第九話
ふぅ~、つ、疲れた。
石橋さんからのお願いは、
最初は、ラバハキア王国に行って通訳として働いて欲しい。
であった。
拘束期間が長いし、不敬罪も怖かったので、断固断った。
一瞬、交通費:往復ファーストクラス、宿泊:高級ホテル 両方全額会社持ち、
給料:五百万円~一千万円をとりあえず用意。
に心が動きかけたが、何ヶ月かかるかわからないのはなぁ……
次に、従業員数名相手にラバハキア語会話の授業をして欲しい。
であった。
これも、時間がかかるのでと断った。
正確に言うと、このお願いは不可能だったので断ったが正しい。
最後に、必要最低限の言葉のやり取りをデータ化させて欲しい。
だった。
正直、これも面倒だったので断りたかったのだが、
これなら、今日中に終るからとの説得。
この為にアポがあった人との約束をキャンセルしたんだ、とか
ヘリコプターまで使ったのに、などの泣き落とし系。
終いには、俺がこのお願い(もはや脅迫?)を受けないと、
我が社の人間がラバハキア国に行くのが遅くなる。
そうすると、発電所の建設はもとより、
発電機やAV機器の配達・設置も遅くなる。
と身振り手振りで、姫様に伝えようとしはじめる。
しかも、それが何となく姫様に伝わってしまい、
無理矢理付き合わされる事になってしまった。
色々考えた結果、今後必要になる単語や、簡単な会話を
セバス氏にラバハキア語で話してもらって、俺がそれを日本語にして言う。
それらをデータ化して、テキストをつくるなり、簡易翻訳機を作るなりする。
という妥協案に落ち着いた。
この形なら、問題なく協力できる筈だ……った。
大変に手間がかかるという問題点を除いては。
しっかし、
すぐに、翻訳して欲しい単語、例文が用意してある辺り、
最初から、現地に行って通訳、会話教室は無理と知りながら、
最初は無理な要求をだして、徐々に要求水準を下げていき、
相手に譲歩しましたよっていう交渉術なんだろうな。
石橋さんが
「えっ、わざわざセ・バス氏に読んで貰わなくても、松田くんが読めばいいんじゃないの?」
ってナチュラルに言われた時はあせった。
とっさに、やっぱり発音はネイティブの方がいいですからと納得してもらった。
セバス氏に尋ねられ、その事を説明した時、
『あなたの発音はネイティブと全く変わりないと思いますよ』
と言われたが、日本語には訳さなかった。
まあ、そう聞こえるよね。
まったく、これのおかげで色々助かったけど、今回はこれの所為で大変だったぜ!
親友よ!
俺は左手のミサンガを見ながら、もう7年以上会っていない親友の事を思い出していた。
「さあ、松田君!
後半戦のスタートよ!
頑張らないと、今日中に終わらないかもしれませんよ」
元気に、俺を励ます(励ましているんですよね?)ように声をかけてくる林原女史。
ちなみに、石橋さんは翻訳用の原稿を置いて、東京の本社までヘリで帰っていった。
さすがにアポを取っていた全員をキャンセルする訳にはいかなかったらしい。
そして、まだ終わっていないんだよ~~
さっきまで休憩中だったんだよ~~
現実逃避中だったんだよ~~
もう帰りたいんだよ~~
親友よ、助けてくれ~~
何か役に立つ魔法道具をくれ~~
…………
………
……
ウチに帰りついたのは、日付が変わる直前であった。
確かに、今日中に終わったけどさ……
あんな大企業のくせに、ブラックか?
ちなみに、姫様たちは自前(?)の超高級車で帰っていった。
俺は、林原女史が用意してくれたタクシー(ハイヤーってやつ?)で別だったので、
車中はゆっくり休む事ができた。
到着した時に料金を支払おうとしたら、運転手さんに必要ないといわれたので、助かった。
ただでさえ、1日潰されて、タダ働きさせられ、余計な出費まであったら泣くに泣けない。
まあ、後日俺の口座(当然教えていない)に入金があるのだが、この時の俺に知る由もなかった。
でも疲れたことには変わりない。
もう今日は、飯の用意する気もおきない。
メシ抜きでいいや。
風呂の準備をする気力すらない。
肉体的より精神的な疲れだから、汗もそんなにかいてない。
明日、朝一でシャワーを浴びればいいだろう。
もう寝てしまおう。
何にせよ、これで、彼等と関わることは無いだろう。
そんな考えは、インスタントコーヒーをガムシロップで溶かして作るくらい甘い事を、後日知る事になる。
しかし、それはまた別の話である。
もう、眠い。
おやすみ…………zzz