第1話
何年も前にこのサイトで小説を書いていたことがありました。(当時の小説はもう削除済みです)久しぶりにこのサイトで書いてみたくなり、投降しました。よろしくお願いします。
ここはとある町の河川敷。
「矢崎ぃぃぃぃぃ! 死ねやぁぁぁぁぁ!」
「誰が死ぬかいアホンダラぁ!」
俺、矢崎永一は殴りかかってきた不良Aを返り討ちにした。
俺にとって喧嘩は日常茶飯だ。今日も適当に歩いているとRPGの敵キャラのごとく、どこぞ不良とエンカウントしてしまう。
放課後の帰り道、強制的に不良同士のバトルが勃発したわけだ。
「隙ありゃぁぁぁぁぁ!」
おっと。後ろから不良Bの攻撃か。タイミングは少し遅れたが回し蹴りで対処。そしたら不良Bは「ギャス!」なんて声を出してきやがった。だっせぇ奴。
「おんどりゃあ……生きて帰れると思うなよ!」
不良Cは金属バットを持っている。こいつ、丸腰相手に武器なんか使うのか、卑怯者め。
「てめぇの頭蓋骨粉々にしてやらぁなぁ!」
ならばこっちも武器を使うしかない。これでフェアだ。
俺は懐の中に隠していた武器を取り出して、不良Cがバットを振り下ろすよりも先に相手の顔面にぶつけてやった。
「そ、それは……」
「そうさ。これは今日買ったばかりのグラビア雑誌さ!」
コンビニで購入したグラビア雑誌を丸めて剣のようにしてそれを顔面に叩いてやったのだ。
これぞ必殺、グラビア雑誌ブレード。
「紙の束にやられるなんて、お前ださいな」
「「「くっそー! 覚えてろよー!」」」
三人とも同時に声をそろえて俺の前から消えていった。
俺、矢崎永一は戦闘に勝利した。経験値は得られたかもしれないが金は入ってこない。なんとも不毛なバトルだった。
まぁアレを使うことがなかっただけよしとするか。
「……帰るか」
こうして俺は河川敷を後にした。
◆
翌日の放課後。
昨日と同じ河川敷を歩いていると、昨日の不良共が再び現れた。
「なんだお前ら、まだ懲りてないのか。不良A、B、C」
「人をアルファベットで読んでんじゃねぇよこの野郎! 俺たちはなぁ! 巷じゃ泣く子ももっと泣く最強の三人組ヤンキー集団『舞炎隊』だぞゴルァ!」
「最強って……昨日俺にやられてんじゃん」
「「「う、うるせー!!!」」」
三人同時に声をそろえて叫んできた。息は不思議とピッタリみたいだな。
「まぁお前らがこうして現れたってことはアレだ……もう一回やられたいってことでいいんだな?」
三人組の一人が「ふふふ……」と奇妙な笑みを浮かべてきた。
「今日の俺たちは一味違うぜ?」
「ほう? なんだなんだどう違うんだ? 三人一組の必殺技でも考えてきたのか?」
「お願いします、尾坂先輩!」
すると不良三人の後ろから一人の男が姿を現した。
って、自分らは戦わねぇのかよ! めっちゃ他力本願じゃーん。
「俺の後輩たちが世話になったな。俺様の名前は尾坂遊太郎。こいつらの先輩だ」
尾坂と名乗ったその男は他の不良どもと比べて体格はいい方ではない。どちらかと言えばやせっぽちだ。
そんな男が喧嘩なんかできるとは思えないが……
「昨日はそいつらと戦って勝った俺に対してタイマンを挑むってことは……相当な自身なんだろうな、アンタ」
「お前は俺様には勝てない。絶対にな」
ずいぶんな自身じゃないの。アンタがそういうならこっちだって一気にいっちゃうぜ?
俺は服の中に隠してあったグラビア雑誌を取り出して丸めて剣にする。
「そんな紙切れで俺様に勝とうとでも思っているのか?」
「ふ……いくぜ!」
先手必勝! 俺は先に動いた。
狙うは自分のことを「俺様」とか言っちゃってる何かと上から目線なムカツク先輩の頭蓋骨だ。
俺がグラビア雑誌ブレードを振り上げた瞬間、バンという音が響いた。
「な……」
俺の横腹に激痛が走る。
尾坂との距離はまだ離れている。パンチでもキックでも届かないこの距離から攻撃を受けたのだ。
おそるおそる痛みが走る横腹に目を移すと、赤い血が流れていた。
次に尾坂の方を見てみると、奴の右手には黒光りする一丁の銃が握られていた。
「ジュ、ジュートーホーイハンってやつじゃないのか……?」
成績の悪い俺でもそれぐらいの法律は知っている。
しかし俺の目の前にいるクソ生意気な先輩はそのこの国のルールを平然と破っているじゃないか。
「俺様のパパは超がつくほどの大企業の社長でね。大抵の罪は金と権力で揉み消すことができるんだよ。これはまさに上級国民の特権というヤツさ」
チートじゃねぇか。俺がもし上級国民とやらなら学校にマシンガンとバズーカ持参して登校するぜ。
「言っただろ? お前は俺様には勝てねぇってな」
「クソインチキ野郎が。パパの権力がなけりゃなにもできねークズじゃねぇか」
「死人に口はない。というわけでくたばれ」
俺に向かって銃口を向けてきやがった。本当に殺す気か?
「ま、まじでやる気かよ先輩……」
「いくらなんでもやりすぎなんじゃ……?」
「お、俺は知らねぇ……俺は知らねぇぞ!」
周りの不良どもは若干引き気味じゃねぇか。そうだよな、喧嘩はしてもまさかここまでするとは思っていなかったよな、お前らも。
このままでは俺は死ぬ。クソな権力者のチャカで俺を殺そうとしていやがる。
グラビア雑誌ブレードで弾を跳ね返す? そんな侍映画みたいなことできっこねー。つーか銃弾なんて余裕で紙なんか貫通しちまうだろーが意味ねーよ。
一瞬で見切って弾をかわす? 俺そこまで視力よくねーよ。アクション映画の主人公じゃあるまいし。
アンフェアだ。これは極めてアンフェアな戦いだ。
いや、もはや喧嘩の領域を超えちゃってるだろオイ。
ならばこっちも。
アレを出さなくちゃいけなくなっちまったじゃねーか!
「アンタは俺を本気にさせた。この後死ぬほど後悔するぜ!」
俺の右手には一枚のカード。
常に持ち歩いているわけじゃない。俺の意思ひとつでそのカードはいつでもどこでも俺の手の内に出現する。
突如として出現したカードに「なに?」と尾坂も不思議がっている。おそらくマジックかなにかかと思っているのだろう。
だが違う。これはマジックなんかじゃない。これは人間の常識をはるかに裏切る摩訶不思議なカードなんだぜ!
「こいや! フェンリル!」
俺はカードをメンコのごとく地面に叩きつけた。
叩きつけられたカードの周りから疾風が吹き荒れて、そこから一匹の獣が出現した。
「フェェェェェン!」
体毛の色は銀色、大きさは俺と同じ大きさの狼だ。狼だが四本の足で立っているわけではなく、二本の後ろ足だけ地面につけている二足歩行状態だ。
両手の先に生えている爪は鋭利な刃物の如くギラギラと輝いている。
口から除くトゲトゲした牙と牙の間から「フシュー」と白い息が噴き出ている。だいぶ興奮している様子だ。
ちなみにフェンリルと言う名前からなのか鳴き声は決まって「フェェェェェン」と鳴く。
「な、なんだそいつは……?」
「こいつはフェンリル。狼のビーストだ」
「び、びーすと?」
「このビーストカードの中に存在するモンスターのことだ。こいつは俺の最高の武器であり、最高の味方なのさ」
右手に持っているカードをちらつかせて上級国民と自称最強の不良三人組に見せつけているが、今俺が持っているカードは白紙のカードだ。元々は今目の前にいるフェンリルのイラストが描かれているのだが、フェンリルを場に出すと白紙状態になるのだ。
「まぁとにかくだ」と俺は尾坂に向かって指をさす。
「そっちは銃、こっちはビースト。これでフェアだな」
「こ、こんなのまやかしだ! トリックだ!」
バンバンと銃を乱射する尾坂。その攻撃を俺の代わりにフェンリルが受け止めてくれる。
しかしその攻撃、フェンリルにとっては豆鉄砲に等しいぜ。
「き、効かない……」
ビーストはハンパな攻撃じゃやられないのさ!
「やっちまえ!」
「フェン!」
フェンリルは一気に尾坂の間合いに入った。そして右手を振り上げて一気に振り下ろした。
日本刀以上に切れ味の鋭いフェンリルの爪攻撃は、鉄でできた銃を、ケーキを切るが如くきれいに切断した。
「ひぃ!」
唯一自分の最大の武器である銃を壊された尾坂は腰を抜かした。よく見ると股間あたりが濡れているじゃないか。おもらししたな、ばっちー。
「さて、次は手首でも切断するか」
「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
自称最強ヤンキー軍団である舞炎隊の三人もフェンリルの力に恐れをなし、脱兎の如く逃げ出した。ちなみに手首を切断するなんて言ったのは単なるおどしだ。本当に切るつもりはない。
「こ、こらお前たち! 上級国民である俺様を置いて逃げるのか!」
そりゃ逃げ出すよな。目の前にこんな常識外れの存在を目の前にしたらよ。
フェンリルは少しずつ尾坂と距離を詰めていく。
「ひ、ひぃ! た、助けて……」
「…………」
無抵抗の人間相手に攻撃するほど、俺は腐っちゃいねぇ。
「戻れ、フェンリル」
カードを前にかざすと、フェンリルは吸い込まれるようにカードの中に戻っていった。
フェンリルを召喚している間、カードは白紙状態になるが、戻ったことによって再びカードにはフェンリルのイラストが描かれている。
「もうこれに懲りて偉そうなことすんなよな、上級国民さん」
踵を返してその場から去ろうとする俺。
「バカめ!」
尾坂の声が後ろから響いた。
後ろを振り向いてみると、なんとアイツはもう一丁銃を隠し持っていやがった!
情けをかけたとたんにこれだよ!
「上級国民である俺様に恥をかかせたことをあの世で後悔させてやらぁぁぁぁぁ!」
反応が遅れた! フェンリルをもう一度召喚……だめだ! 間に合わない!
「死ねぇ!」
バンと乾いた音が響く。ただでさえこっちは横腹を撃たれているっていうのに今度は心臓とか頭とかを撃ってくるかもしれない。相手はそれぐらい本気だ。
今度こそ、死ぬのか?
俺は強く目をつむった。これは絶対に助からないと確信した俺だが、いつまで経っても身体のどこにも痛みが走ってこなかった。
「?」
おそるおそる目を開くと、そこには一体のライオンが俺の前にいた。
「な、なんだ?」
思わず俺はそんなことを呟いた。
動物園から脱走したのか、それともアフリカからワープしてきたのか。
尾坂の奴も「今度はなんなんだ……」とビビりあがっている。
「後ろから攻撃とはいい度胸じゃねぇか、人間」
ライオンの頭の上から声がした。よく見るとライオンの上になにかいる!
「あ、あれは……ウサギ?」
なんとウサギがライオンの上に立ってしゃべっていたのだ。
…………ん?
「ウサギがしゃべっとる!」
俺の目の前に現れたライオンにも驚いたが、しゃべるウサギに俺はもっと驚いた。