惨めな俺を見せたく無いのだ。
「待って!!」
川井は俺の腕を掴んだ。
結構な力だ。
「何だよ」
「佑真泣いてるじゃない」
「まさか」
慌て頬を触ると指を濡らす物が。
これは涙か?
「ほっとけないよ」
「川井?」
「そんな辛そうな佑真ほっとけない!」
川井は俺を抱き締める。
まだ他の生徒が居るのにもかかわらず。
「すまん川井...」
「いいよ」
涙が止まらない、川井は嗚咽しそうな俺の背中を優しく擦ってくれた。
「...早智」
「ん?」
「川井じゃなくって早智って呼んで」
「それは」
「また断るの?」
辛そうな川井の声。
1年前に川井は俺に告白した。
その少し前に遥の告白をOKしていた俺は川井の告白を断っていたんだ。
川井は寂しそうに笑いながら。
『いいよ、でも友達は続けてね』って。
「ごめん、早智...」
まだ受け入れるのは無理だ、だけど名前くらいなら。
「ううん、これからだよ」
早智はそう言った。
「ありがとう」
暫くして早智から離れた。
苦しい気持ちは少し薄れ、前向きになれそうな気がして来る。
「遥にケジメを着けなきゃ」
「早智?」
「私の大好きな佑真をこんなに傷つけたアイツを許せるもんか!」
早智は怒りを滲ませる。
一体どうしたんだ?
「待ち伏せする」
「待ち伏せ?」
「ええ、場所は分かってるから」
「そうなのか?」
「いつも同じ所よ、何度か見たの」
「は?」
「さっき言ったよね、最初は偶然だったって」
言ったかな?言ったんだろうな。
「分かった、俺が行くから」
「...佑真」
「俺が行く。ケジメは俺がつけるよ」
そう、俺の問題なんだから、早智に背負わせちゃダメだ。
「分かった」
「出てくるのはいつも9時頃よ、場所は...」
早智は場所を携帯で教えてくれた。
何でここまで知ってるんだ?
そんな疑問もわき上がるが今は止めよう。
早智と分かれ、一旦自宅に帰った俺は着替えてさっき聞いたラブホ前に自転車を止める。
間違いであって欲しい
この期に及んでまだ女々しい考えが頭を過った。
「...ああ」
願いは虚しく消えた。
ラブホから出てきたのは遥、そして知らない男。
いくつ位だ?
年上だな、社会人なのは間違いない。
「...遥」
「嘘、どうして佑真...」
別れ際抱き締しめ合う背後で声を掛ける。
俺の声に遥は驚きながら目を開いた。
「ち、違うの!」
「何が?」
何が違うんだろう?
ラブホから出てきた男女、抱き合う2人。
遥の言葉にぼんやり考えていた。
「おい!」
慌てる男は俺を掴もうとするが素早く躱し自転車を走らせた。
もう遥に用は無い。
男と面倒はごめんだ。
こうして俺の恋は終わった。
遥からラインと着信が来ると思い全て拒否にしていた。
心配していた自宅の電話に遥からの連絡は来なかった。
翌日、遥は学校から姿を消したのだった。




