第9話
「まさかこんな結末になっちまうとはな……」
クラーケンという力を失った吉岡は報復を恐れて急いで教室を後にしたあと、階段から転げ落ちて体中ケガをしたうえに意識不明になってしまったらしい。一番に発見した生徒が教師に報告して、その教師が病院に連絡。救急車が来てそのまま搬送されたのだ。
命に別状はないが、いつ目を覚ますかは不明らしい。
学校の王者としてふんぞり返っていた男がこのようなことになってしまうだなんて想像もしていなかった。
「でもこれも、自業自得ってやつなのかもな」
吉岡はあの学校でイジメにあっていたと話で聞いた。
そんな最悪の環境の中、ビーストカードを手に入れて、クラーケンの使い手となってイジメをしていた連中に復讐を繰り返していた。
典型的なイジメ返しかもしれないが、イジメ返しなんかしても人は幸せにはならないってことは本当なんだなってことがわかった、そんな戦いだった。
「ところでなんでオレっちはカバンの中に入っていなきゃいけないんだ?」
「しかたないだろ、ここはペット入店禁止なんだから」
「だれがペットじゃ!」
「静かにしろよ、気づかれるだろ」
そんな俺は今、行きつけの喫茶店「安心地帯」で好物のナポリタンを食べている。
チェックは悪いが俺のカバンの中に入ってもらっている。
「まぁ今回のことでわかったことが一つある」
「ん?」
「お前が前に言っていたことだよ。人間は自分勝手な生き物だからビーストカードを手に入れちまったら大変なことになるとかなんとかって話さ」
レスカを飲んで一息ついてからまた口を開く。
「たしかに世の中にはどーしようもねぇ人間がいるかもしれねぇ。お前がビーストカードを回収しようとすることも納得がいく。だから俺がそれを手伝ってやる」
「おいおいどうゆうことだよ?」
「ビースト能力を使って悪いことしている連中がまだまだいるかもなんだろ? だったら俺がやっつける! 俺だってこんな大それた力を自分勝手に使う奴らを放ってはおけないんだよ」
昔の自分を少し思い出す。父親を殺した自分。母親を壊した自分。すべてはフェンリルという力を手に入れたことがきっかけだ。
他の人間ならその力を好きなように使って生きるかもしれないが、俺はそんなことしねぇし、周りの人間にも同じようなことはさせねぇ。
俺はビーストの力を濫用するような奴と戦う決意をした。
「ふんっ。オレっちはお前という人間を完全に信じたわけじゃないが、なかなか使えそうだからな。これからも頼むぞ、エーイチ」
「ああ!」
こうして、ビーストカードを巡る戦いの日々が始まった。