第四話
『ごめんください』
「…………………」
ピンポーン
『ごめんください』
「…………………」
ピンポーン
『ごめんください』
「…………………」
ピンポーン
『居るのはわかっているので、返事があるまで続けますよ』
くそっ!
居留守を使えば、あわよくば諦めて帰ってくれるかと思ったが、そんなに甘くないか。
「どちら様ですか?」
次の作戦。
何も知らない人の振りだ。
日本語で返答してやったぜ。
『こちらの言葉に反応している時点で、ラバハキア語を理解しているのがバレバレですよ』
しっ、しまったー!
何たる知略。
これが孔明の罠ってやつか~~!?
…………
………
……
…
わかっているよ!
俺がバカすぎるだけだよ!
『アポイントメントは御ありでしょうか?』
『いえ、ありません』
『そうですか、申し訳ありませんがアポのない方とはお会いできません』
『かしこまりました』
マジ!
諦めてくれるの?
ラッキー。
ジリリリリーン♪
俺の携帯から黒電話の音が鳴る。
この音が鳴るって事は、電話帳に登録していない奴からの電話だ。
すっげぇ~嫌な予感がする。
恐る恐る、電話に出る。
「もし、もし」
『本日、今すぐ、お会いするアポイントメイトをとりたいのですが?』
『そんな、アポの取り方があるか~!!!』
『いえ、アポを取らないとお会いできないと伺いましたので』
『何で俺の携帯番号知っているんだよ!』
『調べましたので』
『何で俺の家を知っている?』
『調べましたので』
『どうやって?』
『企業秘密でございます』
怖いわっ!
ダメだこりゃ。
これは、簡単に諦めそうに無い。
『……わかりました。…お会いします』
『おおっ!そうですか。ありがとうございます。
アポの取り方は、あれで良かったのですね?』
『よくねーよ!
あんなアポの取り方、アホのやり方だからね』
※良い子………常識のある人は絶対マネしないでね!
………で何故こうなった?
今の状況を確認してみよう。
ここはどこ?
俺の家。
さらに詳しく言えば、我が家自慢のシアタールーム。
時間は?
彼等が訪ねてきて、1時間半ぐらいたっている。
何をしている?
姫様がアニメを鑑賞している。
もちろん日本語がわかるはずが無いので、隣で俺が通訳している。
アニメ鑑賞をしていて、こんなに早く終われと願ったのは、俺の人生で初の事だろう。
もう一度言わせてくれ。
なぜ、こうなった?
俺が諦めて玄関を開けると、昨日とは少し柄の違う服だが、昨日あったばかりの2人がいた。
靴のまま、家に上がろうとするのを注意する、外国人が家に来たあるあるを経験しつつ、応接間に案内した。
……筈だった。
気がつくと、姫様が勝手にシアタールームの扉を開けて、中に入ってしまっていた。
ヲヒ、爺さん、ちゃんど教育しておけよ。
初めて訪れた他人の家で、この勝手な振る舞い。
はぁ~。
そして、そのシアタールームだ。
我が家は父・俺と2代続くアニおたである。
まあ、俺は父親の影響というか、生まれてから英才教育を受けてきた成果といえなくもない。
要するに、何が言いたいかというと、
我が家のシアタールームにはアニメのLD・DVDが大量にある。
そして、タイミングが悪いことに、姫様は日本のホテルでアニメを見て、大変気にいっていた。
もちろん、日本語がわからないので台詞はわからないのだが、絵だけでも面白く感じたらしく、
ホテルにいる間、アニメ専門チャンネルをつけっぱなしであった。
という事を後に聞いた。
結果として、ここにあるアニメを見たいとのたまわれた。
最初は全部見るまで帰らないというのを、1作品だけということで勘弁してもらった。
日本語を読めないので、当然タイトルも読めない。
ジャケットを見て、見たい作品を判断する。
そして、姫様が選んだのが、『マク□ス』のLDBOXだった。
LDをチョイスしたのは、DVDに比べてジャケットが大きいからだろう。
ただ、TVシリーズ全36話など見られては困る。
そこで、俺は劇場版(約2時間)で勘弁してもらった。
で、今に至る。
こいつ等、何しに来たんだ?