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第三話

「やっべぇ~!声に出してしまった!」

「いきなりなんだね、君は?」

『なんだぁ~、おまえは?』

『曲者め!』


俺の叫び。


オッサンズの一人の誰何。


少女の、問う声。


初老の男による、俺の身柄の確保。


が同時に行われる。


この初老の男の動きの早さ、拘束の手際、


只者ではない…………と只者の俺は思った。


そして、俺は直ぐに行動する。


『待って下さい、怪しいものではありません。話を聞いてください』


と、俺無害アピール。


『おまえ、ラバハキア語を話せるのか?』


『姫様、近づいてはなりません。まだ、この男の正体がわかっておりません。

 ましてやラバハキア語を話せるなど、益々怪しい』


そっか、この言語ラバハキア語って言うのか……


ラバハキア………そうか!


『聞いてください。私は以前ガーナにカカオの買い付けに向いました。

 そこでラバハキア語を少し学びました』


初老の男は拘束を緩めることなく、俺に話を続けるよう促す。


『たまたま、あなた方の話が聞こえ、重大な誤解が生じそうだったので、声をかけました。

 私なら、その誤解を日本語で解くことができます。

 もし、信じられないというのであれば、これから一言も喋らずにこの店を出て行きます』


考え込む初老の男。


その男にだけ聞こえるように呟く。


『あなたならば、私が武器を持っていない事。

 動きが素人な事。お解りでしょう。

 これから実際に日本語を話してみせることによって、

 私があなた方の敵対勢力で無い事を証明してみせますよ』


『姫様、いかがいたしましょう?』


『その男の話を聞くことによって、特にデメリットはなかろう

 よし、話とやらを聞いてみよう』


その言葉を聞くと、とりあえず俺の拘束を解く初老の男。


だが、決して警戒は解いていない…………と素人ながらに思った。


「突然の事で驚かせてしまって申し訳ありません。

 私は………って名乗る程の者でもありませんね。

 ちょっとばかりラバハキア語を話せる、日本のいち大学生です」


「えっ、君、ラバハキア語を話せるのか?

 我が社が全力で探しても、ラバハキア語と日本語を話せる通訳はいなかったのに」


「いえいえ、通訳ができるほどではありません。少しばかり話ができる程度です。

 現在、ちょっとばかり誤解が生じているようなので、その誤解を解かせていただいてよいでしょうか?」


「えっ、そうなのか。もしそうであればむしろ、こちらからお願いしたいくらいだ」


「では、少しばかり失礼します」


そういって、初老の男に再び話しかける。


『という訳で、私が日本語を話せる事に納得いただけたでしょうか?』


『うむ、本当に日本語が話せるようだな。

 もしお前がイドクア宰相の手の者ならば、このように回りくどい事はせんだろう』


初老の男が警戒を解いてくれた………ように感じられた。


 そして、俺は改めて誤解の内容を2人に伝える。


『う~む、そうであったか。

 そなたがいなければ、そのような好条件にもかかわらず、

 我が国を舐めるでない!

 とこの場を立ち去るところであった』


クリームソーダの氷を齧りながら言われても……


注意しなくていいのか、初老の男よ。


オッサンズに事情を説明すると、青ざめた顔をしたり、

おばねえさんに詰め寄ろうとしたり、しきりに俺に感謝したりと忙しい。


そして、隙を見て立ち去ろうとしたのだが、……失敗した。



その後、もう少し細かい条件のすり合わせの通訳につき合わされ、


それでは書面にしてサインをという段階になった時、


会話ぐらいはできますが、書面は無理ですよ、読み書きはできませんから、


と告げ、やっとお役御免になった。


一段落ついたので、トイレに行くと言って、やっとの事で逃げ出せた。


話は粗方まとまったから、もう逃がしてもいいと思ったのか、


これだけ付き合わされて報酬も貰わすに逃げはしないと思ったからなのか。


前者であれば、今後関わることはないだろうし、


後者であれば、実は報酬を貰っている。


いや、正確に言えば貰っていないが、払って貰っている。


やつらのテーブルに俺の伝票を置いてきたからな。


何にせよ、逃げ出せてよかった。


もう、こんなの二度と御免だ。




翌日、俺は新聞を読んで知ることになる。


日本のとある大企業とラバハキア王国の間で、レアメタルに関して継続的な取引が成立した事を。


やっぱり、新聞は読んどくべきだな。


数週間前に、アフリカの小国でレアメタルの鉱山が発見された事。


その埋蔵量が半端ないこと。


国の名前がラバハキア王国であること。


レアメタル発見以前は、ガーナなどの国にカカオの栽培を学び、それを産業としていたこと。


新聞を読んでいなかったら、知らなかったからな。



それにしても、連絡先を交換しなくて本当によかった。


あんな大企業や、とてつもない埋蔵量のレアメタルで大儲けして、


とんでもない財力を手にするだろう王国。


どっちも関わりあいたくない。


うまいこと話を逸らして、名前すら教えなかった俺、グッジョブ!



しかし、俺はまだ知らなかった。


日本トップクラスの企業の情報収集能力を。


数分後に、教えてもいない俺のメールアドレスに、件の大企業からお礼のメールが届くまで。


お礼をしたいので是非お会いしたいという文面をみるまでは。



そして、俺は完全に舐めていた。


大量のレアメタルによって莫大な財力を手に入れた王国の行動力を。


俺の家の前に超高級車が停まり、そこから降りてきた初老の男が、


俺の家のインターホンを鳴らす、この瞬間


ピンポーン


そう、今まで。



勿論、神でもない、平凡な俺には知りようもなかった。


平凡な俺がおくるはずだった『平凡な人生』から、


『平凡』の2文字が消えてしまった事に。


そして、あらたに『波乱万丈』の文字が加わる事に。

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